【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)

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第一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題①BIM を活用した管理領域、OIR の定義(連載)

第二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題②ライフサイクルコンサルティング業務(連載)

第三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題③ISO19650 プロセスと情報要件定義(AIR)(連載)

第四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題④国際標準、オープンBIM、IFCの説明(連載)

第五回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑤ソフトウェア・エコシステムの俯瞰(連載)

第六回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)

第七回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑦CDEの位置付け(連載)

第八回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑧設計、属性情報の管理プロセス(dRofus)(連載)

第九回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑨引渡、FM 向け、レコードモデルの比較(SimpleBIM の利用)(連載)

第十回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑩ライフサイクル BIM 更新プロセス (連載)

「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

概要

事業の目的

鹿島建設では、令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(パートナー事業者型)として、「BIM を活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェア・エコシステムによる支援の検証」を実施しています。

大きなテーマとしては以下2点を掲げています。

  1. ①BIM データの活用・連携に伴う課題の分析
  2. ②BIM の活用による生産性向上、建築物・データ価値向上、様々なサービスの創出等を通じたメリットの検証

さらにテーマを分析する課題として、下記2つの課題を設定。

  • 課題 A) 運営維持段階へ引き渡す BIM の作成、資産情報モデル(AIM)の整備と情報共有プロセスの最適化
  • 課題 B) 運営維持段階で活用するライフサイクル BIM の整備、情報の充実化、更新、情報価値の向上

次世代BIM-FM検証のために必要なBIMに対する情報要求をプロジェクトの初期段階で確定し、BEPに反映させます。BIMに加えてスマートBMソリューションとの連携によってデジタルツインを構築し、建物の情報を一元管理。現在の情報管理プロセスの非効率性と冗長性を継続的に特定・改善し、BIMデータの有効性、恒久性、拡張性、及び、公共性を確保することを目標としています。

物件概要

課題AとBについて、新築・既存物件の場合において検討ができるよう、新築物件の「博多コネクタ」と既存物件の「両国研修センター」を対象物件としています。

新築物件である博多コネクタ(旧名:博多駅前四丁目)は、鹿島建設が中長期的に所有している賃貸オフィスビルです。ビル管理業務(以下 BM 業務)と不動産管理業務(以下 PM 業務)の双方を鹿島建物総合管理が実施しており、当該物件の BM・PM 業務の状況について、定期的に報告を受ける体制を築いています。このため、鹿島グループが連携して組織・AIR を整理し、データベースの構築を行うことが可能となっています。

既存物件で改修工事を行う両国研修センターは、鹿島建物総合管理が所有者で、社員の運営維持管理業務の研修のために利用している施設です。鹿島建設は鹿島建物総合管理とともに、グループ連携の一環として、オープン BIM を活用した FM ソリューション(施設の運営維持管理)や、鹿島のスマート BM(以下スマート BM)との連携等を開発する対象物件として、両国研修センターを 3 年前に選定。その過程において、当該物件の施設管理の最適化の検証に着手しています。

分析する課題:共通データ環境CDE-BIMsyncの説明

ここでは、CDE(Common Data Environment=共通データ環境) の概要と、本プロジェクトにおける CDE 採用の判断基準の2点についてそれぞれ紹介していきます。

CDEの概要

CDEとは

CDEとは、BIM 情報管理の国際標準(ISO19650)で定義されている「共通データ環境」のことを指します。BIM モデルや図面・仕様書など建設業に必要な情報を受け渡す場や、BIM のワークフローを効率化するためのデータプラットフォームというとイメージしやすいでしょう。CDE にアクセスすることで、プロジェクトに必要な情報の入手、情報共有、モデリングや種々の調整業務を効率的に行うことができます。

CDEのステータス

CDE に格納されるデータには①「作業中」、②「共有」、③「公開」の 3 つのステータスがあります。

  1. ①「作業中」:タスクチーム(ある BIM モデルを編集するユーザーのまとまり)が作業している状態
  2. ②「共有」:作業が完了した後にプロジェクト内の他タスクチームと共有した状態
  3. ③「公開」:確定・承認された情報を別の新しいプロジェクトや資産運用などで利用するためプロジェクト外に公開した状態

各メーカーから公開されているCDE は、これら3つのステータスのデータを効率的に利用するための機能(それぞれ「作業用機能」「共有機能」「公開機能」とする)、データの作業履歴を記録する機能(「アーカイブ機能」とする)、他システムとのデータ連携を実現する「データ連携機能」を備えています。

CDEの機能とは

ここでは、CDEの備えている機能について詳しく解説していきます。

CDEの機能①作業用機能

「作業用機能」は「チームワーク機能」と「問題管理機能」に分けられます。

まず「チームワーク機能」は 、CDE 内に保存された BIM モデルを複数人で同時に閲覧・編集する機能です。この機能はオーサリング・ソフトウェアの開発社が提供している CDE に限定される傾向が見られます。たとえば、ARCHICAD 用のチームワーク機能は GRAPHISOFT 社の BIMcloudのみ、Revit 用のチームワーク機能は Autodesk 社の BIM360 のみが搭載していることからも読み取れるでしょう。

一方で「問題管理機能」は、BIM モデル上で干渉などの問題が発生したときに、その問題の概要、担当者、問題へのコメントなどを問題リストで集約管理する機能です。問題リストは CDE上で直接編集したり、各ソフトウェアのアドオンや API を用いて編集したり、BCF ファイル(問題データの標準形式)をインポートして登録することができます。また CDE によっては、プロジェクト内の問題を俯瞰するダッシュボード画面を提供したり、メール等で通知したりことで問題是正の遅れを防ぎます。

CDEの機能②共有機能

「共有機能」は、Box や Dropbox、SharePoint に代表されるストレージサービスをイメージすると分かりやすいでしょう。CDE 選択においては、単純なファイル置き場を提供するだけでなく、ファイルのバージョン管理を行う機能や、ウェブブラウザ上で BIM モデルを表示する「モデルビューワー機能」を備えているかが判断材料となります。

CDEの機能③公開機能

「公開機能」は、共有されたデータをタスクチーム以外に公開できる機能です。この機能は「公開」データ専用のフォルダを作成して、該当するファイルを都度移動する運用となることが多いでしょう。ただしBIM360 のように、選択したファイルを公開データ用の領域に転送できる機能を持つ CDE もあります。

CDEの機能④アーカイブ機能

「アーカイブ機能」は、データの変更履歴をログやファイルのタイムスタンプとして保存する機能です。「作業中」データではモデルの編集履歴(Push/Pull の履歴)や問題のログ、「共有」データではモデルやドキュメントのバージョン、「公開」データでは公開されたモデルやドキュメントのバージョンをそれぞれ保存できることが望ましいでしょう(バージョン管理機能)。またこれらの BIM ワークフローの記録とは別に、CDE へのアクセスログやユーザーアカウントの登録履歴などのログも残せるとさらに便利です(ログ管理機能)。

CDEの機能⑤データ連携機能

「データ連携機能」は、他の CDE や既存サービスとシステム間連携を構成するための機能で、主に API として提供されます(CDE API)。BIM モデルや問題データに含まれる情報は、BIM ソフトウェアや CDE なしで取り出すにはある程度の開発技術が求められます。また、オーサリング・ソフトウェアや IFC の仕様変更が定期的に行われるため、ユーザーにとって情報を取り出す仕組みを構築・更新する負担は多大に。そのため、CDE API を利用することは有力な選択肢となるでしょう。

CDE API を利用することで、CDE どうしでデータ転送する仕組みや、ユーザーが利用する維持管理アプリケーションや VR アプリケーション等にデータを受け渡す構築を比較的簡単に実現できます。

CDE 採用の判断基準

BIMでプロジェクトを進めるときは、1 つの CDEにすべての情報を集約するということはせず、フェーズや管理対象、利用ソフトウェアに応じて柔軟に環境を使い分ける方法が適しています。本プロジェクトでは、フローデータ用の CDE としてGRAPHISOFT 社の「BIMcloud」と Autodesk 社の「BIM360」、ストックデータ用の CDE として Catenda 社の「Bimsync」を採用しています。ここでは、それぞれの採用に際して考慮した点をまとめていきます。

CDE 採用の判断基準①どのような機能を備えているか

採用に当たって、「作業用機能」「共有機能」「公開機能」「アーカイブ機能」「データ連携機能」のうちどの機能を重要視するか、どの機能が必須かを考慮していきました。ただし「作業用機能」は「チームワーク機能」と「問題管理機能」、「アーカイブ機能」は「バージョン管理機能」と「ログ管理機能」に分けて評価しています。

まずフローデータ用の CDE では、モデルの編集作業を効率的に行うための「チームワーク機能」、「問題管理機能」、「共有機能」、作業状況を確認したり、データ不備が発生したときロールバックを行うための「バージョン管理機能」、不正アクセスの確認を円滑に行うための「ログ管理機能」を必須項目とし、残りの機能は任意項目としました。

次にストックデータ用の CDE では、フローデータ用 CDE から転送されたデータを蓄積する「共有機能」、ファイルの更新履歴を記録するための「バージョン管理機能」、不正アクセスの確認を円滑に行うための「ログ管理機能」、他システムでデータを利用するための「データ連携機能」を必須項目に。一方、「チームワーク機能」、「問題管理機能」、「公開機能」については、フローデータ用の CDE から公開されたデータを格納すれば良いので任意項目としました。

CDE 採用の判断基準②「ネイティブデータ軸」か「IFC データ(オープン BIM)軸」か

ポイントは次の 2 点となります。

① フローデータ用にはオーサリング・ソフトウェア専用の機能を利用するため、「ネイティブデータ軸」の CDE を採用する。
② ストックデータ用には、他システムとの連携や恒久性担保を重視し、「IFC データ軸」の CDE を採用する。

フローデータ用の CDE では「チームワーク機能」、「問題管理機能」を搭載した「ネイティブデータ軸」、また、ストックデータ用の CDE では API による「データ連携機能」を搭載した「IFC データ軸」
の CDE であることを要件としています。

まとめ

BIMの共通データ環境である「CDE」の機能について分析し、採用の判断基準についてもまとめてきました。具体的にはストックデータ用の CDE では、フローデータ用 CDE から転送されたデータを蓄積する「共有機能」、ファイルの更新履歴を記録するための「バージョン管理機能」、不正アクセスの確認を円滑に行うための「ログ管理機能」、他システムでデータを利用するための「データ連携機能」を必須項目としています。BIM運用の際には、今回の結果をぜひ参考にしてみてください。