急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第四回)|深堀り取材【毎月3回更新】

建設業界においては、確認申請のBIM図面審査が始まるなど、BIMの活用が進む一方で、プロジェクトで扱うモデル情報は膨大となり、全てを人力で確認することが困難になっている。特に、作成したモデルが社内のルールに準拠しているかを確認する作業には多大な労力を要していた。それらの課題を解決するため戸田建設では、生成AIを活用したRevitプラグインを開発した。建設DXの本丸ともいえるBIMの援用領域においても生成AIが活躍する状況となった。

「Revit-AI-Assistant」の運用・開発の背景

生成AIを搭載したプラグイン「Revit-AI-Assistant」を社員による完全内製化で開発

戸田建設では、「Autodesk Revit」上で稼働する生成AIを搭載したプラグイン「Revit-AI-Assistant」を社員による完全内製化によって開発し、運用を開始した。プラグイン「Revit-AI-Assistant」は、チャット形式の自然言語入力によってRevit上の要素情報の取得や色分けなどの操作に加え、床・壁・家具等の要素の作成、社内ドキュメントの検索が可能となっている。これによってBIMの習熟度を問うことなく、誰もが直感的にBIMデータを活用できる環境を提供できる。当該開発は、戸田建設AI基本方針に準拠したもので、同方針に基づくAI活用の取組みの一環。

プラグイン「Revit-AI-Assistant」は、完全内製で開発・運用されており、入力されたデータや社内ドキュメントが外部のAI学習モデルに利用されることのないセキュアな環境を実現している。

※用語について、「AI」は、自然言語の理解や推論を行う知能の技術基盤を指す。「AIエージェント」は、その知能を使い、与えられた目標を達成するために、自ら計画を立てて必要なツールの実行を自律的に繰り返す仕組みを指している。

Revit-AI-Assistant操作画面

AIエージェントが状況に応じて適切なツールを選択実行+回答精度と再現性の向上を図る

生成AIに質問するたびにプログラムを生成させてRevit上で実行する方式では、コード実行時のエラーや回答の揺らぎ(再現性)が課題となり得る。プラグイン「Revit-AI-Assistant」では、事前に定義した処理をツールとして用意し、AIエージェントが状況に応じて適切なツールを選択して実行する方式を採用、回答精度と再現性の向上を図っている。

一方で、AIエージェントが「定義済みのツールだけでは対応できない」と判断した場合には、必要に応じてRevitの情報取得や操作を行うプログラムを生成し、Revit上で実行することも可能だ。ツール化によって安定した処理を担保しつつ、個別要件への対応力も確保することによって処理可能な質問の幅を狭めない設計としている。

AIの再現性と対応力の両立

AIエージェントによる自律的なツール実行+社内ドキュメント検索+ Revitについての回答実行

プラグイン「Revit-AI-Assistant」では、AIエージェントによる自律的なツール実行する。具体的には、ユーザーの質問に対して自律的に最適なツールを選択・実行し、回答を生成するAIエージェントとなっている。AIエージェントは、目標を達成するまで推論→行動のサイクルを繰り返すことで、複雑な指示を遂行する。

AIエージェントの処理の流れ

一例としては、梁要素を「始端_上端筋径」、パラメータが空欄の場合は赤色、パラメータ自体が無い場合は青色にするように質問した場合、AIエージェントは、ユーザーの意図を汲み取って次図「AIエージェントの処理の詳細」が示す処理を実行する。ユーザーは細かな手順を意識せず、目的を自然言語で伝えるだけで、必要な情報取得やRevitの操作が可能となる。

AIエージェントの処理の詳細
実行結果

社内ドキュメント検索を実行する。社内のBIM関連ドキュメントを参照して情報取得するツールを実装している。キーワードの一致だけでなく、言葉の意味や文脈を踏まえて関連情報を調べる「セマンティック検索」によって関連性の高い情報を取得することができる。AIの回答には、対象ドキュメントへのリンクが表示され、Webブラウザで即座に社内のルールを確認することができる。

マニュアルの検索結果

Revitについての回答を実行する。Revitの仕様や操作方法についてAIに対話形式で確認することが可能だ。平面図の「ビュー範囲」について質問した場合、AIは保持している内部知識に基づき仕様を解説するだけでなく、ビュー情報を取得するツールを実行して現在のビューの設定値を取得し回答する。これによってRevitに不慣れなユーザーでも仕様理解や設定確認が容易になるため、今後のBIM普及を後押しする有効な手段になると期待される。

Revitのビュー範囲についての回答結果再現性

BIMデータの一般化を促進+データチェックの高速化+社内ルールの確認時間の短縮実現

プラグイン「Revit-AI-Assistant」の実装によって期待できる効果についてみてみよう。なお、AIが提示した情報や処理した結果については、最終的に人間が確認・判断を行うことによって業務の正確性と安全性を担保している。

BIMデータの一般化を促進する。高度なRevitの操作スキルや専門知識を持たなくも、チャットを通じて直感的にBIMデータの閲覧・抽出が可能になり得る。これによってBIMオペレーターなどの特定の専門職に限らず、設計者や施工管理者などもBIMの恩恵を受けられる環境を実現する。

データチェックの高速化を実現する。BIMモデルの他部署への引き継ぎ、鉄骨製作・施工検討・積算といった他ソフトへのデータ移行時に不可欠な各要素の属性情報(パラメータ)が漏れなく入力されているかの確認作業を高速化する。膨大なモデルデータの中から入力不備をAIが抽出することによって確認精度の向上と手戻りの削減を実現し、後工程へのスムーズな情報伝達を支援する。

社内ルールの確認時間を短縮できる。膨大な社内ドキュメントから目的の情報を探し出す時間を短縮する。従来までは、大量の文書から手作業で検索し、該当箇所を見つけるまでに5分程度要していたが、プラグイン「Revit-AI-Assistant」ではAIが約30秒で回答とソースを提示する。この機能によって社内ルールの遵守を支援し、品質管理の徹底を図る。

それらの問題解決事例に見られるように、生成AIがBIMモデル内の大量の情報を迅速に処理し、自然言語による対話形式によってユーザーの意図に沿った結果を分かりやすく提示する。AIが代替可能な業務を担うことで人間は問題解決や顧客との対話という人間にしかできない業務に集中できる環境を実現する。 今後は、AIエージェントの精度・回答速度の向上を図る。合わせて内製開発の優位性を活かし、現場の要望に柔軟かつ迅速に対応すると共に、ユーザーからのフィードバックに基づく機能改善や新規ツールの開発を進める。