【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑬BIMを活用したファシリティーコスト(連載)
目次
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第一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題①BIM を活用した管理領域、OIR の定義(連載)
第二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題②ライフサイクルコンサルティング業務(連載)
第三回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題③ISO19650 プロセスと情報要件定義(AIR)(連載)
第四回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題④国際標準、オープンBIM、IFCの説明(連載)
第五回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑤ソフトウェア・エコシステムの俯瞰(連載)
第六回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑥共通データ環境CDE-BIMsyncの説明(連載)
第七回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑦CDEの位置付け(鹿島用途)(連載)
第八回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑧設計、属性情報の管理プロセス(dRofus)(連載)
第九回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑨引渡、FM 向け、レコードモデルの比較(SimpleBIM の利用)(連載)
第十回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑩ライフサイクル BIM 更新プロセス (連載)
第十一回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑪BIM を活用した FM (連載)
第十二回:【BIM事例‐情報管理】鹿島建設‐分析課題⑫建物アーカイブのデータベース構築、更新作業の削減(連載)
「建築BIM推進会議」について詳しくまとめた記事は、こちらをご覧ください。
概要
事業の目的
鹿島建設では、令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(パートナー事業者型)として、「BIM を活用した建物ライフサイクル情報管理とデジタルツイン及びソフトウェア・エコシステムによる支援の検証」を実施しています。
大きなテーマとしては以下2点を掲げています。
- ①BIM データの活用・連携に伴う課題の分析
- ②BIM の活用による生産性向上、建築物・データ価値向上、様々なサービスの創出等を通じたメリットの検証
さらにテーマを分析する課題として、下記2つの課題を設定。
- 課題 A) 運営維持段階へ引き渡す BIM の作成、資産情報モデル(AIM)の整備と情報共有プロセスの最適化
- 課題 B) 運営維持段階で活用するライフサイクル BIM の整備、情報の充実化、更新、情報価値の向上
次世代BIM-FM検証のために必要なBIMに対する情報要求をプロジェクトの初期段階で確定し、BEPに反映させます。BIMに加えてスマートBMソリューションとの連携によってデジタルツインを構築し、建物の情報を一元管理。現在の情報管理プロセスの非効率性と冗長性を継続的に特定・改善し、BIMデータの有効性、恒久性、拡張性、及び、公共性を確保することを目標としています。
物件概要
課題AとBについて、新築・既存物件の場合において検討ができるよう、新築物件の「博多コネクタ」と既存物件の「両国研修センター」を対象物件としています。
新築物件である博多コネクタ(旧名:博多駅前四丁目)は、鹿島建設が中長期的に所有している賃貸オフィスビルです。ビル管理業務(以下 BM 業務)と不動産管理業務(以下 PM 業務)の双方を鹿島建物総合管理が実施しており、当該物件の BM・PM 業務の状況について、定期的に報告を受ける体制を築いています。このため、鹿島グループが連携して組織・AIR を整理し、データベースの構築を行うことが可能となっています。
既存物件で改修工事を行う両国研修センターは、鹿島建物総合管理が所有者で、社員の運営維持管理業務の研修のために利用している施設です。鹿島建設は鹿島建物総合管理とともに、グループ連携の一環として、オープン BIM を活用した FM ソリューション(施設の運営維持管理)や、鹿島のスマート BM(以下スマート BM)との連携等を開発する対象物件として、両国研修センターを 3 年前に選定。その過程において、当該物件の施設管理の最適化の検証に着手しています。
検証する課題:BIM を活用したファシリティ―コスト評価
ここでは、BIMをファシリティコスト評価に利用する際の、次の二点を検証しています。
- ①コスト情報の追加作業の労力、及び、コスト情報の精度と有効性
- ②コスト評価に含められる項目を補完し、より包括的なコスト評価ができるか
コスト情報の追加
まず、ライフサイクルコンサルティング業務の一環として、建物アーカイブに登録したBIM要素に、設計、施工段階でコスト情報を加えました。ただし、設計施工段階で明確となるコスト情報、例えば、製品の仕入価格や、法定対応年数に基づいて計算する減価償却等以外に、運営維持管理段階で徐々に追加するコスト情報も多種多様にあります。
コストカテゴリを次のように設定し、勘定項目としてMainManagerに登録しました。
1.建設費(見積書、請求書等)
2.減価償却費(仕入れ価格、対応年数から計算)
3.建物管理費(計画保全の契約)
4.不動産管理費(不動産管理契約による)
5.光熱費(検針データによる)
6.地代家賃
7.保険料
設計、施工段階でライフサイクルコスト評価を行うように、今回は鹿島建設のKLEAD(KAJIMA Lifecycle Economic Analysis & Diagnosis)ツールを利用して、比較的に単純な計算方法で、仕入れ価格を係数で掛け算した値を求めました。KLEADはBIMが必要ないため、財務情報のみを利用して計算ができるという特徴があります。一方、維持管理段階のコスト情報の予測であるため、精度と有効性が十分とはいえない点はデメリットでしょう。従って、検証Bの目標は「建物アーカイブを利用したファシリティコスト評価」となります。
今回の検証では「コスト算出に必要な時間を半減する」ように設定しました。結論としては、時間節約よりも精度の向上に効果があることが明確となりました。コスト算出の迅速化による業務量の削減効果を図る為に、下記二つのシナリオを設定しました。
シナリオ①:(比較基準)通常のコスト計算方法
シナリオ②:BIMを活用した財務管理の時間とコスト
FM では、経営資源を効率的に運用するために長期修繕計画を策定することが重要となっています。長期修繕計画は、建物の機能を維持していくために将来的に必要な修繕・更新工事の時期と費用を予測し、計画に基づいて定期診断や修繕・更新、改修を行うことにより、ファシリティコストの最小化や投資効果の最大化、資産価値の維持向上を目指しています。
BELCAの長期修繕計画算出方法を導入
官庁建物や住宅以外の民間建物の長期修繕計画において従来から採用されている算出方法は、非営利団体ロングライフビル推進協会 BELCA が定める考え方を基礎としています。「BELCA」とは、ビルのロングライフ化を目指し、大手デベロッパー、大手設計組織、大手ゼネコン、設備会社など幅広い分野にわたる会員会社が参画し、人材育成やビルのロングライフ化関連基準策定等の活動を中心に行っている団体です。BELCA が 2008 年に初刊を発行した書籍『建築物のライフサイクルマネジメントデータ集』は、長期修繕計画計算方法の指針として国内のバイブル的存在となっています。
BELCA の長期修繕計画算出方法は、新築等の見積の項目・数量を利用し、各々の修繕・更新時期を設定するとともに、その費用を新築時の見積単価に既定の係数をかけ算出します。すなわち、10 年毎や 30 年毎などの一定間隔で修繕・更新が発生することを想定し、建物の仕上げと設備機器ごとに、新築時の工事見積書を基に係数を掛け算出した同じ金額が一定のインターバルで計上される仕組みです。計画書は通常、縦軸を建物全ての仕上げや設備機器の項目、横軸を時間軸とした表形式となっており、項目と該当する年が交差する箇所に更新費・修繕費の予測値をプロットすることにより、表全体の費用を足し合わせればライフサイクル全体に係る更新費と修繕費の総費用(Life Cycle Cost)が集計できます。
BELCA では、仕上げと設備機器は 800 種類以上に分類され、最小単位の分類ごとに見積単価に掛ける係数が固定値として決められています。分類は、大分類、中分類、小分類の階層構造/入れ子構造になっており、大分類として、外部仕上げ、内部仕上げ、構築物、電気、空調、衛生、搬送設備に分けられ、その中に中分類が各々数種類~数十種類、さらにその中に小分類として数種類~数十種類が決められています。
長期修繕計画算出の流れ
長期修繕計画算出の主な流れは、以下のとおりです。
- ① 建物の全ての仕上げと設備機器を拾い、「部位・部材・設備機器別データ一覧」を基に分類する。
- ② 新築工事の見積書を用意して、仕上げと設備機器毎に掛かった工事金額を見積書から集計する。工事金額は材料費、施工費、運搬費など下地処理から表面仕上げ等までの全工程に係る費用であり、それらを見積書の中から探し出して足し合わせる必要がある。
- ③ ②で算出された結果に「部位・部材・設備機器別データ一覧」において該当する係数を掛け、更新費と修繕費を算出して計算結果を表に書き込む。
BELCAの留意点
企業によって独自の算出方法を使用する場合がありますが、基本的な考え方や計算方法はBELCA を踏襲しています。このように広く普及している BELCA ですが、幾つかの留意点も。
1 点目は、新築工事の見積書の内容を基にしているため、見積書に記載のないものは算出対象にならないことです。実際の工事では追加変更工事や別途工事で機器類が設置されることが多いですが、これらは算出対象になりません。また中古購入物件など、新築工事時の見積書が存在しない場合は論外となります。
2点目は、この方法で計画書を作成できるのは竣工後 10 年程度までが標準であり、築 10 年超の場合には、劣化状況を更新パラメーターに考慮する必要が生じるということです。
3点目は、実際の更新工事では、高性能なものと入れ替えたり、簡易な工法に変えたりと元とは異なるものに変えることがありますが、計算上は元と同じ仕上げ・機器に入れ替えるものとして算出することです。
4点目は、夜間や休日に工事を行う場合の労務費の割り増しや、仮設費を考慮しないことです。長期修繕計画や LCC の精度を高めるには、これらの BELCA の算定に含まれない項目についても考慮が必要となります。
財務会計システムとの紐付け
MainManagerの財務管理機能は、建物所有者の財務会計(ERP)システムに連携する仕組みになっています。したがって、MainManagerに登録済みのポートフォリオ情報と、財務会計システム内の勘定科目との間を紐づける必要があります。これにより、ユーザーはMainManager内の適切な建物および建物要素にリンクされているコストを確認可能になります。ポートフォリオ内の異なる視点やレベルのコスト情報の収集により比較検証が可能になり、修繕や改装工事、建て替えなどの条件や、ライフサイクルに関連する管理上の意思決定を行う際のトレンドの識別に役立ちます。すべての資産項目のコストステータスが常に最新の状態に保たれれば、精度よくコスト管理が行えます。製品からポートフォリオまでのレベルで、さまざまなコスト関連情報が利用可能となります。
使用可能な財務情報は、次のとおりです。
- ライフサイクル予算
- 残存価値 (減価償却済) と再調達価格
- 帰属原価
- 剰余
- 収入
- 経費
- 勘定科目
- 原価タイプ
- 取引情報
- 請求書
検証の結果
この検証の結果については、当初に目標としたライフサイクルコスト評価に必要な時間の半減は未達成となりました。KLEADとMainManagerにおいては、コスト情報の入力にほぼ同じ時間が掛かりましたが、大きな違いとなるポイントが以下2点です。
- BIMにコスト情報を登録してFMデータベースにマッピングすると、ライフサイクルコスト評価の結果を即時にダッシュボードで表示できる。
- MainManagerでは、運営維持管理段階で実際に掛かるコストをより精度よく評価できる。
まとめ
ライフサイクルコンサルティング業務の一環として、建物アーカイブに登録したBIM要素に、設計、施工段階でコスト情報を加えました。ただし、設計施工段階で明確となるコスト情報(製品の仕入価格や、法定対応年数に基づいて計算する減価償却等)以外にも、運営維持管理段階で徐々に追加するコスト情報が多種多様にあります。
今回、期待した効果を得られたものの、定量的な評価までは至りませんでした。またコスト削減のメリット、及び、BIM の編集に必要な作業、費用負担がお互いを相殺したという点も今後の課題と言えるでしょう。