ホーム テーマ BIM 国土交通省関連情報 【BIM事例‐維持管理】奥村組‐①改修工事用のEIRとBEP策定(連載)

【BIM事例‐維持管理】奥村組‐①改修工事用のEIRとBEP策定(連載)

掲載日:2022年11月03日

国土交通省では、令和元年より官民一体でBIMを推進する取り組みをスタートさせており、「建築BIM推進会議」を開催し、議論を進めています。「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

ここでは、注目の「令和3年度 BIMモデル事業」の具体事例を連載にて紹介していきます。株式会社奥村組の事例を基に、BIMのメリットや課題分析データなどをまとめていきますのでBIM事例の内容についてぜひ参考にしてみてください。

概要

ここでは、プロジェクト全体の概要や対象となる建築物、事業の目的等についてご紹介します。

プロジェクト概要

奥村組技術研究所内の管理棟、室内環境実験棟における維持管理業務プロセスを検証します。これらの施設は改修工事・新築工事が完了しているため、それぞれ維持管理 BIM モデルを構築します。その上でこのモデルを用いて実際の施設運営の情報を蓄積し、検証をおこなうこととします。

2 棟の施設については、BIM モデルと連携する⾧期修繕計画システム、施設台帳管理システムを構築しました。技術研究所は、これらのシステムを用いて自ら施設管理者として運用し、「専門職ではない担当者」がおこなう維持管理業務における課題の検証を通して発注者メリットを抽出します。

検証をおこなうプロセスは、国土交通省『建築分野における BIM の標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン』の標準ワークフローのパターン②を参考にし、改修工事に特化したワークフローとして新たなパターン⑥(案)を作成しました。

検証は、維持管理 BIM フェーズにおいて実際の増改築工事や設備機器の増設等をおこないながら進めます。技術研究所が発注者として、建築設計部門・施工部門に関わり EIR・BEP の整備を通じてBIM ワークフローを検証していきます。

建築物の用途・規模・構造種別、所在地、新築/増改築/維持管理等の区分等

奥村組技術研究所

●所在地  :茨城県つくば市
●敷地面積 :23,580.25 ㎡
●開設   :1985 年
●特徴   :耐震実験棟、材料実験棟、音響実験棟,管理棟、室内環境実験棟、
       倉庫棟、多目的実験棟、陸上養殖実験棟の実験施設を備える

茨城県つくば市にある技術研究所は、日本初の実用免震ビル「管理棟」や各種実験をおこなう施設として新築した「室内環境実験棟」、その他複数の実験施設から構成される研究所です。

主な研究開発テーマとして、「免震のパイオニア」としてあり続けるための技術の研鑽や応用技術の開発、ICT やロボット、CIM、BIM の活用による工事の急速化・省力化や管理業務の効率化など生産性を向上させる技術の開発、およびバリアフリー化や省エネルギー化・低炭素化などの環境負荷低減を実現する技術の開発が挙げられます。令和 2 年春には技術研究所内の大規模リニューアル工事が完了しました。

調査対象(1)管理棟

  • 竣工   :1986 年
  • 改修竣工 :2020 年 1 月
  • 用途   :事務所
  • 階数   :地上 4 階 PH1 階
  • 延床面積 :1,330.10 ㎡
  • 構造種別 :RC 造(日本初の実用免震ビル)

「管理棟」はオフィスビルであるとともに、免震機能を⾧期観察する実証施設としての役割もあります。たとえば「建物そのものを人工的に揺らす」自由振動実験をおこなうための設備を備えており、免震技術の実証施設として35年以上にわたり様々なデータを蓄積しています。

また、日本初の実用免震ビルである管理棟は内装を全て撤去するスケルトンインフィル化を実施した後、NearlyZEB化を含めた改修工事を実施し、NearlyZEB の認証を取得し一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する ZEBリーディング・オーナーに認定登録されています。

当施設は供用していて、維持管理段階にあり、ZEBの運用段階における省エネルギー効果や、快適性やウェルネスなどに寄与する技術の検証をおこなっています。     

調査対象(2)室内環境実験棟

  • 竣工   :2020 年 5 月
  • 用途   :実験施設
  • 階数   :地上 2 階
  • 延床面積 :978.86 ㎡
  • 構造種別 :RC・S 造

室内環境実験棟は、温熱・気流・音環境に関する実験をおこなうことを目的としているため、断続的に施設の改修・更新を続けながら室内環境実験をおこなっています。

快適な空間づくりには、人の感覚に影響を与える、温度、湿度、気流、光、音などを適切に制御する必要があります。当施設は3つの実験室を備え、建物の省エネルギー性や室内の快適性、ウェルネスに関わる様々な要素や、近年ニーズが高まっている室内環境関連の技術を総合的に検証することができます。

プロジェクトで目指すもの

目的

(1)竣工 BIM モデル構築に必要な EIR・BEP の整備とマイニングルール制定
(2)リバースエンジニアリングによる維持管理 BIM モデル構築手法の確立
(3)技術実験と実行を同時におこなう維持管理 BIM モデル構築とシミュレーション
(4)ライフサイクルコンサルティング業務の確立と資産価値の向上
(5)維持管理 BIM システムと NearlyZEB 環境センサーの連携とトータル LCC 算出

解決する課題

(1)EIR・BEP の仕様とコストイメージ
(2)維持管理業務を維持管理BIMシステムでおこなう場合の労務量
(3)実際の維持管理業務における問題点や日常業務での運用課題
(4)ライフサイクルコンサルティング業務における維持管理BIMシステム構築支援方法
(5)維持管理 BIM システムにおけるランニングコスト情報の不足

得られる成果

(1)発注者としての EIR、施工者としての BEP の試案
(2)維持管理業務を維持管理 BIM でおこなう場合の労務削減量
(3)技術実験と連動した維持管理 BIM モデルと維持管理業務の実行結果
(4)ライフサイクルコンサルティング業務結果報告と建物資産価値の評価
(5)点検業務・ランニングコストを含めた維持管理 BIM によるトータル LCC 算出

分析する課題:改修工事用の EIRと BEP策定

ここでは、4つある課題(A~D)のうち、課題A「改修工事用のEIR(発注者が整備)とBEP(設計者・施工者が立案し竣工BIMモデルを提供)策定」を取り上げます。

調査内容:改修工事における EIR・BEP を分析

日本初の実用免震ビルである管理棟では、スケルトンインフィル化を施し、NearlyZEB 化を含めた改修工事を実施しています。ZEB の運用段階における省エネルギー効果を検証し、快適性やウェルネスなどに寄与する技術の実践、検証をおこなっています。

一方で室内環境実験棟は、温熱・気流・音環境の実験を目的とし、断続的に施設の改修・更新を続けながら室内環境実験をおこなっています。この 2 つの建物の維持管理 BIMの構築にあたり、改修工事用EIRとBEPを策定します。

「EIR」とは、Employer Information Requirementsの略で「発注者情報要件」、「BEP」はBIM Execution Planの略で、「BIM実行計画」のことを指します。

EIR・BEP 分析手順と実施体制

本プロジェクトでの発注者は建物の所有者および使用者として位置付けます。技術研究所は奥村組の所有資産であり、技術研究所所⾧が発注者代表です。またEIR の作成者は技術研究所、BEP の作成者は設計部門および工事部門となります。BIM 推進室はライフサイクルコンサルタントの立場で EIR・BEP のひな形となるフォーマットを作成しました。

EIR・BEP 検証のプロセス

EIR・BEP の必要要件を抽出する検証のプロセスとして、下記の2パターンを行いました。

①管理棟リニューアル工事における EIR・BEP の整備
管理棟リニューアル工事における EIR・BEP の立案上の留意点を過去の工事資料をもとに抽出し、設計・施工・竣工後の情報から必要要件を検証しました。

②管理棟、室内環境実験棟の維持管理段階におけるEIR・BEP の整備
管理棟、室内環境実験棟竣工後、改修工事や設備機器の増設等を実施しながら維持管理業務をおこなう過程で、EIR・BEPの必要要件を検証しました。

結果

管理棟リニューアル工事におけるEIR・BEPの必要要件を当時の設計・施工中の打合せ議事録や書類をもとにまとめました。建物の性能や仕様に対しての項目が多いですが、維持管理に関する項目も見られます。性能仕様に関する情報、維持管理に関する情報からキーワードを探ります。

維持管理の項目として「漏水部分のシール」「タイルの全数打音検査」などが抽出され、竣工後35年を経過する建物との特徴が見られます。また、NearlyZEB 化をおこなうにあたり「断熱材の仕様」「省エネ設備」や「会議室の遮音性能」などの項目も抽出できました。

改修工事用 EIR の特記事項

EIR・BEP の必要要件を抽出する検証の結果、改修工事における EIR と BEP の「特記事項」をまとめました。EIR では断熱材・配線などのモデリングの要否や、合意形成における BIM 活用を盛り込んでいるのが特徴です。発注者自身がマイニングルールを理解し、使用する基準の指定なども必要となるでしょう。

①改修工事の要件を明確化
・現地調査の条件設定、既存情報の有無
・点群測量、写真測量、360 度パノラマ撮影の活用
・工事履歴の収集・保存
・BIM オブジェクトの形状・情報の提示(モデリング範囲の明確化) 断熱材・耐火被覆・配線など
・将来対応の明記 増設・拡張スペースの確保
・合意形成における BIM 活用の明示(形状、素材、設置位置)      

②維持管理 BIM 構築の要件を明確化
・維持管理 BIM ソフトウェアの指定 FM-Integration
・データマイニングルール、基準の指定 BELCA など
・維持管理 BIM 作成範囲の指定(免震装置、シーリングなど)
・維持管理業務の明確化(長期修繕計画、建物台帳管理、保全台帳管理)
・BIM ビューアー IFC VIEWER、GLOOBE VIEWER
・改修年情報、起算年の定義
・CDE の条件設定 閲覧範囲、閲覧権限、同意・承認手続き

改修工事用 BEP の留意事項

BEP においては既存モデルや改修範囲のモデル化についての表記を盛り込みました。また体系的なオブジェクトの命名規則、形状・情報の設定などを定義しています。

① 改修工事の維持管理 BIM を定義
・既存情報の入力 既存躯体情報、スケルトンインフィル改修範囲
・既存モデル、改修モデルの区分 形状・情報、既存データ利用の有無
・属性の定義、設備オブジェクトの定義(機器名称、品番、メーカー名、性能、系統)
・合意形成手法の明確化 クラウド共有環境、BIMビューアー、メタバース、VR/AR/MR など

②維持管理 BIM 構築を定義
・維持管理 BIM ソフトウェアの構築 FM-Integration
・データマイニングルールの明示、命名規則の定義 特に改修年など
・目的毎のマイニングの定義 ⾧期修繕、台帳、保全、点検
・メーカーBIM オブジェクト使用を定義
・維持管理 BIM 台帳の構築定義 図面、仕様書、取説など掲載情報
・CDE 構築 クラウド環境 AZURE等

改修工事用 EIR・BEP の構成

文書内容
①EIR本文プロジェクトのEIRを示す
②別表1 BIMモデルデータの作成内容部位ごとのBIMモデルの形状・情報を示す

改修工事用EIRの構成

文書内容
①BEP本文プロジェクトのBEPを示す
②別表1 BIMモデルデータの作成内容部位ごとのBIMモデルの形状・情報を示す

改修工事用BEPの構成

今回作成した改修工事用EIR・BEPは、上図の構成になります。留意事項をもとに、改修工事用EIR・BEPのフォーマットを作成しました。作成にあたっては、設計BIMワークフローガイドライン・建築設計三会(第 1 版)を参考にしています。BIM ワークフローガイドラインには改修工事の標準ワークフローがないため新築工事用の要件と併せての運用が必要になります。

まとめ

この記事では、課題A「改修工事用のEIR(発注者が整備)とBEP(設計者・施工者が立案し竣工BIMモデルを提供)策定」の中から「改修工事における EIR・BEP の分析」についてまとめました。次回以降の記事では改修工事用EIR・BEPの内容(管理棟のリニューアル工事、蓄電池増設工事、照明実験工事など、設計・施工段階での BIM 活用および維持管理 BIM システムの構築時に必要なEIRの項目)や、設備専門工事会社用の維持管理 BIM 仕様書についてご紹介します。ぜひチェックしてみてください。

この記事を書いた人

BuildApp News編集部 - DX事例くん

BuildApp News編集部事例担当です。 建設DXに取り組む企業の事例を紹介しています。

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