急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第二回)

建設分野でのAI援用の現在地を追跡している。今回は、建設業の最も重要な生産拠点である建設現場を支援するAIの援用事例を紹介する。

AIが現場写真に自動タグ付けする写真検索システムと設計図書を読み解き工程表を生成するシステムである。

AIが画像ファイルを高度に解析+自動で複数の属性タグを付与する写真検索システム開発

熊谷組では、DX戦略推進の一環としてAIを活用したタグ付け写真検索システムを開発した。現場などで撮影された写真をプレゼンテーション資料で活用する際、キーワード検索することで目的の写真を入手するまでの時間コスト低減を実現した。

当該システムは、AIが画像ファイルを高度に解析し、自動で複数の属性タグを付与するもので、従来の人手による多層的なフォルダの整理に頼ることなく、瞬時に目的の画像へアクセスできるようになる。蓄積された現場の記録を単なるデータから即時に使える資産へと革新し、組織全体の生産性向上とDXを加速させる。施工完了と共に増大する竣工写真などの画像ファイルに対しても、柔軟にストレージを拡張できるスケーラビリティを確保している。

技術の核心となるのは、画像から言語情報を生成するマルチモーダルな能力を持つAIとの連携である。クラウドストレージを経由してインプットされた画像ファイルに対してAIが画像内のオブジェクトや状況を解析し、正確にタグ(文字列)としてアウトプットする。画像ファイルとタグをセットにしてデータ管理を行うことによって、従来のファイル名検索では不可能だった高度な情報抽出を実現している。


検索フォームにキーワード入力するだけで瞬時に目的の写真ファイルをサムネイルで一覧

システム概要をみてみよう。アップロードする要員が「親フォルダ(工事現場名や部門名等)」と「子フォルダ(工種やプロジェクト名等)」の二重構造で写真ファイルをクラウドストレージに格納すると、AIはその構造を読み取り、親フォルダ名と子フォルダ名の属性タグを自動で付与する。

クラウドストレージに格納された全ての写真に対して、AIによるタグ付け処理は毎日、一括処理で実行される。利用者は検索フォームにキーワードを入力するだけで、瞬時に目的となる写真ファイルをサムネイル形式で一覧できる。サムネイル内の写真をクリックすることによって、詳細なタグ情報の確認や作成資料に転記するための高解像度なオリジナルファイルをダウンロードできる。

当該システムでは、AIが生成したタグを単に提示するだけではない。情報の正確性を上げるため閲覧ユーザーによる「タグのメンテナンス機能」を備えている。AIが付与したタグに不足がある場合は、現場を知る要員が新規のタグを追加できるし、意図しない文字列を含むタグを削除することもできる。利用者が増えることによってタグ情報のアップデートが進み、組織の持つナレッジの洗練を期待できる。

システム構成

無人化施工用の油圧ショベルとクローラダンプの画像ファイルをシステムに入力して実験

適用事例をみてみよう。つくば市にある技術研究所に置かれている無人化施工用の油圧ショベルとクローラダンプの画像ファイルをシステムに入力し、AIによるタグ付けを行った。

「油圧ショベル」を検索した場合、図2のように複数の油圧ショベルがサムネイルとして提示される。サムネイルの内の写真をクリックすることで、図3のように解像度の高い画像を確認できる。どのようなタグが付いているのかを確認しながら、必要に応じてタグの追加や不要なタグの削除が可能となっている。

図2_油圧ショベル検索時のサムネイル
図3_サムネイルから選んだ油圧ショベルの写真

図4のように、クローラダンプを検索した場合もサムネイルが提示され、その中の1つをクリックすることで、図5のように詳細情報を確認できる。

図4_クローラダンプ検索時のサムネイル
図5_サムネイルから選んだクローラダンプの写真

単純作業から解放+本来業務に注力する環境構築のためタグ付け写真検索システムを開発

建設業界においては現場のデジタル化が急速に進展している。熊谷組においても、竣工した工事現場の画像データは専用のクラウドストレージへと蓄積されており、技術開発を含めた貴重な経営資源となっている。一方で、部署や現場ごとに画像データが保管されており、関係者が必要な時に必要な画像を検索できない課題に直面していた。プレゼンテーション資料や展示会のパネルへの転記の際、膨大な数のフォルダから写真探しに奔走するなど、非生産的な時間コストの増大が発生していた。

このような背景を踏まえ、所員を単純作業から解放し、本来の業務に注力する環境を構築するため、AIを活用したタグ付け写真検索システムの開発に至った。

今後は、写真内に映り込んだ黒板内の文字情報を自動でテキスト化してタグを加える機能、設計図面などの画像以外のファイルを読み取ってタグを加える機能を持たせる予定である。各種メディアに対するテキスト表現に強いAIを介した自動タグ付け技術を用いて、手動での検索が困難なデジタル資産をスマートに一元管理する試みを進めたいと考えている。

設計図書をアップロードするだけで自社歩掛や過去工事を学習したAIが工程表を対話生成

KENCOPA(渋谷区: 代表取締役:安村荘佑氏)では、ゼネコン各社とのβ版利用を通じた機能改善を経て、導入効果と高い顧客満足度が得られたため「Kencopa工程AIエージェント」製品版の正式提供を開始した。

「Kencopa工程AIエージェント」は、工程表作成・実施工程運用にかかる時間の短縮のみならず、稼働中に自動的に蓄積される設計図書と工程・歩掛・工事データを合わせた会社独自ナレッジデータベースの構築によって省人化と技術継承を同時で実現する。

設計図書(図面・仕様書・見積調書など)をアップロードするだけで、自社歩掛や過去工事を学習したAIが工程表を対話生成する(特許申請中)。作成後は、AIが生成した工程表をたたき台にしてアプリ上で直感的に編集・運用可能となっている。PDFやExcelとして指定されたフォーマットはテンプレートとして登録することができ、各現場に応じて自由に出力が可能だ。独自の工程生成エンジンは、建築・土木・プラント・設備など幅広い工種に対応可能となっている。

システム概要

設計図書をアップロードすれば後はAIエージェントの質問に回答するだけで工程表を作成

担当者は、一度、設計図書をアップロードすれば、後はAIエージェントの質問に回答するだけで工程表が作成できる。一部機能において特許申請中の工程表生成のイメージをみてみよう。

最初に、担当者が設計図書(図面・仕様書・見積調書など)をドラッグ&ドロップもしくはファイル選択にてアップロードする。   

次いで、最初に読み取った資料に基づき、工期・工種・住所・数量といった現場の基本情報から現場の周辺環境や制約条件などを詳細に記載していく。

そのようにして整理された施工計画に基づき、様々な類似度指標に基づいて過去の類似工事を自動で提案してくれる。担当者は、類似度が高い工事を選択することによってAIが選択工事を参考にしながら工程表を生成する。

具体的には、施工計画や過去の類似工事の現場情報、天気情報等に基づきAIが工程表を生成する。必要に応じて工区分けや並行工程に関する相談などの対話を通じて工程表のたたき台を生成してくれる。

生成された工程表は、そのままアプリ上で直感的に編集・運用することができる。月間・週間工程表の作成、複数ユーザーでの同時編集、実績線の入力、出来高曲線表示、図形や画像の挿入、PDFやExcelフォーマットでの出力(自由にテンプレートを登録可能)など工程管理に必要な機能が備わっている。

また、AIへのチャット指示に基づいて工程線を一括でずらしたり、複数の作業に分割したりすることが可能だ。

概略・全体工程表作成にかかる時間の短縮+実施工程作成・運用にかかる現場負担の軽減

従来、建設業の現場では、工程表作成にまつわる諸課題を抱えていた。

現場監督は、多くの場合、受注してから最初の1ヵ月以内に、全体工程表を作成する必要があり(特に大型工事では数週間から1〜2か月かけて作成する場合も)、現場着工前の大きな業務負担となっていた。

また、現状では、工程表作成ツールの利用が主流となっており、会社独自の工程・進捗・歩掛データが蓄積されにくい状況となっている。一方、昨今の人手不足、働き方改革による適正工期の算出の必要性や技術継承の観点から工程・自社歩掛データ及びナレッジデータの蓄積は喫緊の課題となっている。

合わせて、人手不足から技術継承や教育に割く時間が減っていることによって、様々な制約条件を考慮した上での工程を組めない若手・中堅が増える傾向にある。見積段階でも、概略工程表として発注者に提出する必要もあるが、人手不足により現場経験の少ない営業部・営業技術部・積算部が作成する機会が増加している。

 「Kencopa工程AIエージェント」を用いることで、次のような導入効果が想定できる。それらは、概略・全体工程表作成にかかる時間の大幅短縮、実施工程作成・運用にかかる現場負担の軽減であり、加えて自社工程・歩掛・類似工事を始めとした会社独自のナレッジデータベースの蓄積、技術継承、若手・中堅の成長速度の加速である。何よりも重要なのは、AIが最も得意とする業務横断での自動化・省人化が実現することである。

ゼネコン各社とのβ版利用を通じて得られた技術者からのフィードバックに基づき機能改善

ゼネコン各社とは、2025年12月より一部ゼネコンでのβ版利用を通じて得られた技術者からのフィードバックに基づく機能改善に取り組んできた。それらの取り組みを通じて、高い顧客満足度及び導入効果が確認されたので、製品版として正式に提供開始する運びとなった。

「1.使えない〜5.是非使いたい」との使用感に関するユーザーアンケートにおいては、5点満点中平均4.2点を記録した他、通常1週間かかる概略工程表作成業務を「Kencopa工程AIエージェント」の活用により1日に短縮できた実績も報告されている。