【BIM事例‐維持管理】奥村組‐⑤課題A EIR・BEP今後の課題(連載)

国土交通省では、令和元年より官民一体でBIMを推進する取り組みをスタートさせており、「建築BIM推進会議」を開催し、議論を進めています。「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。

ここでは、注目の「令和3年度 BIMモデル事業」の具体事例を連載にて紹介していきます。株式会社奥村組の事例を基に、BIMのメリットや課題分析データなどをまとめていきますのでBIM事例の内容についてぜひ参考にしてみてください。

他の連載記事はこちら

第一回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐①改修工事用のEIRとBEP策定(連載)

第二回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐②課題A 改修工事用EIR(連載)

第三回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐③課題A 改修工事用BEP(連載)

第四回:【BIM事例‐維持管理】奥村組‐④課題A 設備専門工事会社用の維持管理BIM仕様書(連載)

概要

ここでは、プロジェクト全体の概要や対象となる建築物、事業の目的等についてご紹介します。

プロジェクト概要

奥村組技術研究所内の管理棟、室内環境実験棟における維持管理業務プロセスを検証します。これらの施設は改修工事・新築工事が完了しているため、それぞれ維持管理 BIM モデルを構築します。その上でこのモデルを用いて実際の施設運営の情報を蓄積し、検証をおこなうこととします。

2 棟の施設については、BIM モデルと連携する⾧期修繕計画システム、施設台帳管理システムを構築しました。技術研究所は、これらのシステムを用いて自ら施設管理者として運用し、「専門職ではない担当者」がおこなう維持管理業務における課題の検証を通して発注者メリットを抽出します。

検証をおこなうプロセスは、国土交通省『建築分野における BIM の標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン』の標準ワークフローのパターン②を参考にし、改修工事に特化したワークフローとして新たなパターン⑥(案)を作成しました。

検証は、維持管理 BIM フェーズにおいて実際の増改築工事や設備機器の増設等をおこないながら進めます。技術研究所が発注者として、建築設計部門・施工部門に関わり EIR・BEP の整備を通じてBIM ワークフローを検証していきます。

建築物の用途・規模・構造種別、所在地、新築/増改築/維持管理等の区分等

奥村組技術研究所

●所在地  :茨城県つくば市
●敷地面積 :23,580.25 ㎡
●開設   :1985 年
●特徴   :耐震実験棟、材料実験棟、音響実験棟,管理棟、室内環境実験棟、
       倉庫棟、多目的実験棟、陸上養殖実験棟の実験施設を備える

茨城県つくば市にある技術研究所は、日本初の実用免震ビル「管理棟」や各種実験をおこなう施設として新築した「室内環境実験棟」、その他複数の実験施設から構成される研究所です。

主な研究開発テーマとして、「免震のパイオニア」としてあり続けるための技術の研鑽や応用技術の開発、ICT やロボット、CIM、BIM の活用による工事の急速化・省力化や管理業務の効率化など生産性を向上させる技術の開発、およびバリアフリー化や省エネルギー化・低炭素化などの環境負荷低減を実現する技術の開発が挙げられます。令和 2 年春には技術研究所内の大規模リニューアル工事が完了しました。

調査対象(1)管理棟

  • 竣工   :1986 年
  • 改修竣工 :2020 年 1 月
  • 用途   :事務所
  • 階数   :地上 4 階 PH1 階
  • 延床面積 :1,330.10 ㎡
  • 構造種別 :RC 造(日本初の実用免震ビル)

「管理棟」はオフィスビルであるとともに、免震機能を⾧期観察する実証施設としての役割もあります。たとえば「建物そのものを人工的に揺らす」自由振動実験をおこなうための設備を備えており、免震技術の実証施設として35年以上にわたり様々なデータを蓄積しています。

また、日本初の実用免震ビルである管理棟は内装を全て撤去するスケルトンインフィル化を実施した後、NearlyZEB化を含めた改修工事を実施し、NearlyZEB の認証を取得し一般社団法人環境共創イニシアチブが公募する ZEBリーディング・オーナーに認定登録されています。

当施設は供用していて、維持管理段階にあり、ZEBの運用段階における省エネルギー効果や、快適性やウェルネスなどに寄与する技術の検証をおこなっています。     

調査対象(2)室内環境実験棟

  • 竣工   :2020 年 5 月
  • 用途   :実験施設
  • 階数   :地上 2 階
  • 延床面積 :978.86 ㎡
  • 構造種別 :RC・S 造

室内環境実験棟は、温熱・気流・音環境に関する実験をおこなうことを目的としているため、断続的に施設の改修・更新を続けながら室内環境実験をおこなっています。

快適な空間づくりには、人の感覚に影響を与える、温度、湿度、気流、光、音などを適切に制御する必要があります。当施設は3つの実験室を備え、建物の省エネルギー性や室内の快適性、ウェルネスに関わる様々な要素や、近年ニーズが高まっている室内環境関連の技術を総合的に検証することができます。

プロジェクトで目指すもの

目的

(1)竣工 BIM モデル構築に必要な EIR・BEP の整備とマイニングルール制定
(2)リバースエンジニアリングによる維持管理 BIM モデル構築手法の確立
(3)技術実験と実行を同時におこなう維持管理 BIM モデル構築とシミュレーション
(4)ライフサイクルコンサルティング業務の確立と資産価値の向上
(5)維持管理 BIM システムと NearlyZEB 環境センサーの連携とトータル LCC 算出

解決する課題

(1)EIR・BEP の仕様とコストイメージ
(2)維持管理業務を維持管理BIMシステムでおこなう場合の労務量
(3)実際の維持管理業務における問題点や日常業務での運用課題
(4)ライフサイクルコンサルティング業務における維持管理BIMシステム構築支援方法
(5)維持管理 BIM システムにおけるランニングコスト情報の不足

得られる成果

(1)発注者としての EIR、施工者としての BEP の試案
(2)維持管理業務を維持管理 BIM でおこなう場合の労務削減量
(3)技術実験と連動した維持管理 BIM モデルと維持管理業務の実行結果
(4)ライフサイクルコンサルティング業務結果報告と建物資産価値の評価
(5)点検業務・ランニングコストを含めた維持管理 BIM によるトータル LCC 算出

分析する課題:EIR・BEPの今後の課題

ここでは、改修用EIR・BEP策定において試行錯誤した点、当初の目論見から外れた点などを踏まえ、今後の課題をまとめています。EIR・BEPに関する包括的な課題解決のため、今後の連載で取り上げる「検証B」についての内容も含まれます。

①維持管理BIMの改修履歴の反映

改修工事の際、撤去した部材をどのようにして維持管理BIMに反映していくかが課題になります。またBIMモデルの取り扱いについてもEIR・BEPに反映する必要がありますが、技術的に解決しなければならないことがあるため今回は改修工事EIR・BEP案に掲載することを見送っています。

②改修工事検討用モデルと維持管理BIM

今後の連載でご紹介する「検証B」では、管理棟の蓄電池増設工事で維持管理BIMを利用して改修工事でのBIM活用の検討をおこなっています。その中で、屋上に設置している設備機器の既存BIMモデルの形状や位置が不正確だったため、現地で点群測量や実測をしてBIMモデルを修正したという経緯がありました。

このような事例があることから、維持管理段階でBIMモデルを活用するためには、形状・位置の詳細度をEIR・BEPに記述する必要があるといえるでしょう。しかしモデル全体の詳細度を上げるとデータ量が多くなりコストも掛かってしまうため、将来的に改修が必要な箇所を見定め、詳細度の範囲を検討することが望ましいです。

③環境シミュレーションモデルと維持管理BIM

管理棟の執務空間における照明器具を検証する上で、照度シミュレーションをおこないました。今後の連載でご紹介する「検証B」では、維持管理BIMモデルからFBX形式に書き出してシミュレーションに利用しています。このように、環境シミュレーション等を実施する場合にはデータ形式をEIR・BEPに記述する必要があるでしょう。

④維持管理BIMを利用したCDE構築

今後の連載でご紹介する「検証B」で登場する各種XR(VR・MR・AR・メタバース)に関しては専用のソフトウェアと維持管理BIMとのデータ連携において、テクスチャの再現、属性情報の活用、ファイル容量などの課題があります。たとえばメタバースNeutransはBIMデータのファイル容量が200MBまでなどの制限があり、BIMのオブジェクト数を減らす必要があるという点です。このように、CDE構築用に必要なデータ形式やデータ構成をEIR・BEPに記述する必要があるでしょう。

⑤設備機器の系統表示

改修工事EIRに規定している設備オブジェクトの系統情報に関しては、2022年2月16日リリースのGLOOBE2022から属性情報の入力が可能になりました。今回の維持管理システムでは対応することができなかったので、来年度の課題としています。

まとめ

ここでは、改修工事用EIR・BEP策定を通して得られた今後の課題をまとめました。改修工事で撤去した部材の登録、詳細度とデータ量の関係などさらなる検証が必要な事項はありますが、今後の取り組みにより改善が期待できるでしょう。