【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑱完全に統合されたソリューションによる情報管理の満足度向上(連載)
他の連載記事はこちら
第一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題①BIM を活用した管理領域、OIR の定義(連載)
第二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題②ライフサイクルコンサルティング業務(連載)
第三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題③ISO19650 プロセスと情報要件定義(AIR)(連載)
第四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題④国際標準、オープンBIM、IFCの説明(連載)
第五回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑤ソフトウェア・エコシステムの俯瞰(連載)
第六回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)
第七回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑦CDEの位置付け(鹿島用途)(連載)
第八回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑧設計、属性情報の管理プロセス(dRofus)(連載)
第九回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑨引渡、FM 向け、レコードモデルの比較(SimpleBIM の利用)(連載)
第十回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑩ライフサイクル BIM 更新プロセス (連載)
第十一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑪BIM を活用した FM (連載)
第十二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑫建物アーカイブのデータベース構築、更新作業の削減(連載)
第十三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑬BIMを活用したファシリティーコスト(連載)
第十四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑭BIM に紐づけた FM 業務データの相乗効果による付加価値(連載)
第十五回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑮BIMを活用した状態基準維持管理による作業効率向上(連載)
第十六回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑯BIMを活用したスペース管理の効率化(連載)
第十七回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑰BIMに基づくドキュメント管理の有効性(連載)
「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。
概要
事業の目的
鹿島建設では、令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(パートナー事業者型)として、「BIM を活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェア・エコシステムによる支援の検証」を実施しています。
大きなテーマとしては以下2点を掲げています。
- ①BIM データの活用・連携に伴う課題の分析
- ②BIM の活用による生産性向上、建築物・データ価値向上、様々なサービスの創出等を通じたメリットの検証
さらにテーマを分析する課題として、下記2つの課題を設定。
- 課題 A) 運営維持段階へ引き渡す BIM の作成、資産情報モデル(AIM)の整備と情報共有プロセスの最適化
- 課題 B) 運営維持段階で活用するライフサイクル BIM の整備、情報の充実化、更新、情報価値の向上
次世代BIM-FM検証のために必要なBIMに対する情報要求をプロジェクトの初期段階で確定し、BEPに反映させます。BIMに加えてスマートBMソリューションとの連携によってデジタルツインを構築し、建物の情報を一元管理。現在の情報管理プロセスの非効率性と冗長性を継続的に特定・改善し、BIMデータの有効性、恒久性、拡張性、及び、公共性を確保することを目標としています。
物件概要
課題AとBについて、新築・既存物件の場合において検討ができるよう、新築物件の「博多コネクタ」と既存物件の「両国研修センター」を対象物件としています。
新築物件である博多コネクタ(旧名:博多駅前四丁目)は、鹿島建設が中長期的に所有している賃貸オフィスビルです。ビル管理業務(以下 BM 業務)と不動産管理業務(以下 PM 業務)の双方を鹿島建物総合管理が実施しており、当該物件の BM・PM 業務の状況について、定期的に報告を受ける体制を築いています。このため、鹿島グループが連携して組織・AIR を整理し、データベースの構築を行うことが可能となっています。
既存物件で改修工事を行う両国研修センターは、鹿島建物総合管理が所有者で、社員の運営維持管理業務の研修のために利用している施設です。鹿島建設は鹿島建物総合管理とともに、グループ連携の一環として、オープン BIM を活用した FM ソリューション(施設の運営維持管理)や、鹿島のスマート BM(以下スマート BM)との連携等を開発する対象物件として、両国研修センターを 3 年前に選定。その過程において、当該物件の施設管理の最適化の検証に着手しています。
検証する課題:完全に統合されたソリューションによる情報管理の満足度向上
BIM に連携したユーザーエクスペリエンス(UX)を中心とする開発ソリューションとして、「BIMとGISの利用によるコミュニケーションの円滑化に伴う、業務方法の改善効果」を検証します。目標として、ソリューション利用者の満足度評価と、満足度向上について設定しました。
ソリューションの利用者の満足度
シナリオ①:(比較基準)BIMを利用しないコミュニケーション
シナリオ②:BIM を利用するコミュニケーション
シナリオ①
テナント・オーナーとのコミュニケーションはメール、電話、報告書、定期的な会議での周知、共有、相談を図る手段が主となっています。
シナリオ②
建物利用者がアプリでつながり、建物外部のトラブルを地図上で選択し管理者へ送信し、また3D でトラブルを送信できることで、管理者として具体的な場所の特定やリアルタイムの情報の取得が可能となります。システムを通じて、時と場所を選ばずに建物利用者に対して様々な周知をリアルタイムで共有できるようになります。またこのような取り組みは、利用者にとって有益であるかそうでないかを図るためのアンケート機能を駆使することにより、より満足度の高いサービス提供するための PDCA サイクルを築けると考えられます。
まとめ
本事業は、施設の運営維持管理における長期的で戦略的な考え方を基軸に据えて、ライフサイクルコンサルティング業務のあり方を試行錯誤を重ね検討してきました。このためBIM モデル作成に初期段階から関与する体制を事業の遂行にあたり検討し、構築しました。ただし現状では、組織の本格的なチェンジマネジメントを行わない限り、諸組織をまたがる課題がいくつか残っています。特に BIM の最適化や、更新を含む情報管理プロセスを製錬しながら業界変更に俊敏に対応できる組織体制を築く必要があることが明らかになりました。
BIM については作業負担と費用を軽減するために、鹿島グループを始めとした協力会社、専門組織と協議しながら情報要件の定義づけを継続して行いました。また情報管理関連のあらゆる作業について、自動化の可能性を探求しました。全体として、BIM 属性情報を定義するダイナミックな手法を考えながら、それを支援するツール(dRofus や SimpleBIM)を含めた検討を実施しました。当該の検討は今後も継続し、より良質で低コストの維持管理 BIM を目指す予定となっています。
施設の長寿命化を促進するためにデータの価値を向上し有効性を保つように、諸データの標準化や抽象化について検討しました。IoT、AI 等の発展に対応してオープン BIMの「デジタルツインとしての活用」ができるように、BIM データの帰属や著作権やリスク等の課題を整理しながらBIM-FM のビジネスモデルを成熟させていく必要があります。こうした取り組みを通じてBIM 関連作業が軽減されれば、管理者への負担よりもメリットの方を強調できるようになるでしょう。
IFC スキーマと協調しながら、他のスキーマと分類体系(Uniclass2015、SfG20 等)を使用しました。これによりUniclass2015 を国内の類似の分類コードに比較し、建物ライフサイクルを通してステークホルダーによってより使いやすい分類体系を開発することも可能となってきました。一方でBIM を利用してFM ソリューションを検証した際に、パフォーマンスの課題も表出してきました。BIM の詳細度(LOD)に関連する課題を解決するために情報量(LOI)を充実化し、幾何学情報を簡略した BIM モデルの検討がさらに必要であることが分かりました。
検討したソフトウェア・エコシステムでは、社内における設計・施工 BIM の連携を実現し、竣工後の建物 OS、スマートシティー等デジタルツインへの展開を見据え、データプラットフォームの構築を目指しました。 ストックデータについては、IFC データを軸としたデータ連携を想定し各種ソフトウェアとの API 連携を機能開発しました。IFC モデルによって恒久性を担保するとともに、維持管理ソフトウェアや自社開発の進捗管理システム、VR アプリ等とのデータ連携基盤を構築しました。センサーの利用範囲の拡大が期待され、例えばセンサー、機器と環境情報の関係性の整理に着手することができました。
加えてISO 19650 等の国際規格を使用することで、全体的に再現可能な結果が得られました。資産ライフサイクルを通して複数の業界、システム間の相互運用性が可能になり、より大規模で包括的なスマートシティー展開まで視野に入れることができるようになりました。
BIM を活用した FM ソリューションを利用して、台帳を作成する作業時間の削減について検証しました。BIM 作成に必要な時間も加算すると全体的な削減が難しかったため、まず効率的な BIM 作成がカギとなることが分かりました。また維持管理段階で BIM に紐づけたコスト情報からより包括的な財務管理が可能であり、入力作業時間が増えるものの、度の高いライフサイクルコスト評価ができます。中央監視データ連携によるリアルタイム劣化度管理、部屋のモニタリング機能は現在開発中で、実際の作業を行う時の効果の測定、比較までには至りませんでしたが、結果的に 90%近くが削減できると想定されます。各種情報を BIM 中心に連携させると相乗効果が発揮でき、例えば、テナントとの交渉、契約までの意思決定と合意形成の円滑化、ドキュメント管理の自動化、それに伴う業務量の削減の効果があることが明らかになりました。これらの検証を継続し定性評価に加え、残りの定量評価を完成させることで情報管理プロセスに包括的に反映させていく予定となっています。