急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第六回)|深堀り取材【毎月3回更新】

建設業にとって最重要な生産拠点である現場作業所に生成AI を援用し、従来からの諸課題の解決を指向する動きが急だ。
本稿では、パナソニックホームズの遠隔施工管理システム、ショーボンド建設のAIアシスタントシステムについて検証する。

現場の動画データをAIで解析+図面と連動した 360 度現場ビューを作成するサービス導入

パナソニックホームズでは、建築を請け負う住宅等の施工現場にZen Intelligence(中央区八丁堀:代表者野﨑大幹)が提供する遠隔施工管理システム「zenshot (ゼンショット)」を導入した。

「zenshot」は、360 度カメラで現場を撮影し、動画データをAIで解析することによって図面と連動した 360 度現場ビューを作成するサービスである。導入によって工事管理者や営業・設計・職人などの関係者が時間・場所を問わず施工状況を網羅的に把握できるようになる。なお、建設現場の遠隔管理は一定の要件・条件のもと労働安全衛生法で認められている。2026年4月に東京・近畿で計500台を配備後、地方へ順次拡大させ、将来的には標準ツールとしての採用を見据えて全国展開を進める。

パナソニックホームズでは、2023年の「DX推進室」創設以来、全社横断でデジタル技術を活用した抜本的な業務改革を推進している。今後も、生産性向上と共に、顧客に満足してもらうべく品質・サービスの提供とより安全な現場づくりを目指して取り組みを進めていく。

AIの空間解析処理を経て図面と連携した現場の 360 度ビューを作成+ Web ブラウザで閲覧

「zenshot」は、施工現場の状況を360度ビューとして自動的に作成・可視化できる施工管理支援サービスである。カメラと通信機器を備えた専用ボックスを施工現場に設置し、現地にいる作業者がカメラを持って 2~3 分ほど現場全体を歩行するだけで記録が完了する。

記録された現場データは、歩行完了後に専用ボックスを通じて「zenshot」のシステムへ自動的に転送され、AIによる空間解析処理を経て図面と連携した施工現場の 360 度ビューが作成される。作成された360 度ビューは、Web ブラウザを通じてパソコンやタブレット端末、スマートフォンなどから時間・場所を問わず閲覧することが可能だ。

操作が簡単で撮影する大工職など現場へスムーズに定着できかつ網羅的にデータを残せる

工事管理者の業務は、現場の安全や工程、品質、原価の管理に加え、施主対応など多岐に渡る。業界全体を見ても、工事管理者などの人材が不足する中、パナソニックホームズでは現場管理の「極小化」(人が行う作業や物理的な現場拘束時間を極限まで小さくする)を掲げて業務のデジタル化に取り組んで来た。

遠隔施工管理においても複数のツールを検討する中、カメラを持ち、2~3分ほど現場全体を歩くだけでストリートビュー型の現場データが自動生成される「zenshot」は、操作が簡単で撮影する大工職など現場へスムーズに定着でき、かつ網羅的にデータを残せることから、2024年1月に試行運用し、有用性を検証している。その結果、得られた以下の効果などを総合的に評価し、本格導入を決定した。

  • 工事管理者業務の内、2~3割を占める「移動」時間を大幅に削減し、確認作業を効率化する。
  • 360度ビューとAI解析で可視化された現場状況を複数の目で確認し、安全・品質が向上する。
  • 営業・設計担当者、工事管理者や責任者が撮影データを活用して施主への対応品質を向上させる。

監督が複数の現場間や現場と事務所間の移動に時間を要するなどの課題を抜本的に解決

「zenshot」導入による変化と今後の展望について検証する。

パナソニックホームズの工事管理者は、建築現場の監督として着工から引渡しまで工事を計画通り安全に、高い品質を保持しながら進められるよう工程、安全、品質、原価の管理、職人への指示や施主への対応、近隣への配慮など統括・管理業務を行う。現地へ赴き、確認しながら業務を行うが、物件数の多い都心部で1人が複数の現場を担当する、人員が限られた拠点で広範囲の現場をカバーする場合など現場間や現場と事務所間の移動に時間を要するなど課題があった。今回、「zenshot」を導入することによって工事管理者は、現場で日々作業する大工職や基礎工事担当者などが 360 度カメラで撮影した動画データを活用し、時間・場所を問わず各種管理業務を行うことができるようになる。

遠隔管理による効率化で工事管理者は、品質・安全・施主対応というコア業務に集中でき、強い施工体制を築くことができる。将来的には、「zenshot」に蓄積される施工現場データを基盤に、AIによる安全・品質・工程の状態解析や異常検知への活用を検討し、現場管理の更なる「極小化」を目指す。工事管理者に属人化していた現場管理の体制のあり方の見直しについては、検討を進めながら段階的に取り組む予定。

デジタル技術を活用した顧客志向の取り組みや情報開示が評価されて『DX認定』を取得

これまでの建設DXの取り組みについても追跡する。2024年7 月、パナソニックホームズは、経済産業省からデジタル技術を活用した顧客志向の取り組みや積極的な情報開示が評価され、『DX認定』を取得している。今後もDXを推進しながら顧客一人ひとりに最適なサービスの提供を続けられる仕組みづくりを進めていく。

建設部門においては、2021年にLINE WORKSや施工管理アプリ「Kizuku(きずく)」を導入し、工事関係者が現場での対面でのやりとりや電話だけに頼らず、情報共有できる仕組みを構築している。具体的には、これらデジタルツールを使って施主の邸別に写真・図面や職人の入退場状況、現場進捗などを効率的に共有し、工事を進めている。

施工管理アプリ「Kizuku(きずく)」

業者さんに選ばれる施工管理アプリ。やりとりは「現場トーク」で全て完結!簡単操作で秒コミュニケーション。

建設現場の業務効率化と技術継承を目的としたAIアシスタントシステム「Archibs」を開発

ショーボンド建設は、※燈(東京都中央区: 代表取締役社長:岸本達也)と共同で建設現場の業務効率化と技術継承を目的としたAIアシスタントシステム「Archibs(アーカイブス)」を開発した。

「Archibs」は、Artificial(人工的な)Resolver(解決者)+Contents(コンテンツの)Hub(集中管理)& Individual(個々の)Butler(執事)Systemの頭文字をとった名称である。現場監督が抱えるさまざまな業務に対してチャットや音声による対話を通じて、情報検索の代行や資料作成支援を行う。

情報資産を網羅する多様な検索機能+最適な情報ソースへアクセス可能なチャットモード

「Archibs」の主な機能を見てみよう。

社内情報資産を網羅する多様な検索・RAG機能を有する。用途に応じて最適な情報ソースへアクセス可能なチャットモードを搭載している。

  • Box連携RAG(Retrieval-Augmented Generation): ショーボンド建設が蓄積する数百万件規模のファイルから回答を生成。
  • 個別ファイルRAG:ユーザーが個人領域にアップロードした独自のファイルに基づいた回答生成も可能。
  • 特定Excel・DB検索:規定のエクセルファイルやデータベース内の情報も検索対象とすることができ、横断的な情報の検索や比較検討ができる。
  • Web検索・File検索: Webからの外部情報の収集や社内データベースから目的に沿った資料を探し出すこともチャット上で行える。

現場利用に特化した高度な音声インターフェース+騒音環境下でもスムーズに利用が可能

現場利用に特化した高度な音声インターフェースを有する。キーボード操作が困難な現場環境下、騒音環境下でもスムーズに利用可能。

  • 音声テキスト化機能:現場計測データの読み上げ時など音声をテキスト化でき、表形式での出力も可能。
  • 建設用語対応・多言語翻訳:建設業界独自の専門用語も高精度に認識。多言語に対応しており、外国人労働者とのコミュニケーションを支援する。
  • 音声入出力:チャットのやり取りはテキストだけでなく、音声での読み上げ・入力にも対応。

数百万件のデータを高速・低コストで処理+高性能OCRと優れた検索精度+柔軟な検索範囲

燈独自の技術的優位性・工夫ポイントについては、第一に、数百万件規模のデータを高速・低コストで処理できる点をあげられる。独自のアーキテクチャを採用することによって数百万件に及ぶ膨大な社内ファイルに対しても高精度なRAG(検索・回答生成)を実現した。合わせて計算リソースを最適化し、システム費用を抑えながらも高速なレスポンスを維持している。

次いで、仕様書などに強い「高性能OCR」と優れた検索精度を有する。建設業界で多用されるPDF資料において、従来の技術では読み取りが難しかった「表組み」や「画像内のテキスト」も、高性能なOCRにより正確にデジタル化できる。図面の中にある注釈やスペック表などの情報も検索対象として活用可能だ。

柔軟な検索範囲の指定にも優れている。膨大なデータの中から、任意のフォルダを指定して検索対象を絞り込む機能を搭載している。現場やプロジェクトごとに参照すべき資料を限定することによって回答の精度と業務適合性をさらに高めている。

厳格化された36協定による法定労働時間問題などの環境変化に対応する課題の解決が目標

開発の背景を検証する。ショーボンド建設は、主に橋梁などの社会インフラのメンテナンスを専業としており、小規模な現場を多く担当することが特徴の一つに挙げられる。現場の規模によってはワンオペになるケースもあり、特に2024年4月に厳格化された36協定による法定労働時間問題は大きな課題であった。

これらの環境変化に対して燈とショーボンド建設は、社員負担の低減と社内ナレッジの継承につながるアシストツール開発に着手、燈のAI技術により膨大な社内資料と連携し、現場担当者を「執事(バトラー)」のように支えるシステム「Archibs」が誕生した。

※燈:読みは「あかり」 【日本を照らす燈となる】という使命を掲げ、AIを始めとした最先端テクノロジーで社会課題を解決する東京大学発AIスタートアップ。建設業、製造業、物流業、卸売・小売業など日本の基幹産業における生産性向上や「匠の技」と呼ばれる技術力の継承といった課題の解決へ向けて、独自のAI技術を駆使したソリューションを提供している。