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【BIM事例‐維持管理】奥村組‐⑧課題B 長期修繕計画立案とモデル連携についての考察(連載)

掲載日:

国土交通省では、令和元年より官民一体でBIMを推進する取り組みをスタートさせており、「建築BIM推進会議」を開催し、議論を進めています。「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

ここでは、注目の「令和3年度 BIMモデル事業」の具体事例を連載にて紹介していきます。株式会社奥村組の事例を基に、BIMのメリットや課題分析データなどをまとめていきますのでBIM事例の内容についてぜひ参考にしてみてください。

他の連載記事はこちら

第一回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐①改修工事用のEIRとBEP策定(連載)

第二回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐②課題A 改修工事用EIR(連載)

第三回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐③課題A 改修工事用BEP(連載)

第四回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐④課題A 設備専門工事会社用の維持管理BIM仕様書(連載)

第五回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐⑤課題A EIR・BEP今後の課題(連載)

第六回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐⑥課題B 維持管理BIMシステムによる長期修繕計画について(連載)

第七回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐⑦課題B モデル活用・連携方法についての分析結果(連載)

概要

ここでは、プロジェクト全体の概要や対象となる建築物、事業の目的等についてご紹介します。

プロジェクト概要

奥村組技術研究所内の管理棟、室内環境実験棟における維持管理業務プロセスを検証します。これらの施設は改修工事・新築工事が完了しているため、それぞれ維持管理 BIM モデルを構築します。その上でこのモデルを用いて実際の施設運営の情報を蓄積し、検証をおこなうこととします。

2 棟の施設については、BIM モデルと連携する⾧期修繕計画システム、施設台帳管理システムを構築しました。技術研究所は、これらのシステムを用いて自ら施設管理者として運用し、「専門職ではない担当者」がおこなう維持管理業務における課題の検証を通して発注者メリットを抽出します。

検証をおこなうプロセスは、国土交通省『建築分野における BIM の標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン』の標準ワークフローのパターン②を参考にし、改修工事に特化したワークフローとして新たなパターン⑥(案)を作成しました。

検証は、維持管理 BIM フェーズにおいて実際の増改築工事や設備機器の増設等をおこないながら進めます。技術研究所が発注者として、建築設計部門・施工部門に関わり EIR・BEP の整備を通じてBIM ワークフローを検証していきます。

建築物の用途・規模・構造種別、所在地、新築/増改築/維持管理等の区分等

奥村組技術研究所

●所在地  :茨城県つくば市
●敷地面積 :23,580.25 ㎡
●開設   :1985 年
●特徴   :耐震実験棟、材料実験棟、音響実験棟,管理棟、室内環境実験棟、
       倉庫棟、多目的実験棟、陸上養殖実験棟の実験施設を備える

茨城県つくば市にある技術研究所は、日本初の実用免震ビル「管理棟」や各種実験をおこなう施設として新築した「室内環境実験棟」、その他複数の実験施設から構成される研究所です。

主な研究開発テーマとして、「免震のパイオニア」としてあり続けるための技術の研鑽や応用技術の開発、ICT やロボット、CIM、BIM の活用による工事の急速化・省力化や管理業務の効率化など生産性を向上させる技術の開発、およびバリアフリー化や省エネルギー化・低炭素化などの環境負荷低減を実現する技術の開発が挙げられます。令和 2 年春には技術研究所内の大規模リニューアル工事が完了しました。

調査対象(1)管理棟

  • 竣工   :1986 年
  • 改修竣工 :2020 年 1 月
  • 用途   :事務所
  • 階数   :地上 4 階 PH1 階
  • 延床面積 :1,330.10 ㎡
  • 構造種別 :RC 造(日本初の実用免震ビル)

「管理棟」はオフィスビルであるとともに、免震機能を⾧期観察する実証施設としての役割もあります。たとえば「建物そのものを人工的に揺らす」自由振動実験をおこなうための設備を備えており、免震技術の実証施設として35年以上にわたり様々なデータを蓄積しています。

また、日本初の実用免震ビルである管理棟は内装を全て撤去するスケルトンインフィル化を実施した後、NearlyZEB化を含めた改修工事を実施し、NearlyZEB の認証を取得し一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する ZEBリーディング・オーナーに認定登録されています。

当施設は供用していて、維持管理段階にあり、ZEBの運用段階における省エネルギー効果や、快適性やウェルネスなどに寄与する技術の検証をおこなっています。     

調査対象(2)室内環境実験棟

  • 竣工   :2020 年 5 月
  • 用途   :実験施設
  • 階数   :地上 2 階
  • 延床面積 :978.86 ㎡
  • 構造種別 :RC・S 造

室内環境実験棟は、温熱・気流・音環境に関する実験をおこなうことを目的としているため、断続的に施設の改修・更新を続けながら室内環境実験をおこなっています。

快適な空間づくりには、人の感覚に影響を与える、温度、湿度、気流、光、音などを適切に制御する必要があります。当施設は3つの実験室を備え、建物の省エネルギー性や室内の快適性、ウェルネスに関わる様々な要素や、近年ニーズが高まっている室内環境関連の技術を総合的に検証することができます。

プロジェクトで目指すもの

目的

(1)竣工 BIM モデル構築に必要な EIR・BEP の整備とマイニングルール制定
(2)リバースエンジニアリングによる維持管理 BIM モデル構築手法の確立
(3)技術実験と実行を同時におこなう維持管理 BIM モデル構築とシミュレーション
(4)ライフサイクルコンサルティング業務の確立と資産価値の向上
(5)維持管理 BIM システムと NearlyZEB 環境センサーの連携とトータル LCC 算出

解決する課題

(1)EIR・BEP の仕様とコストイメージ
(2)維持管理業務を維持管理BIMシステムでおこなう場合の労務量
(3)実際の維持管理業務における問題点や日常業務での運用課題
(4)ライフサイクルコンサルティング業務における維持管理BIMシステム構築支援方法
(5)維持管理 BIM システムにおけるランニングコスト情報の不足

得られる成果

(1)発注者としての EIR、施工者としての BEP の試案
(2)維持管理業務を維持管理 BIM でおこなう場合の労務削減量
(3)技術実験と連動した維持管理 BIM モデルと維持管理業務の実行結果
(4)ライフサイクルコンサルティング業務結果報告と建物資産価値の評価
(5)点検業務・ランニングコストを含めた維持管理 BIM によるトータル LCC 算出

分析する課題:長期修繕計画立案とモデル連携についての考察

1.BIMモデルによる長期修繕計画についての分析結果

供用期間の設定

まずは、構築した維持管理BIMモデルの供用開始年について考察しました。改修工事を行う     管理棟は既に竣工後34年が経過していて、⾧期修繕計画を立案する起算年の定義が必要になります。2005 年に大規模な改修工事がおこなわれていますが、既存として扱っているため、1986 年から起算し、65 年間を建物供用期間として設定しました。  

上図は、プロジェクトのスケジュールです。技術実験のための増改築工事に合わせ、検証課題ごとに実行しました。

②FM-Integrationの概要

FM-Integrationのダッシュボードは「完全クラウド版維持管理システム」としてAZURE上に構築され、ブラウザで閲覧できます。FM-Integrationには、以下8つの機能があります。

①ダッシュボード ②施設情報 ③保全管理 ④⾧期修繕計画 ⑤点検業務 ⑥付加情報 ⑦BEMS連携 ⑧BIM管理

ここでは、それぞれの機能を簡単にご紹介します。

(1)ダッシュボード

コンテンツの登録状況や集計結果をウィジェットで確認できる。

(2)施設情報

建物や部屋・設備機器等の施設情報を台帳として管理できる。

(3)保全管理

清掃、警備、点検、運転監視台帳を作成し、保全情報を管理できる。

(4)期修繕計画

建物に関する⾧期修繕計画の検討や維持管理・予防保全につながる予算シミュレーションができる     。

(5)点検業務

維持管理に関する点検項目を設定し、定期点検計画はもとより年間計画も設定できる。効率的な点検業務につながる。

(6)付加情報

建物台帳や設備台帳以外に工事台帳(改修、増設、更新別など)を作成し、⾧期修繕計画の実績情報に連携することが     できる。

(7)BEMS連携

NearlyZEBのBEMSデータとBIMモデルを連携し、管理できる。

(8)BIM管理

建物に関する各台帳情報や⾧期修繕計画のデータを、BIMデータと連携して作成できる。

③FM-Integrationの利点と課題

ライフサイクルコンサルタントであるBIM推進室と維持管理担当者である技術研究所職員がFM-Integrationシステムを活用し、実務に合わせて検証をおこないました。 実務に活用することでこのシステムのあらゆる機能性を確認できました。

以下に FM-Integration システムの特徴をまとめています。

利点
  • ブラウザ上で全ての機能が使用できる。
  • IFCビューアが内蔵されていてオブジェクトのリンク表示ができる。
  • BIMデータと連携して維持管理にまつわる各部材情報をデータベース化することにより、⾧期修繕計画を立案しやすくなる。
  • 図面や竣工図書類を紙ベースで保管せずにデータ管理できるので、資料の保管場所の確保や検索に時間がかかる手間などを簡略化できる。
  • 各種台帳管理を総合プラットフォームで一元化管理できるので、ファシリティマネジメント業務の効率化につながる。(施設管理のDXの実現)
  • 点検業務機能で点検箇所のQRコードを作成し、点検管理に活用できる。
課題
  • IFCモデルの表示に時間がかかる。
  • 現時点ではオブジェクトリンクで設備系統表示ができない。
  • 点検予定を入力する手順が煩雑。
  • ⾧期修繕計画のシミュレーショングラフのメモリ幅が自動で変わって比較しにくい。
  • シミュレーションの前後結果の比較表示ができない。
  • グラフの一部をクリックしたとき、部材の内訳や詳細が表示されない。
  • ⾧期修繕計画にランニングコストを反映できない。
  • ⾧期修繕計画の帳票項目の列幅などが自由に変えられない。
  • ⾧期修繕計画帳票に検索機能がなく、検索するのに時間がかかる。
  • 各種コンテンツページを自由に連携させてカスタマイズができない。

以上、課題はありますが、FM-Integration本来の⾧所を最大限に生かすためにも、システムが改善され進化することが望まれます。

期修繕計画

続いて、FM-Integration で作成した管理棟について⾧期修繕計画のシミュレーションをおこないました。⾧期修繕計画作成に必要な部位部材情報が上図です。2021年にはグレーチング、消火器ボックスなど約 270 万円の修繕工事が示されています。     

BELCA分類とデータマイニングによる修繕工事について、実施年度の修繕工事と比較しました。突発的なエンジンドアの修理や蓄電池の増設などの修繕単価情報等を FM-Integrationへ格納して管理します。

このように修繕工事および更新工事についてのシミュレーションをおこなった結果を、ケーススタディに示します。 

【ケーススタディ:管理棟1Fエンジンドアの修繕】

1.自動ドア開閉装置の更新と修繕の各周期、単価を入力した部位部材情報を使用し、⾧期修繕計画のシミュレーションを作成する。

2.予算情報画面で2028年に修繕費用を移動させてシミュレーションに反映させる。

3.作成した予算情報をシミュレーションに反映させて修繕計画を完成させる。

以上のように、FM-Integrationの機能を活用することにより、単年度の修繕費用を検討して適切な年度に振り分けたり、予算に合わせて修繕内容を組み替えたりすることができます。表計算などの従来システムと比べて、正確かつ簡単にシミュレーションをおこなうことができます。

2.モデル活用・連携方法についての分析結果

①蓄電池の増設におけるモデル活用

維持管理業務におけるBIMモデルの有効活用の検証として、点群、VR、AR、メタバースなどを使用しました。維持管理BIMモデルを増設工事における合意形成に活用しています。図面や机上で確認していた業務を現場に行くことなく仮想空間で実現できるので、遠隔地からも参加可能という利点があります。

但し、既存モデルが不正確であったので点群測量を用いて位置を算出し、BIM モデルを修正するという工程が必要となりました。設置位置や寸法を決定する際には、既存モデルの正確性が重要となります。  

上図は、VR、AR、MR、メタバースについて合意形成の場面での活用方法を比較したものです。最近話題を集めているメタバースは BIM モデルをアップロードして活用できますが、 LOD を下げる必要があるため、合意形成の中でも多様なアングルから対象物を見る必要がある場合などに限定されます。 

②照明器具改修におけるモデル連携

照明シミュレーションツールの LightningFlow を使用し、光源データを持つ BIM モデルとして既存照明・候補照明器具をシミュレーションすることで、設計業務削減を図りました。メーカーから提出された照度分布や Feu 等の資料も合わせて、照明を選定する材料として検証をおこないました。  

シミュレーション結果でFeu 値が高い第一候補の照明器具がシミュレーション画像からも全体的に明るく感じられます。机上やキャビネット内部では、Feu 値は低いがシミュレーション画像によると第二候補の方が明るく感じられるなど、様々な角度から視覚的に検討でき、数値のほかにシミュ レーション画像も判断材料になります。また、特注品や登録されていない部品などメーカーにない照明器具のシミュレーションに関しては、配光データがあれば BIM モデルを作成し検証できます。

③各ソフトにおけるモデル連携

BIM モデルは対応している拡張子によって各ソフト間でのやり取りが可能なため、プレゼンテーションや照明などのシミュレーションによって合意形成が容易になりました。またMicrosoft の HoloLens を使用することで、実際の建物と BIM モデルをMRにより重ねて確認できるため、新しいシミュレーション方法として採用しています。対面での検討が難しい場合は、メタバース空間を使用し合意形成を図るツールとして用いています。

3.期修繕計画立案とモデル連携についての考察

期修繕計画

BIMデータを用いて⾧期修繕計画を作成するシステムが「FM-Integration」です。本来紙ベースでおこなっていた⾧期修繕計画を、クラウド上でBIM データと連携してシミュレーションできるのが最大の特色です。 

シミュレーションをおこなうには、単価や周期などの情報を予め設定する必要がありますが、一度マスターを作成すればあらゆるパターンの予算計画に利用できます。また、シミュレーション結果はグラフと連動しているので、ひと目で突出した金額がわかります。その結果、予算の配分などを計画しやすくなり、建物の予防保全や予知保全にもつながります。

②モデル連携

維持管理BIMモデルの設計・施工BIM活用においては、既存モデルの正確性とLODが重要となります。属性等に留意して入力されたモデルであっても、改修工事の場面においては既存の状況を新たに取得し直して作成する必要があり、増築や更新が予定されている部位においては、あらかじめモデルのLODや正確性を上げておくことも重要です。また、特殊な蓄電池モデルなどメーカー部品が用意されていないオブジェクトにおいては注意が必要です。

照明等のシミュレーションに活用する際には、維持管理BIMモデルのテクスチャ情報に影響されるため、シミュレーションを前提としたテクスチャ情報の入力が必要です。また、正確な検証のためには、配光データ等の入手にも努める必要があります。  

まとめ

今回はライフサイクルコンサルティング業務として発注者・設計者・施工者のデータ連携検証を行い、BIMモデルの価値や発注者メリットを探っていきました。合意形成の場面ではVR、AR、MR、メタバースが利用されるなど、最新技術の検証が進められています。

各種ツールを活用する際は、維持管理BIMモデルのテクスチャ情報などの入力を的確に行う必要があります。またFM-Integrationの機能を最大限に生かすためにも、職員がソフトウェアの機能や操作を理解できるオリジナルマニュアルの作成が求められるでしょう。

この記事を書いた人

BuildApp News編集部 - DX事例くん

BuildApp News編集部事例担当です。 建設DXに取り組む企業の事例を紹介しています。

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