ホーム テーマ BIM 国土交通省関連情報 【BIM事例‐維持管理】奥村組‐②課題A 改修工事用EIR(連載)

【BIM事例‐維持管理】奥村組‐②課題A 改修工事用EIR(連載)

掲載日:2022年11月10日

国土交通省では、令和元年より官民一体でBIMを推進する取り組みをスタートさせており、「建築BIM推進会議」を開催し、議論を進めています。「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

ここでは、注目の「令和3年度 BIMモデル事業」の具体事例を連載にて紹介していきます。株式会社奥村組の事例を基に、BIMのメリットや課題分析データなどをまとめていきますのでBIM事例の内容についてぜひ参考にしてみてください。

他の連載記事はこちら

第一回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐①改修工事用のEIRとBEP策定(連載)

概要

ここでは、プロジェクト全体の概要や対象となる建築物、事業の目的等についてご紹介します。

プロジェクト概要

奥村組技術研究所内の管理棟、室内環境実験棟における維持管理業務プロセスを検証します。これらの施設は改修工事・新築工事が完了しているため、それぞれ維持管理 BIM モデルを構築します。その上でこのモデルを用いて実際の施設運営の情報を蓄積し、検証をおこなうこととします。

2 棟の施設については、BIM モデルと連携する⾧期修繕計画システム、施設台帳管理システムを構築しました。技術研究所は、これらのシステムを用いて自ら施設管理者として運用し、「専門職ではない担当者」がおこなう維持管理業務における課題の検証を通して発注者メリットを抽出します。

検証をおこなうプロセスは、国土交通省『建築分野における BIM の標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン』の標準ワークフローのパターン②を参考にし、改修工事に特化したワークフローとして新たなパターン⑥(案)を作成しました。

検証は、維持管理 BIM フェーズにおいて実際の増改築工事や設備機器の増設等をおこないながら進めます。技術研究所が発注者として、建築設計部門・施工部門に関わり EIR・BEP の整備を通じてBIM ワークフローを検証していきます。

建築物の用途・規模・構造種別、所在地、新築/増改築/維持管理等の区分等

奥村組技術研究所

●所在地  :茨城県つくば市
●敷地面積 :23,580.25 ㎡
●開設   :1985 年
●特徴   :耐震実験棟、材料実験棟、音響実験棟,管理棟、室内環境実験棟、
       倉庫棟、多目的実験棟、陸上養殖実験棟の実験施設を備える

茨城県つくば市にある技術研究所は、日本初の実用免震ビル「管理棟」や各種実験をおこなう施設として新築した「室内環境実験棟」、その他複数の実験施設から構成される研究所です。

主な研究開発テーマとして、「免震のパイオニア」としてあり続けるための技術の研鑽や応用技術の開発、ICT やロボット、CIM、BIM の活用による工事の急速化・省力化や管理業務の効率化など生産性を向上させる技術の開発、およびバリアフリー化や省エネルギー化・低炭素化などの環境負荷低減を実現する技術の開発が挙げられます。令和 2 年春には技術研究所内の大規模リニューアル工事が完了しました。

調査対象(1)管理棟

  • 竣工   :1986 年
  • 改修竣工 :2020 年 1 月
  • 用途   :事務所
  • 階数   :地上 4 階 PH1 階
  • 延床面積 :1,330.10 ㎡
  • 構造種別 :RC 造(日本初の実用免震ビル)

「管理棟」はオフィスビルであるとともに、免震機能を⾧期観察する実証施設としての役割もあります。たとえば「建物そのものを人工的に揺らす」自由振動実験をおこなうための設備を備えており、免震技術の実証施設として35年以上にわたり様々なデータを蓄積しています。

また、日本初の実用免震ビルである管理棟は内装を全て撤去するスケルトンインフィル化を実施した後、NearlyZEB化を含めた改修工事を実施し、NearlyZEB の認証を取得し一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する ZEBリーディング・オーナーに認定登録されています。

当施設は供用していて、維持管理段階にあり、ZEBの運用段階における省エネルギー効果や、快適性やウェルネスなどに寄与する技術の検証をおこなっています。     

調査対象(2)室内環境実験棟

  • 竣工   :2020 年 5 月
  • 用途   :実験施設
  • 階数   :地上 2 階
  • 延床面積 :978.86 ㎡
  • 構造種別 :RC・S 造

室内環境実験棟は、温熱・気流・音環境に関する実験をおこなうことを目的としているため、断続的に施設の改修・更新を続けながら室内環境実験をおこなっています。

快適な空間づくりには、人の感覚に影響を与える、温度、湿度、気流、光、音などを適切に制御する必要があります。当施設は3つの実験室を備え、建物の省エネルギー性や室内の快適性、ウェルネスに関わる様々な要素や、近年ニーズが高まっている室内環境関連の技術を総合的に検証することができます。

プロジェクトで目指すもの

目的

(1)竣工 BIM モデル構築に必要な EIR・BEP の整備とマイニングルール制定
(2)リバースエンジニアリングによる維持管理 BIM モデル構築手法の確立
(3)技術実験と実行を同時におこなう維持管理 BIM モデル構築とシミュレーション
(4)ライフサイクルコンサルティング業務の確立と資産価値の向上
(5)維持管理 BIM システムと NearlyZEB 環境センサーの連携とトータル LCC 算出

解決する課題

(1)EIR・BEP の仕様とコストイメージ
(2)維持管理業務を維持管理BIMシステムでおこなう場合の労務量
(3)実際の維持管理業務における問題点や日常業務での運用課題
(4)ライフサイクルコンサルティング業務における維持管理BIMシステム構築支援方法
(5)維持管理 BIM システムにおけるランニングコスト情報の不足

得られる成果

(1)発注者としての EIR、施工者としての BEP の試案
(2)維持管理業務を維持管理 BIM でおこなう場合の労務削減量
(3)技術実験と連動した維持管理 BIM モデルと維持管理業務の実行結果
(4)ライフサイクルコンサルティング業務結果報告と建物資産価値の評価
(5)点検業務・ランニングコストを含めた維持管理 BIM によるトータル LCC 算出

分析する課題:改修工事用EIR

建築設計三会の設計BIMワークフローガイドラインEIR・BEPひな型案をもとに、改修工事用のEIR・BEPを作成していきます。

「EIR」とは、Employer Information Requirementsの略語で「発注者情報要件」のことを指します。また「BEP」とはBIM Execution Planの略語で、「BIM実行計画」のことです。発注者から入札者に対してEIRが提示され、それをもとに入札者がBEPを作成・提示するという流れが一般的です。本記事では主に、改修工事用EIRについてご紹介します。

改修工事用EIRの特記事項

EIR・BEPの必要要件を抽出する検証の結果、改修工事におけるEIRとBEPの「特記事項」をまとめました。EIRでは、断熱材・配線などのモデリングの要否や、合意形成におけるBIM活用を盛り込んでいます。発注者自身がマイニングルールを理解し、基準を指定することも必要となるでしょう。

①改修工事の要件を明確化

  • 現地調査の条件設定、既存情報の有無
  • 点群測量、写真測量、360度パノラマ撮影の活用
  • 工事履歴の収集・保存・BIMオブジェクトの形状・情報の提示(モデリング範囲の明確化)断熱材・耐火被覆・配線など
  • 将来対応の明記増設・拡張スペースの確保
  • 合意形成におけるBIM活用の明示(形状、素材、設置位置)

②維持管理BIM構築の要件を明確化

  • 維持管理BIMソフトウェアの指定FM-Integration
  • データマイニングルール、基準の指定BELCAなど
  • 維持管理BIM作成範囲の指定(免震装置、シーリングなど)
  • 維持管理業務の明確化(⾧期修繕計画、建物台帳管理、保全台帳管理)
  • BIMビューアーIFCVIEWER、GLOOBEVIEWER
  • 改修年情報、起算年の定義
  • CDEの条件設定閲覧範囲、閲覧権限、同意・承認手続き

改修工事用EIRの概要

管理棟のリニューアル工事、蓄電池増設工事、照明実験工事など、設計・施工段階でのBIM活用および維持管理BIMシステムの構築時に必要なEIRの項目から、主なものをまとめました。

①プロジェクト情報、BIMに関する業務

プロジェクト名、BEPの作成、BIMデータの作成、スケジュール、BIMの目的を記載する項目です。「BIM関連スケジュール」において、維持管理BIMシステム作成者を関係者の凡例として追加しています。

②プロジェクト要件

EIRにおいてBEPに求めるプロジェクト要件を定義する項目です。改修工事の場合の竣工年、竣工図書、改修工事の履歴、保守業務履歴の有無、維持管理BIMモデルの有無など、維持管理BIMを作成するうえで必要な情報を記載します。既存維持管理システムがある場合は、その有無を記載することもあります。そのシステムがBIM連携しない場合は、システムの変更も必要になるでしょう。

③改修工事要件

改修工事要件を記載する項目です。「改修内容」は、主な改修工事の項目を選択肢として掲載しました。また「改修工事範囲」は、主な改修工事の部位を選択肢としています。改修部分を明確にすることで、既存モデル・改修モデルの形状・属性の詳細度が調整可能になります。「現地調査方法」は既存モデル作成、改修計画のために必要な項目として掲載しています。管理棟の蓄電池増設工事においては、点群測量をおこない既存モデルの部材の大きさや位置を修正して設計BIMに活用します。また「設計段階でのBIM活用」、「施工段階でのBIM活用」の項目では、発注者が要望する項目を掲載しました。管理棟の照明工事では、照度分布のシミュレーションをおこなっています。

④維持管理システム要件

維持管理システム要件を記載する項目です。こちらは維持管理BIMモデル要件と密接な関係にあり、作成コストにも影響するため詳しく解説していきます。

「FM基幹システム」を決めることは、維持管理BIM作成において最も重要な項目です。本モデル事業においては、基幹BIMソフトウェアであるGLOOBEとの連携性に優れている「FM-Integration」を採用しています。「維持管理の目的」をEIRで明確にした上で、実装する機能を「維持管理システム対象項目」において指定しています。この項目は今回FM-Integrationにおいて構築した機能を掲載していますが、将来的には他の維持管理分野の項目も追加できるようになると考えられます。「BIMモデル連携対象項目」では、維持管理システムとBIM連携ができる項目を挙げています。BEMSに関するBIM連携については、引き続き検証が必要になります。

また「データマイニングルール」は、維持管理BIMと維持管理システムをつなぐ重要な要素となります。これはデータマイニングを維持管理ソフトで実施するか、BIMソフトで実施するかによって大きく分かれます。本事業では、BIMソフトウェアであるGLOOBEにおいてデータマイニングをおこないました。マイニングルールを発注者側が所有していればテンプレートとして提供できるため、有無の項目を設けています。今後はGLOOBEのマイニングルールテンプレートを整備し他物件にも適用することを目指しています。

そして「データマイニング基準」は、BIMモデル連携項目ごとに採用する基準の選択肢を用意しています。本事業では、建物台帳・長期修繕計画についてはBELCA基準(改訂版)を採用しました。点検費用・運転監視費用・清掃費用・点検業務に関しては国土交通省官房官庁営繕部の建築保全業務積算要領を採用し、項目によっては見積内訳書を利用しています。また「見積りによる」と記載されている警備費用については、見積内訳書を利用しています。データマイニング基準に関しても発注者が意識することにより、所有建物の保全費用算出の精度を上げていくことが可能になります。

⑤維持管理BIMモデル要件

維持管理BIMモデル要件を記載する項目です。「BIMモデル作成範囲」「BIMモデルデータ構成(形状、属性)」では、BIMの入力範囲と入力ルールを規定しました。これは設計BIMワークフローガイドライン・建築設計三会(第1版)のEIR(BIM業務仕様書)(案)の別表1「BIM関連成果納品物」の分類S4を参照して作成しています。設計BIMガイドラインの建築要素にはない「内装(種類・材料等)(壁・床仕上げ)」などを適宜追加しています。また「改修工事特記」の項目を設け、改修工事用BIMモデルを作成する上での特記事項を記入できるようにしたのも特徴です。

「BIMモデル名称基準」は、データマイニングで重要な項目です。本事業ではBIMモデルオブジェクト名称とデータマイニングルールを紐づけ、BIMモデルの名称基準として自社基準の整備をおこなっています。

「改修工事モデルデータ対象部材特記」は、改修工事のBIMモデル作成において注意が必要な項目を整理して選択肢を設けました。「BIMモデルの作成内容」の改修工事特記と併せての運用となります。

「改修年情報の属性入力」は、維持管理モデルの属性に改修年情報を入力する選択肢です。改修年をBIMモデル名称に入力することも考えられますが、維持管理システムで入力する方法もあります。本事業では、FM-Integrationで改修年情報を入力したので選択肢は不要としました。

「メーカーBIMオブジェクト利用」は、メーカーBIMオブジェクトを利用する場合の選択肢です。改修工事では特殊な設備機器を採用することが多く、メーカー部品がない場合のためにこの項目を設けました。本モデル事業で設置した蓄電池や照明に関してはメーカーBIMオブジェクトがなく、汎用モデルを編集して属性情報を入力しています。

「基幹BIMソフトウェア」「基幹BIMソフト以外に使用するソフトウェア」については、発注者からBIMソフトは指定しない前提ではありますが、特別に必要なときの項目として使用します。本モデル事業のようにデータマイニングをBIMソフト側でおこなう場合は、BIMソフトを指定する必要があるため任意項目として設定しています。

⑥データ共有環境

関係者間におけるデータ共有環境を記載する項目です。最近ではXRを用いて関係者の合意形成をおこなうことも多いため「XR対応」の項目を設けています。本モデル事業では蓄電池増設工事において、現地でMRを利用して機器配置の確認を実施。今後の合意形成のツールとして、メタバースの検証もおこないました。

⑦成果品

BIMデータ形式としてはそれぞれのネイティブデータやIFCを納品することが標準ですが、本事業では照明シミュレーション、MR活用、メタバース活用においてFBXデータを利用することが多く、納品データの形式としてテクスチャ情報を格納できるFBX形式の追加を提案しています。

まとめ

EIR改修工事特有のプロジェクト要件と改修工事要件、データマイニングルールの基準等についてまとめました。さらに改修工事の対象部材の留意事項をまとめ、BIMモデルデータの構成に改修工事の特記事項を提示しました。設備専門工事会社用の『維持管理BIM仕様書』も整備しています。最近では「XR」を用いて合意形成することも多いため、データ共有環境項目に『XR』の項目を設けているのが特徴です。

この記事を書いた人

BuildApp News編集部 - DX事例くん

BuildApp News編集部事例担当です。 建設DXに取り組む企業の事例を紹介しています。

あわせて読みたい

BuildApp Newsとは

BuildApp News は
建設DXの実現を支援する
BIMやテクノロジーの情報メディアです。

建設業はプロセス・プレイヤーが多く、デジタル化やDXのハードルが高いのが現状ですが、これからの建設業界全体の成長には「BIM」などのテクノロジーを活用した業務効率化や生産性の向上、環境対応などの課題解決が不可欠と考えます。

BuildApp Newsが建設プレイヤーの皆様のDXの実現の一助となれば幸いです。

注目の記事

BIM の人気記事

もっと見る