【LasVegas】世界のデザインと創造の祭典、オートデスクユニバーシティを独自レポート!(後編)

掲載日:

2023年11月、米国でAutodesk University(オートデスク・ユニバーシティ)が開催されました。
本記事では講演の内容や、日本と海外を比較して得られた気付き等についてご紹介します。Design+Makeの新たな可能性を体感してみましょう。

▼前編はこちら
https://news.build-app.jp/article/26343/

参加者たちの織り成す多様なTopics

Learning Session+Theater Talkのトピックには、以下のようなものが見られました。
公式HPでは、21トピック、延べ1,016のテーマが語られたとしています。
※以下、()内の数字は言及されたテーマ数

  • SoftwareDevelopment(248)
  • Collaboration(119)
  • VirtualDesign&Construction(108)
  • BuildingInformationModeling(BIM)(100)
  • Animation&VisualEffects(64)
  • Visualization(57)
  • Simulation&Analysis(35),BusinessManagement(34)
  • Modeling(30)
  • ComputationalDesign(27)
  • SubtractiveManufacturing(27)
  • DataManagement(25)
  • BuildingOperations(23)
  • ProjectDelivery(21)
  • ProductLifecycleManagement(20)
  • AR/VR(19)
  • RealityCapture(17)
  • SoftwareTraining(16)
  • CADManagement&IT(10)
  • AdditiveManufacturing(8)
  • MachineLearning(8)

一見して気付くのは、ほとんどのトピックがソフトウェア開発上、あるいはプロジェクト運用上の技術的ないし制度的な方法論であるという点です。
実際、多くの参加者に共通の語り口があり、先ず各参加者が何を解決すべき問題と感じたか、あるいは何を達成したいプロジェクトの目標として定めたか語り、次にそのために、AD社の用意するプラットフォーム上でどのように具体的なソフトウエアを開発したか、あるいは組み合わせたかについて語る、そのような語り口のClassが多かったと思います。あくまでも問題や目標に向かう、各参加者の方法論が問題とされていると思いました。

尚、トピックの多様さ・豊富さに対し、それが解決の対象とする目標は、時代を反映し創造の生産性の向上、カーボンニュートラル、省エネルギーなどに絞られていましたが、欧州からの新しい流れとしてCircular Economy(循環経済)を定める参加者が多い点にも時代を感じました。物質資本主義が今や、情報と非物質の資本主義へと大きく様変わりしています。

ここからは、筆者が視聴した中から、今回のAutodesk Universityに特に多く見られたと感じた3つのLearning  sessionについて記します。

脱炭素の緊急性に対する戦略とソリューション:スウェーデンの技術コンサルタント会社「Symetri」

Symetriは1989年にスウェーデンで設立され、米国とスウェーデンを含む北欧に7つのオフィスを構え1,000名のスタッフを擁する技術コンサルタント会社です。
同社は設計、エンジニアリング、建設、製造ビジネス向けのテクノロジーソリューションとサービスを前提に、最新技術によるビジネスの優位性と生産性の獲得に関する知見・技術を提供しています。Symetriは、AD社のプラチナパートナーであり、近年は、AD社のサステナビリティプラットフォーム上に提示されたAEC分野における脱炭素の緊急性に対する戦略とソリューションにより特に高い評価を得ています。Autodesk University当日語られたプロジェクトも、住宅プロジェクトにおいて同社が提供するソリューションに関する話でした。。
同社のHPではこれを、「人々がパフォーマンスとサステナビリティを向上させるために必要な専門知識とテクノロジーに確実にアクセスできるようにすることで、より良い未来に向けてよりスマートに働けるように支援します」とし、AD社と共につくっていくエコシステムに参加するよう呼びかけています。

本レポートの前半の内容から、Symetri社のような企業こそAD社にとって最良のパートナーであり、ここにプレゼンされた内容こそ模範的なプラットフォーム提供者(AD社)とTecnological Consultantの協働を示しています。

クライアントへの適切な判断情報の提示という基本に立ち戻る:1962年創業の学際的なエンジニアリング会社「ArteliaNordic」

Denmark CopenhagenのArtelia Nordic社は1962年創業の学際的なエンジニアリング会社であり、建築、エネルギー、産業、インフラの事業領域内でコンサルサービスを提供しています。同社がAD社とのコラボレーションで取り組んだのは、Autodesk Platform Services (APS)とローカルデータベース上で構築されたウェブアプリケーションが、設計プロセスを最適化してCO2e排出量評価方法を改善することにより、脱炭素活動におけるクライアントとステークホルダー間のコラボレーションの効果を強化することでした。
このウェブアプリケーションでは、クライアントは事業における設計変更を効率的にシミュレーションすることができ、十分な情報に基づいた意思決定を行うことにより、CO2e排出に伴うコストと時間の両方を効果的に最小限に抑えることができるとしています。
クライアントの意思決定に必要な情報を提示することは、そもそもBIMによる情報マネージメントが目的とする最重要事項です。同社は、そのことを脱炭素という課題の上で実践しています。
更に、AI ChatGPTとデータの統合を図ることでプロジェクトにおける洞察と意思決定が強化され、結果としてより合理化された持続可能な設計プロセスにつながるとしています。このケースも、Arteliaのような企業がAD社にとって最良のパートナーであることを示し、プラットフォーム提供者(AD)とTecnological Consultantの協働の良質なもう一つの事例を見せています。

ISO19650をマネジメント方法論の核に据える:米国のデザイン事務所「Perkins & Will」

Perkins & Willは、1935年米国に設立されたデザイン事務所であり、2022年時点で世界28のオフィスに2,500人のスタッフを擁し、売り上げで全米第2位の設計会社に発展しています。
同社は、BIMによるプロジェクト運営の前提となる情報マネジメントの世界標準規格であるISO19650に早くから意識的であり、現在では、クライアント、設計者、施工者、およびアセット管理者にとってそれを戦略的かつ現実的アプローチの手段として用いることの意義をコンサルティングしています。

このClassのユニークな点は、前述の2案件のように特定の案件を前提にしたAD社とのコラボレーションについて語るのではなく、AD社の提供するプラットフォームサービスとISO19650に基づく情報マネジメントの方法論とを融合させて、如何に新しいプラットフォームマネジメントの方法を引き出すかについて語っている点です。
英国を中心に普及した情報マネジメントは最近ではIPD(Integrated Project Delivery)の本家である米国にも徐々に広まっており、それが特にプラットフォームの発想と親和性を持つことを踏まえ、聴衆のみならずAD社に対しても提案を行うClassとなりました。
最新の課題であるISO19650をプロジェクトマネジメントの方法論に結び付けて考えている点で、特に関心を抱きました。

AI Drivenなクラウドプラットフォームが導くデザインと創造の未来とは?

3日間会場で様々な参加者たちの話を聴くに、筆者には、AUが事前に掲げた「AI Drivenなクラウドプラットフォームが導くデザインと創造の未来とは?」という宿題に対し、参加者が世界中から回答を持ち寄ってきたように思われます。

Learning Sessionを回り、講演者たちとのコミュニケーションを重ねるほどに、世界が共通のプラットフォームの元でともすると画一的になることが危惧される中で、参加者たちがTopicsや目標を共有しながらも多様なアプローチを見せていることに関心を覚えました。
結局、このカンファレンスで見たものは、既述のように、不確実で不安定な世界の中で、確実に確保されたセキュリティにガードされながら、多様な人々が多様な方法論をもって現代の課題に挑む、その協働作業の全体であったように思います。
AD社のような立場がそのガードを担い、世界中のデザイナー・創造者たちが解決の方法論の模索を担う、そういった世界の協働作業の様であったと思います。そして、カーボンニュートラルは今やその達成が危ぶまれていますし、果てしないインフレや収束の見えない軍事侵攻により、世界の不確実性は増していますが、創造者たちは果敢にも工夫を重ねて果てしないソリューションを産み出し対抗していると思えます。

General Session1の中でAD社のAndrew Anagnost社長兼CEOは、各業態用のAutodesk Cloudの基盤となるAutodesk Platform Serviceが、APIの適用により、創造の目的のために適切なデータを創造の過程の最適時期にステークホルダーに提示することを可能とすると語りました。
この際同氏は、これまでファイルの中でデータがともすると固定してしまい、目指すデータがどこにあるか探すという非効率な作業のために創造が大きく妨げられてきたとして、データをファイルから解放しプラットフォーム状に解き放してデータの細分化(粒状化)を進め、プラットフォーム上に自由に浮遊する粒状化データの中から必要な情報が最適なタイミングでユーザーに届く形を実現するとしました。
ただ、それが何のためにどのように必要なのか自体を規定するのはAIをもってしても困難な話で、あくまでもユーザーが自らのプロジェクトの中で自ら規定していくものと思います。そこでは、AD社が器を提供しコンテンツはユーザーによって開発されます。AIとそれを使いこなそうとするユーザーとの間の緊張感の中に、デザインと創造の未来があることを感じつつ、3日間の巨大イベントを後にしました。

海外と日本の違い

怒涛の3日間と筆者が並行して実施している海外調査を重ねてみると、日本からの参加者によるLearning Sessionの内容が少々気になりはじめました。いずれも現在進行中の具体的なPJの紹介を前提に、各社の取り組みを語っておられましたが、欧米や東アジアからの参加者に比べてプロジェクトやソフトウェア自体の説明に偏っている印象を受けました。

BIMの特異な受容の仕方をした日本では、現在も未だ国内各所で、BIMが3Dツールとして捉えられている印象を強く受けます。これに対し、海外ではBIMとはプロジェクトの全体にわたって建設プロジェクトに関する情報を作成および管理するプロセスであるとの認識が一般的です。
この差により、前者においてはあくまでもツールが完成させる結果としてのプロジェクト自体に意識が行き、後者においてはプロジェクトの方法論やマネジメント手法自体、更にはその全体における情報マネジメントの在り方に意識が行くという、大きな相違が生じているように思います。日本からの参加者たちのClassにおいて、そのことを強く感じました。

ISO19650の定めるBIM成熟度ステージの「ステージ-3」によると、「BIMとは、完全なるBIM活用を基に、他産業と連携できる新しいビジネスモデルを作る概念です」とあります。
これは、BIMが最終的に目標とするのは、人・社会・環境への貢献ですが、これをビジネス概念に基づき敢えて言い直すと、新しい時代の課題に対処し得る新しい協働(ビジネス)の在り方を見出すことになるものと思います。
今回ラスベガスに集まった企業の少なくとも2,3割は所謂スタートアップであったと思われることと、この点とが筆者には整合するように思えます。とりわけ米国の建設界は今、こうした新しい方法論を持ち、従来の設計施工といった業態間の垣根を飛び越し、様々な立場から建設の改変に取り組むスタートアップたちが活性化しているように思います。
そして、それらスタートアップの多くが長い歴史を持つ大手企業から独立、ないし支援を受けていると知り、欧米の歴史性・社会的な重層性を感じました。

Autodesk Universityはあらためて、「AI Drivenなクラウドプラットフォームが導くデザインと創造の未来とは?」という宿題に、世界中の創造者たちが思い思いの回答を持ち寄り語り合う場となったと思います。
然し、所謂総括セッションが設定されなかったことからも、未だ決定的な回答は定められず、問いが未来に開かれたまま終幕しています。問いは、参加者たちの今後の創造的活動の中に再度投げかけられているのだと思います。

まとめ

本記事では、Autodesk University 2023のレポート後編をまとめました。建築業界では、労働問題にはじまり、サステナビリティやCO2排出量の削減といった大きな課題への取り組みが加速しています。ここで、日本では依然としてBIMが3Dツールとして捉えられる傾向が強いことから、ともすると話題がソフトウェアの技術的な側面に偏りがちな印象を受けます。
Autodesk Universityで見た世界の最新状況において、参加者たちは従来の設計・施工・維持管理運営といった業態間の垣根を取り払い、必要な形と技術とを柔軟に組み合わせて、より直接的に課題の解決にアプローチしていました。これからの日本の建設業界には、未だ学ぶこところが多いのではないかと強く感じました。

この記事が参考になったら、
ボタンをクリック
今後の記事制作に活用いたします