【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑫建物アーカイブのデータベース構築、更新作業の削減(連載)

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第一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題①BIM を活用した管理領域、OIR の定義(連載)

第二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題②ライフサイクルコンサルティング業務(連載)

第三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題③ISO19650 プロセスと情報要件定義(AIR)(連載)

第四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題④国際標準、オープンBIM、IFCの説明(連載)

第五回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑤ソフトウェア・エコシステムの俯瞰(連載)

第六回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)

第七回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑦CDEの位置付け(鹿島用途)(連載)

第八回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑧設計、属性情報の管理プロセス(dRofus)(連載)

第九回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑨引渡、FM 向け、レコードモデルの比較(SimpleBIM の利用)(連載)

第十回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑩ライフサイクル BIM 更新プロセス (連載)

第十一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑪BIM を活用した FM (連載)

「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

概要

事業の目的

鹿島建設では、令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(パートナー事業者型)として、「BIM を活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェア・エコシステムによる支援の検証」を実施しています。

大きなテーマとしては以下2点を掲げています。

  1. ①BIM データの活用・連携に伴う課題の分析
  2. ②BIM の活用による生産性向上、建築物・データ価値向上、様々なサービスの創出等を通じたメリットの検証

さらにテーマを分析する課題として、下記2つの課題を設定。

  • 課題 A) 運営維持段階へ引き渡す BIM の作成、資産情報モデル(AIM)の整備と情報共有プロセスの最適化
  • 課題 B) 運営維持段階で活用するライフサイクル BIM の整備、情報の充実化、更新、情報価値の向上

次世代BIM-FM検証のために必要なBIMに対する情報要求をプロジェクトの初期段階で確定し、BEPに反映させます。BIMに加えてスマートBMソリューションとの連携によってデジタルツインを構築し、建物の情報を一元管理。現在の情報管理プロセスの非効率性と冗長性を継続的に特定・改善し、BIMデータの有効性、恒久性、拡張性、及び、公共性を確保することを目標としています。

物件概要

課題AとBについて、新築・既存物件の場合において検討ができるよう、新築物件の「博多コネクタ」と既存物件の「両国研修センター」を対象物件としています。

新築物件である博多コネクタ(旧名:博多駅前四丁目)は、鹿島建設が中長期的に所有している賃貸オフィスビルです。ビル管理業務(以下 BM 業務)と不動産管理業務(以下 PM 業務)の双方を鹿島建物総合管理が実施しており、当該物件の BM・PM 業務の状況について、定期的に報告を受ける体制を築いています。このため、鹿島グループが連携して組織・AIR を整理し、データベースの構築を行うことが可能となっています。

既存物件で改修工事を行う両国研修センターは、鹿島建物総合管理が所有者で、社員の運営維持管理業務の研修のために利用している施設です。鹿島建設は鹿島建物総合管理とともに、グループ連携の一環として、オープン BIM を活用した FM ソリューション(施設の運営維持管理)や、鹿島のスマート BM(以下スマート BM)との連携等を開発する対象物件として、両国研修センターを 3 年前に選定。その過程において、当該物件の施設管理の最適化の検証に着手しています。

検証する課題:建物アーカイブのデータベース構築、更新作業の削減

前回までの内容で、建物に関するすべての基本情報を構造化して格納してきました。ここでは、ライフサイクルコンサルティングに基づき作成したBIMデータの利用によって、「運営維持管理段階の初期設定、建物アーカイブの構築に費やす時間、労力と費用が節約できる方法」を検証しています。

検証Aの目標として、「建物アーカイブの構築とデータ更新に費やす時間、労力と費用を10%節約する」ことを設定し、検証していきます。

検証シナリオ

データ入力・更新作業に必要な時間及び費用(人工)を、以下の二つのシナリオで求めました。

  • シナリオ①:(比較基準)マニュアルデータ入力・更新
  • シナリオ②:BIMアップロードとAPI連携による自動入力・更新

ちなみにシナリオ①は従来の方法で、施設情報(資産台帳、作業台帳)の管理に利用しているこれまでの FM ソフトを用いて部屋・設備台帳を作成する作業となっています。この従来型 FM ソフトは、資産情報や作業情報を包括的に管理できるソフトです。しかし「BIM を利用しない」という点がMainManager との大きな違いとなっています。そのため従来型 FM ソフトと ainManager を、それぞれ 「BIM 無と有」のシナリオとして比較検討しました。ただし従来型 FM システムと ainManager の間の連携は行われています。

費用と労力(博多・研修センター)

博多コネクタ

労力

①建築:新和訳付与⇒5 工数
②部屋:拾い出し⇒0 設定⇒0
③設備:新和訳付与⇒5工数、拾い出し⇒0、規格登録⇒3.5 工数、資産登録⇒7 工数

費用 (※建管作業のみ)

BIM 作業含む :45000×20.5=約 922,500 円
BIM 作業含まない:45000×10.5=約 472,500 円

研修センター

労力

①建築:新和訳付与⇒1工数
②部屋:拾い出し⇒0 設定⇒0
③設備:新和訳付与⇒1工数、拾い出し⇒0 、規格登録⇒1工数、資産登録⇒1工数

費用 (※建管作業のみ)

BIM 作業含む :45000×2 =約 90,000 円
BIM 作業含まない:45000×4=約 180,000 円

MainManagerの建物アーカイブには「BIM処理機能」があり、IFCファイルに格納されている属性情報を規格登録、資産登録に利用できます。このため何万個ものBIM要素情報を一括登録し、属性マッピングの設定まで適切に行えば、情報更新は自動的に行われます。ただし、純粋に資産情報登録・更新のみを比較すると実際に掛かる労力にはならないため、資産登録の為に必要なBIM編集(例えばUniclassコードの追加等)も計算に含めました。

結果

BIM 編集を含まない:47.5%
BIM 編集を含む:0%

資産登録プロセスの自動化はできたものの、BIM に想定以上の時間が必要ということが分かりました。

まとめ

今回は単独建物の場合として、規格登録、資産登録に必要な作業を比較しました。特に規格登録は、データベースに追加する物件数が増えれば増えるほど「既存のデータを利用可能」で新規登録の項目数が減ることに。BIM と共に分類体系を利用するポートフォリオにおいては、あらゆる情報管理効率化が可能となります。建物、階、スペース、屋外エリアの登録は、データの構造化や見える化等に役立ち、ユーザーインターフェースで直観的に操作ができるようになります。

BIMを活用すれば、BIM を活用しない手入力に比べて資産台帳登録の時間を半分近く削減できました。前提条件としては、BIM を FM 向けに作成し、BIM要素名、属性情報、分類情報などが統一された形で入力されることが必要です。

また純粋に資産情報登録、更新のみを比較すると実際に掛かる労力にはならないため、資産登録のために必要な BIM 編集(例えば Uniclass コードの追加等)も計算に含めました。その結果、現時点では作業の負担が減らず、BIM 編集作業の時間が資産登録作業の節約分を超えることが分かりました。資産登録プロセスの自動化はできるものの、BIM に想定以上の時間が必要でした。コスト削減のメリットやBIM の編集に必要な作業、費用負担はお互いを相殺するという結果になりました。