【LasVegas】世界のデザインと創造の祭典、オートデスクユニバーシティを独自レポート!(前編)

2023年11月、米国でAutodesk University(オートデスク・ユニバーシティ)が開催されました。本記事では講演の内容や、日本と海外を比較して得られた気付き等についてご紹介します。Design+Makeの新たな可能性を体感してみましょう。

Autodesk Universityとは?

Autodesk University(以下AU)は、Autodesk,Inc.(本社:米California州SanFrancisco、代表:AndrewAnagnost社長兼CEO、以下AD社)が毎年11月に開催する私企業のイベントであり、建設業、製造業、Media&Entertainment業界用のアプリケーションやクラウドを展開する同社が世界中から招くクライアント、パートナー、ユーザに向けて、自社の最新の考えと技術の紹介、および参加者同士がそれぞれの取り組みについて共有する場を提供する大規模な年次カンファレンスです。

今年は、11月13日から15日にかけてラスベガスのThe Venetian Convention Center&Exp.を舞台に開催され、世界中から12,000人以上のデザイナー、エンジニア、AEC関係者、クリエイターらが一堂に会し、約600のセッション(AUではこれをクラスと言います)を通して学び、コミュニケーションし、議論し、Design+Make(Designと創造)の新たな可能性を探求する場となりました。

直後に開催されるLasVegasF1の準備のため、Course内に位置する会場周辺が途中からものものしい防護壁と警備陣で囲まれる中での開催となりましたが、むしろその雰囲気が会場をさらに熱く演出しているようでした。

AU の構成

会場となる The Venetian Convention Center & Exp.は、Las Vegas の中心部に位置し大中小の 会議室群と複数の大展示空間とを持つコンベンションセンターです。日本の DX 関連の展示会が展示空間の中に各社のブースを並べ、展示も説明も同じ場で行うのに対し、AU では各社による製品展示とその背景にある考えの説明とは隣接 し合う展示空間と会議室群のそれぞれで個別に開催され、参加者が双方を行きかう形となります。
参加者には、関心を持 ったテーマについて語るセッションを聴いた足でそのまま展示空間に赴き製品を確認するという経験が可能となります。

3種類に分かれるClassとは

期間中実施された全てのセッションは Class と総称され(以下ではこの Class との表記を用います)、3 日間合計で 594 開催 された Class はその位置付けから大きく、General SessionForumLearning Session+Theater Talk に分かれ れます。

General Session は本カンファレンスの基調講演であり、AD 社の首脳陣による来年以降の基本方針を語る 場として、初日と 2 日目に開催され、最も大きい会場に両日とも凡そ 12,000 人の参加者を集めて実施されました。言わ ば AU に入学するための必須講義であり、本カンファレンス全体の骨格となる内容でした。

初日の1は CEO と同社 Business の基本分野(AEC(Architecture,Engineering,andConstruction), Construction, Design+Manufacturing, Media+ Entertainment、APS(Autodesk Platform Services))をそれぞれ率いる5人の上級副社長クラスによる講演であり、2 日目の 2は 同様に COO による同社の今後の基本方針に関する講演でした。

General Session 1 の開演を待つ 12,000 人の参加者

Forum は、General Session の補足講義のようなもので、General Session の構成をそのまま受け継ぎ、AEC  Design Industry Forum、Construction Industry Forum、Design & Manufacturing Industry Forum、Media &  Entertainment Industry Forum、Platform Services Industry Forum の 5 つに分かれ、各部門で活躍する AD 社の開発リーダーらが、時に他社からのゲストを交えて語る、より細分化された Class でした。選択の関係で全て視聴できませ んでしたが、各分野から一つずつ視聴しただけでも、これら補足講義により General Session の内容がより確実にカンファレンス全体に浸透していくものと感じました。

Learning Session+Theater Talk は、世界各所から集まった AD 社の Client、開発上の Partner、そして User である多種多様な機関・企業・個人がそれぞれの設定したテーマに基づいて語る場であり、中小会議室およびそれ ら周辺の様々な空間・場所で実施されました。AU ではこのテーマを Topics と称します。(以下ではこの Topics との表 記を用います)3 日間で実に総計 588 の Learning Session が開催され、Topics の趣旨に沿うよう多様な会場構成を利用 して Industry Talk, Instructional Demo, Panel, Hands-on Lab, Roundtable といった様々な形式で視聴できるよう工夫されていました。

Industry Talk 形式の Learning Session
Instructional Demo 形式の Learning Session

カンファレンスが緻密に構成されているのはこうした側面のみならず、たとえば大会場での朝食・昼食サービス、随時至る所でティーブレイク、スイーツタイム、そして初日前夜と最終夜には大規模なパーティ開催と、飲食においても至れり尽 くせりの感がありました。スーパーブロックである Las Vegas の都市構造では歩行移動が大変となることもあり、多くの参加者は会場内ないし周辺のホテルと会場との往復で 3 日間過ごすことになります。

参加者は、開催の数週間前から配信される専用アプリケーション上で各 Classのサマリーを参照し、関心のあるTopicsの Class に申し込み、各自の 3 日間のカリキュラムを組みます。AU の名の通り、ここは大学なのです。

筆者の 3 日間の Class カリキュラム

そして、 数百におよぶ Learning Session+Theater Talk は AD 社の敷くプラットフォーム上で多種多様に花咲くテーマのバリエーションとなります。人気のレクチャーはすぐ満席となりますが、ウェイティングリストに入れられ空きが出れば入ることができます。会場はスマートフォンを片手に次の Class の場所を探して彷徨う参加者でごった返していました。

各 Class 前にはインフォメーションボードが設置されています
Las Vegas らしく会場の一角にはこんなコーナーも

核となるGeneral SessionとForum

General Session の、1日目はDesign+Make(Design と創造)を取り巻く現在の課題とその解決の展望をAD 社の ビジネスにおける基軸となる既述の 5 業態(AEC, Construction, Design+Manufacturing, Media+Entertainment、APS(Autodesk Platform Services)に沿って語る場となりました。そしてこれらを General Session の補講である Forum によって更に細分化して語り、カンファレンス全体に浸透させていきます。

General Session は初日と 2 日目のそれぞれ午後一番に、Forum も 2 日に分けて General Session の直後 にそれぞれ置かれ、これらの 2 つによりカンファレンス全体が規定されるようになっていました。

これを核として、世界中から集まった参加者による Learning Session+Theater Talk がちりばめられ、 General Session および Forum の定める方向性の上で、あるいは時にそれらから離れ、多様なTopicsについて語り合います。その様子はさながら、世界のデザイナー・創造者たちにとってAD社の敷くプラットフォームがデザインと創造の基盤の一つとなる現在の世界の縮図のように感じられました。不確実で不安定な現在の世界にあって、確かなセキュリティにより保たれた基盤が、至る所で製造と創造に存在と展開の場を与えている様です。

尚、AU の公式 HP には後日、594 の全 Class の記録が公開されており、Class は、Industry(先の 5 分野)、 Product(Revit や BIM360 など AD の製品)、 Learning content type(Class の Type;Keynote, Industry Talk,  Instructional Demo, Panel, Hands-on Lab, Roundtable)、Topics(21 に整理された Topics)といったカテゴリーにより 検索できるようになっています。これらカテゴリーもこの巨大なカンファレンスをひも解く入り口となります。

AUで語られたこと

ここから、各Classのレポートをご紹介します。AU公式サイトではあらかじめ、デジタルの未来が、

  • クラウドベースのプラットフォーム
  • データのシームレスな接続
  • AIの適用

の3つの柱によって支えられていくであろうと掲載されていました。

数百のセッションがあると聞いていたため、全体の話の骨格をどこに見出すのか不安を感じていましたが、初日のGeneral Session Day1 は、この3点がベースとなる話であり、カンファレンス全体を通してこの3点が掘り下げられる旨も示唆されたため、その不安は解消されました。
参加者間で共有し得る骨格があることで、この巨大なカンファレンス会場の中で、(身体は何度も迷子になりましたが)思考は迷子にならずに済みました。

基調講演General Session 1:Autodesk社のプラットフォームを取り巻く現状への認識と今後のビジネスの方向性について

まずAD社の社長兼最高経営責任者(CEO)のAndrew Anagnost氏が登壇し、新商品であるAutodesk AIなどを中心に、同社のプラットフォームを取り巻く現状への認識と今後の方向性について語りました。

Anagnost氏は先ず、「インフレーションや軍事的侵攻などのサプライチェーンへの脅威、労働力不足などの課題を前提に、世界の不確実性は加速している」と述べ、テクノロジーの重要性を強調しました。
そして、「然し、そのテクノロジーもまた今や同様に加速的に変容し、私たちの働き方に影響している。テクノロジーの発展に伴い、ソフトウェアツールは複雑になり、データの細分化も始まっている。デジタル時代は同時にデータの時代でもあり、膨大なデータがそれを扱う人間に大きな負荷を与えるようになる。たとえば、膨大なデータ蓄積から必要なファイルを探し出すことに非生産的・非創造的な時間を費やしている。現在は、もはやファイルの時代ではなく、データの時代。データ管理からデータ活用の段階にある」と続けました。
そしてAnagnost氏は、「私たちが今AIによりビジネスを変える段階、Cusp of New Era(新たな時代の入り口)にきている」とします。但し、「悩ましい課題を抱える現代の作業にフィットする新しいテクノロジーを作り出すのではなく、新しいテクノロジーを活用するために作業方法自体を変えるのだ」と添えて。

ここから同氏は、本カンファレンスのタイトルに冠されているDesign&Make(デザインと創造)における信頼できるパートナーとして、「AIはクライアントの課題を解決し、逆にそれを新しいビジネスの機会に変える」とした上で、AD社は今「Autodesk AI」を世に問うと切り出しました。

Autodesk AIはAutodesk社の製品群に組み込まれ、相互を有機的につなぐプラットフォームであり、複雑な問題に対する最適解を自動的に生成したり、非生産的な作業を最小限に減らしたりすることで、創造に割く時間を大幅に増やすと説きます。
この間により大きな話題を集めていたOpen AIによるAIは、新たな創造を産み出すツールとしての側面が強いものと思っていましたが、同様に莫大な費用をかけ、AIに関する研究と実践を行ってきたAD社は、AIはテクノロジーのOne of themではなく、テクノロジーのMetaにある新たな方法であると、決定的な位置を与えたように思いました。
但し、それはあくまでも各Industryへのプラットフォーム提供の形で現れ、AIの定石である反復からの学習をベースに、不毛なタスクを自動化して最小に追い込み、そこから次の段階である膨大で複雑なデータ分析による予測や洞察を提供していくという、ある意味非常にオーソドックスな流れによるものです。

AD社は既に、製品設計と製造向けの「Fusion」、Media & Entertainment(M&E)向けの「Flow」、そして建築・エンジニアリング・建設・運用(AECO)向けの「Forma」といった業態別クラウドサービスを展開しています。「Design & Make Platform」と呼ばれるこれらをつなぐ基盤として「Autodesk Platform Service」が用意されていますが、そこに新たに「Autodesk AI」が適用されるのです。

【デザインと創造①製造】設計・製造のライフサイクル全体のプロセスを如何に統合し効率化するか

ここから5つの基盤分野を担当する上級副社長クラスの登壇です。製造設計・製造ソリューション担当上級副社長のJeff Kinder氏は、「Industry Cloud:Autodesk Fusionが各種の設計ソフトウェアを統合し、設計・製造のライフサイクル全体のプロセスを如何に統合し効率化するか」について語りました。

同氏は、EV Maker Rivian Automotiveの同クラウド採用事例を引き合いにして、同社が車両開発のために新たに取り組んだ設計・製造プロセスに創造的に寄与したと語りました。「部品の迅速な設計と試作にはFusionを、設備設計にはRevitを活用し、設計ツールであるAutodesk AliasとAutodesk VREDの仮想現実(VR)を組み合わせ、各所で開発に当たるチームに設計レビューの共有体験を提供している」と説明します。

更に、コンピュータ支援製造ソフトウェアの切削ツールが加工時にたどる経路生成を自動化するFusion work-flowを開発投入し、ツール自体のProgramming Timeを最大で80%削減できるとしました。そして、更なるサービス向上のため、新たなパートナーシップとの提携を進めているともしました。その中には、製造工場や物流倉庫向け3Dシミュレーションソフトウェアを扱う会社との買収も含まれています。
これにより、工場の設計と運用の両方に関するデータを活用したデジタル・ファクトリーの構想を支援するとし、工場の企画・設計から施工・運営までの全過程に、AD社の工場建設と運用ソリューションを組み合わせ、スマート・ファクトリーを形成したいとしています。

【デザインと創造②Media & Entertainment分野】三位一体の共同作業をより効率的に進めるために

続くMedia & Entertainment Solution担当上級副社長のDiana Colellaは、「ME Cloud:Autodesk Flowは、Artist、Director、Producerの三位一体の共同作業をより効率的に進めるために、ファイルではなくデータ自体をコラボレーションの中心に据える」と語り始めます。

同氏は、テクノロジーによって設計や製造の方法が変化したように、エンターテインメントも例外ではなく、コンテンツの爆発的増大や複雑な制作現場の課題を解決するため、Flowは用意されたと進めます。
FlowはOpen API(Application Programming Interface)によるデータモデルであり、制作現場内の全タイプの情報に対し信頼できる統合機能を果たすとしています。会場ではこのとき、Flowを活用して制作された短編映画が上映されました。Generative Schedulingは、FlowにAutodesk AIを適用した最初の例で、現場のスケジュール管理の精度を一気に高めます。これまで数日かかったスケジュール調整を数分で済ませ、合わせてチームリソースの動向予測やスケジュールを最適調整できるようにしたとしています。
こうしたテクノロジーは、アニメーション制作者とのコラボレーションを産み出し、アニメーション制作ソフトウェアの最新形を産み出しています。これにより、既往の制作ソフトウェアからCGキャラクターをエクスポートして活躍させることもできるようになっています。

【デザインと創造③AEC】建築家、エンジニア、施工者、Asset管理者がプロジェクトデータから最大限の価値を引き出し意思決定を確実に行えるよう支援する方法

続く建築・エンジニア・建設・運用(AECO)Solution担当上級副社長のAmy Bunszel氏は、「AEC Cloud:Autodesk Formaが、建築家、エンジニア、施工者、Asset管理者がプロジェクトデータから最大限の価値を引き出し、コラボレーションの早い段階で重要な意思決定を確実に行えるよう支援する方法」について語りました。
筆者はこれこそBIMが達成しようとした最初の目的であり、BIM自体ではなく、その言わば関連、ないしそう言って差し支えなければ補完ソフトウェアがあって初めてこの目的が達成されていることに、複雑な思いを抱きました。

同氏は先ず、AECO向けCloud Formaが好調でとても速い成長軌道に乗っていると強調しました。確かに、設計者であった筆者もFormaの業界浸透の強度と速度とを感じており、建築による環境の設計、施工、運用に関わるチーム間のワークフローの統合ソフトウェアとして瞬く間に世界の設計界に広まったと認識しています。
建設工程の早期からプロジェクトをデジタル環境下で評価し、AIによる予測分析や自動化機能も活用できるFormaの登場は、鉛筆とT定規で設計を始めた筆者のような世代には感慨深いものがあります。

筆者がとても関心を持ったPJが、このFormaによって推進されたProject Phoenixでした。カリフォルニア州West AucklandのPhoenix Ironworks Steel Factoryが1989年に別の土地に移転して以降、その跡地は約30年に渡り未活用状態にありました。人口増加もあって土地や建設費の高騰が生じ住宅不足が喫緊の課題となる中、比較的低所得でも入手し得る共同住宅としてProject Phoenixが計画されました。
サンフランシスコの海岸地域の平均の約半分の工事費、工期、CO2排出量で建設されることを目指したこの計画に、AECO TeamはAD社のFormaを採用し、言わば現代版のIPD(Integrated Project Delivery)であるIDD(Integrated Digital Delivery)を適用したのです。
モジュール単位でプレファブ建設され現場で組み立てるだけのProject Phoenixは、地域の課題に十分応えているようです。

【デザインと創造⑤デザインと創造の総合】創造の過程の最適時期に想像の目的のために適切なデータを適切なステークホルダーに提示

Platform Serviceおよび新技術担当最高技術責任者(CTO)のRaji Arasu氏は、「各業態用のAutodesk Cloudの基盤となるAutodesk Platform Service Forumが、APIの適用により、創造の過程の最適時期に想像の目的のために適切なデータを適切なステークホルダーに提示することを可能とする方法」について語りました。

その上で、今や世界のサーバーと言っても過言ではない同社の保有データに対するデータセキュリティのガバナンスについて語り、その鉄壁の守りに問題はないと強調しました。
世界的な情報マネジメントの規格であるISO19650もPart-5が情報セキュリティのリスクマネジメントを扱い、規格の中核に据えられるほど、情報セキュリティは大きな課題となっており、同氏はAD社は、AIを通じてクライアントに差異化の優位性を提供できるようにしたいと語りました。ISO19650のPart-5情報セキュリティが既にISO認証の対象となっている欧米では尚更、今後この分野が激しい競争市場になるでしょう。

Anagnost氏は講演の最後に、同社がこの10年以上かけて取り組んできたGenerative Designは、Autodesk AIの起点にあるとして、現在、私たちはAIを設計の自動化、建設現場のリソースマネジメント、建築の設計施工の生産性向上のために適用しているが、将来はもっと凄いことができる。映像制作においては、アイデア出しや脚本作成を通して上映に至る制作プロセスを最適化し、あるいは建設プロジェクトにおいては、設計・製造の事前タスクを自動化し、企画・設計・施工・Asset管理の全工程におけるステークホルダーの能力を一気に強化し、およそ人間の織り成すDesign & Make(デザインと創造)の全てを数段上の次元の創造的な活動に押し上げるものとなるだろう、と締めくくりました。
(尚、筆者が参加できなかった【デザインと創造④建設】Construction Industry Forumでは、Autodesk Construction Platformが施工現場でDDデータを活用する方法を再編していることや、Autodesk Workshop XR により施工関係者が着工の事前に問題を特定し解決策まで検証していることなどが語られていました。)

まとめ

前編では、Autodesk University 2023の構成と基調講演であるGeneral Session 1の内容までを記しました。
General Session 1は本カンファレンスの全体を規定する講演であり、AD社の世界の現状認識と同社がビジネスの基軸とする5つの分野に対する今後の基本方針について語られる場でした。ここに、現状の世界のデザインと創造を支えるプラットフォーム側の最新の考えが凝縮されています。

後編では、この上で繰り広げられたLearning sessionの様子を中心に、世界のデザイナー・創造者たちの活動について記します。

※後編は2023年12月29日公開予定です。