【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑮BIMを活用した状態基準維持管理による作業効率向上(連載)

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第一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題①BIM を活用した管理領域、OIR の定義(連載)

第二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題②ライフサイクルコンサルティング業務(連載)

第三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題③ISO19650 プロセスと情報要件定義(AIR)(連載)

第四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題④国際標準、オープンBIM、IFCの説明(連載)

第五回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑤ソフトウェア・エコシステムの俯瞰(連載)

第六回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)

第七回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑦CDEの位置付け(鹿島用途)(連載)

第八回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑧設計、属性情報の管理プロセス(dRofus)(連載)

第九回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑨引渡、FM 向け、レコードモデルの比較(SimpleBIM の利用)(連載)

第十回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑩ライフサイクル BIM 更新プロセス (連載)

第十一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑪BIM を活用した FM (連載)

第十二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑫建物アーカイブのデータベース構築、更新作業の削減(連載)

第十三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑬BIMを活用したファシリティーコスト(連載)

第十四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑭BIM に紐づけた FM 業務データの相乗効果による付加価値(連載)

「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

概要

事業の目的

鹿島建設では、令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(パートナー事業者型)として、「BIM を活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェア・エコシステムによる支援の検証」を実施しています。

大きなテーマとしては以下2点を掲げています。

  1. ①BIM データの活用・連携に伴う課題の分析
  2. ②BIM の活用による生産性向上、建築物・データ価値向上、様々なサービスの創出等を通じたメリットの検証

さらにテーマを分析する課題として、下記2つの課題を設定。

  • 課題 A) 運営維持段階へ引き渡す BIM の作成、資産情報モデル(AIM)の整備と情報共有プロセスの最適化
  • 課題 B) 運営維持段階で活用するライフサイクル BIM の整備、情報の充実化、更新、情報価値の向上

次世代BIM-FM検証のために必要なBIMに対する情報要求をプロジェクトの初期段階で確定し、BEPに反映させます。BIMに加えてスマートBMソリューションとの連携によってデジタルツインを構築し、建物の情報を一元管理。現在の情報管理プロセスの非効率性と冗長性を継続的に特定・改善し、BIMデータの有効性、恒久性、拡張性、及び、公共性を確保することを目標としています。

物件概要

課題AとBについて、新築・既存物件の場合において検討ができるよう、新築物件の「博多コネクタ」と既存物件の「両国研修センター」を対象物件としています。

新築物件である博多コネクタ(旧名:博多駅前四丁目)は、鹿島建設が中長期的に所有している賃貸オフィスビルです。ビル管理業務(以下 BM 業務)と不動産管理業務(以下 PM 業務)の双方を鹿島建物総合管理が実施しており、当該物件の BM・PM 業務の状況について、定期的に報告を受ける体制を築いています。このため、鹿島グループが連携して組織・AIR を整理し、データベースの構築を行うことが可能となっています。

既存物件で改修工事を行う両国研修センターは、鹿島建物総合管理が所有者で、社員の運営維持管理業務の研修のために利用している施設です。鹿島建設は鹿島建物総合管理とともに、グループ連携の一環として、オープン BIM を活用した FM ソリューション(施設の運営維持管理)や、鹿島のスマート BM(以下スマート BM)との連携等を開発する対象物件として、両国研修センターを 3 年前に選定。その過程において、当該物件の施設管理の最適化の検証に着手しています。

検証する課題:BIMを活用した状態基準維持管理による作業効率向上

検証の内容

BIMの建物アーカイブの資産に点検情報、センサーデータを登録し、建物全体の状態をリアルタイムに追跡することについて検証しました。また、建物のリアルタイムでの物理的な調査がシステム上一目瞭然分かるようになるための「ビューアー開発」も行いました。最終的に、劣化状況を把握する上で必要最小限の維持作業のみを特定して実施することとなり、これが作業効率化に繋がることを検証中です。

本検証の具体的な目標として、BIMの建物アーカイブの資産に、点検の結果やセンサーデータを資産の状態として登録し「建物の状態をリアルタイムに追跡できるため維持管理作業量を10%削減する」ことを設定しました。

検証結果

前の検証と同様、作業に必要な時間、費用(人工)を二つのシナリオで検討しました。

  • シナリオ①(比較基準)不具合に対応する時間、維持管理費用
  • シナリオ② 状態基準維持管理の場合の時間、費用

従来の方法で劣化度を把握するには、「中央監視から設備の運転時間を抜き出して、当該設備の耐用年数を調べた上で単純な劣化度を調べる」という作業が都度必要でした。設備の劣化度の把握に加えて、部屋の環境情報のモニタリング、施設の環境目標の設定とそのフォローアップにBIMを使用します。ユーザーはリスク分析を行ない、材料の環境損傷を評価し、その結果を建物要素と資産の保全計画に反映します。

中央監視データ連携によるリアルタイム劣化度管理、部屋のモニタリング機能は現在開発中で、結果を中長期保全計画に反映するまで時間が掛かってしまいます。そのため実際の作業を行う時の効果の測定、比較までには至りませんでした。システム上に必要な情報が入ることにより上記の労力が削減できる可能性がありますが、現在準備段階です。これができれば、目標の 10%どころか「90%近く」が削減できると想定されます。さらに、ビルオーナーとの設備修繕・更新検討の際の合意形成の根拠資料作成等の軽減にも繋がると考えられます。

まとめ

中央監視システムとの連携は本検証の前提条件ですが、物件によっては中央監視システムが利用されないケースがあります。さらに、これから単独センサーや、IoT プラットフォームが導入されるケースも増えると想定されます。そのためソフト・エコシステムに加え、ハード・エコシステムも含めて整理が必要でしょう。

また中央監視データ連携によるリアルタイム劣化度管理、部屋のモニタリング機能は現在も開発中で、結果を中長期保全計画に反映するまで時間がかかります。今回の検証では実際の作業を行う時の効果の測定・比較までには至らなかったため、検証の余地があります。