急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第九回)|深堀り取材【毎月3回更新】

現実世界をデジタル空間上に取り込み、再現し、多様な目的に援用する技術の普及が急速に進んでいる。それら効率的にデジタルツインを実現する際に威力を発揮しているのがAIである。

本稿では、デジタル情報を用いて、施設管理やインフラ管理時に、自然言語による指示でモデルの操作、検索、数量集計、分析を実行できるBIM/CIM施設管理クラウド「BIMSTOK」、独自AIによって不要な被写体を自動除去し、高精細な3 次元モデルを最短1分ほどで高速生成する新技術について概説する。

「BIMSTOK」における既存のAIアシスタント機能を大幅に刷新する大型アップデート実施

アーリーリフレクション(千代田区: 代表取締役田中喜之氏)では、BIM/CIM施設管理クラウド「BIMSTOK」における既存のAIアシスタント機能を大幅に刷新する大型アップデートを実施した。施設管理者やインフラ管理者は、専門的なBIM/CIMの知識や複雑なソフトウェア操作を習得することなく、自然言語による指示でモデルの操作、検索、数量集計、分析を実行できるようになる。

作成: アーリーリフレクション

複数のAIエージェントによる分散処理アーキテクチャを採用+回答精度と応答速度を向上

BIM/CIM施設管理クラウド「BIMSTOK」は、維持管理情報を紐づけて可視化することによって、従来、活用できていないデータの活用を可能にするサービス。維持管理に最適化された設計によってBIM/CIMツールに用いるように高性能なPCを必要とせず、事務用のPCでも快適な操作が可能となっている。ダム、道路、橋梁、河川施設などのインフラ分野を始め、庁舎、公共施設、工場、オフィスビルなどの施設管理分野における維持管理業務に特化した実用的なBIM/CIM活用基盤として導入が進んでいる。

当該アップデートでは、複数のAIエージェントによる分散処理アーキテクチャを採用し、回答精度と応答速度を向上させた。利用者からの質問や操作依頼は、まずルーターAIが内容を解析し、「数量集計」「情報検索」「モデル操作」などの処理内容に応じて最適なAIエージェントへ振り分ける。各エージェントが専門的な処理を担当することによって高速かつ高精度な回答を実現している。

「BIMSTOK」製品サイト

「BIMSTOK」のAIアシスタント(作成: アーリーリフレクション)

応答速度を従来比で最大5倍+回答精度ではより正確な回答+自然言語によるモデル操作

アップデートの要諦を列記する。

回答速度については、応答速度を従来比で最大5倍に向上している。複数のAIエージェントによる分散処理によって質問内容ごとに最適な処理を実行し、従来比3〜5倍の応答速度を実現した。これによってAIアシスタントが実務で活用できる水準になった。

人がモデルを確認しながら情報を探したり、操作・集計したりする作業に比べて短時間で必要な情報を取得できるため、日常業務における情報確認・判断業務の効率化に直接、繋がる。

回答精度については、より正確な回答を提供できる。AIが単純な情報検索だけでなく、モデル情報を基に計算・比較・条件判断を実施する。

一例として、「2階の窓の数」「窓の総面積」などの複数の情報を組み合わせて回答する高度な質問にも対応できる。

操作性の向上については、自然言語によるモデル操作を実現している。AIとの自然言語による対話を通じてモデル内要素の選択、表示、非表示などの操作を実行可能となっている。

一例として、「外壁を非表示にして」「柱だけ表示して」といった指示に対してAIが対象要素を特定し、モデル操作を実行する。これによって利用者は、BIM/CIMソフトウェアの操作方法やモデル構造を理解していなくても必要な要素を容易に表示・確認できるようになった。

維持管理の現場では、日々の点検や設備管理、報告業務に追われる中で、新たなBIM/CIMソフトウェアの操作方法を習得するための十分な時間を確保することが難しいという課題があった。BIMSTOKのAIアシスタントは、利用者が複雑な操作や専門知識を習得することなく、普段の会話と同じようにAIへ指示するだけで必要な情報へアクセスできる環境を実現する。これによって専門的な操作スキルを必要とせず、誰もがBIM/CIMを日常業務の中で活用できるようになった。

作成: アーリーリフレクション

誰もがBIM/CIMを活用できる環境の実現を目指してBIMSTOKのAIアシスタント機能を強化

国土交通省は、建設分野の生産性向上やインフラ維持管理の高度化を目的として2023年度からBIM/CIMの原則適用を推進している。一方で、維持管理の現場では、BIM/CIMソフトウェアの操作やデータ構造に関する専門知識が求められることから、モデルが十分に活用されていないという課題があった。

施設管理者が施設の維持管理時に必要とする情報は、設備情報や点検履歴、数量情報、関連資料など多岐に渡る。これらの情報がBIM/CIMモデル内に存在していても、必要な情報へたどり着くためには専門的な知識や操作スキルが必要となり、日常業務でBIM/CIMを活用するハードルとなっていた。アーリーリフレクションは、こうした課題を解決し、誰もがBIM/CIMを活用できる環境の実現を目指し、BIMSTOKのAIアシスタント機能を強化した。

今後は、BIM/CIMを起点にして施設・インフラに関するあらゆる情報を統合・活用できるプラットフォームの実現を目指す。加えて、

BIM/CIM内の情報だけでなく、点検記録や異常・不具合情報、関連資料、画像などの情報もAIが横断的に理解し、利用者が必要な情報へ迅速にアクセスできる環境の実現を目指す。

更に、施設ごとの情報を継続的に学習・蓄積することによって、過去の対応履歴や維持管理記録を踏まえた回答や提案を行う機能の開発を進めていく。BIM/CIM、維持管理記録、関連文書を統合的に活用できる環境を構築することによって、施設管理・インフラ管理業務における情報活用の高度化と意思決定の効率化を支援していく。

グローバルトップクラスの開発チームによる高品質・高セキュリティな開発を実現

アーリーリフレクションは、「世界を変えるはじめの反響となる」をミッションに、情報技術とデータ解析技術で社会課題に向き合う会社。モバイルデータを始めとするビッグデータの取り扱い、大手ナショナルクライアント向けに、国内最大規模のユーザー数のシステムの設計から開発まで一貫して手がけてきた実績に加え、グローバルトップクラスの開発チームによる高品質・高セキュリティな開発を実現している。

また、建設コンサルタント業界での経営経験やダム・河川・下水など、各種インフラ領域の重要業務経験者による実務に沿ったアドバイスで建設DX分野の課題解決や業務改善を支援している。

独自AIにより不要な被写体を自動除去+高精細な3 次元モデルを最短1分ほどで高速生成

NECでは、※1)世界で初めてスマートフォンなどに搭載された汎用カメラで撮影した映像のみから、独自AIによって不要な被写体を自動除去し、高精細な3 次元モデルを最短1分ほどで高速生成する技術を開発した。当該技術は※2)慶應AIセンターとの共同研究による成果。

当該技術では、高価な専用機材を用いることなく、電力などのインフラ設備や建設現場など変化の多い環境においても、現場の稼働を止めずに、現場状況を精緻に再現した3次元モデルを高速に生成できる。生成した3次元モデルは、一般的なパソコンやタブレットでも手軽に閲覧できるため現場状況を即時に把握できる。これによってリモートでの設備点検や異常時の迅速な判断を可能にする。

NECは当該技術を通じてインフラ事業者や建設業におけるデジタルツインの導入促進や人材不足の解消、設備の安全性向上に貢献していく。2027年度中に当該技術の実用化を目指す。
下図では、研修・研究開発センター「FM-Base(R)」で撮影した映像を使用。FM-Baseは、NECファシリティーズの登録商標

※1)世界で初めて: NEC調べ。

※2)慶應AIセンター: ビジュアルコンピューティング分野の第一人者である斎藤英雄氏との共同研究成果。

当該技術の概要(作成:NEC)

効率的・最適な粒の配置による3次元モデルの高速生成を実現+不要な被写体の自動除去

今回 NEC が開発した独自AIの技術特長を列記する。

効率的・最適な粒の配置による3次元モデルの高速生成を実現した。新技術は、現場映像内の見た目の複雑さを自動で解析する。見た目が複雑な部分には、3次元モデルを構成する粒を高密度に配置し、見た目が単調な部分は間引くことによって粒の数や密度を最適化する。これによって必要な部分は高精細に、他は簡素化し、精細さを損ねずに3次元モデルを生成できる。従来の※3)ガウシアン・スプラッティングの生成方法に比べて生成時間を10分の1に短縮し、最短1分ほどで高速生成する。
※3)ガウシアン・スプラッティング: ガウシアン・スプラッティングは、広がりを持った粒(ガウシアン)の集まりで空間を表現する技術。従来の3次元モデルと比べて軽量で、対象物の色や形状を高精細に再現できる特長がある。これによって設備や機材の細部形状・配置・外観、更にはメーターやボタンといった細かな部品まで歪みや情報の損失を抑えながら正確に3次元表現することが可能。

作成:NEC

不要な被写体の自動除去による現場状況の再現性の高さを有する。新技術は、3次元モデル生成の過程で、現場映像に映り込んだ作業員や一時的な物体などを自動で検出・除去する。現場の状況変化に応じて除去部分は周囲映像から背景を補完するため、稼働中の現場であっても不要物を除いた現場の状態を精緻に3次元モデル化できる。

作成:NEC

現場の稼働を止めず「現場の状態」を精緻に再現した高精細3次元モデルを高速で生成

近年、インフラ事業者や建設業の現場では、人材不足や設備点検における移動コストの増加を背景に、現場映像を遠隔地にいる監督者と共有し、リモートから判断や指示を行う取り組みが広がっている。一方で、現場からの映像共有だけでは確認したいシーンや視点を迅速に特定しづらいなど、現場状況を的確に把握する上で課題があった。

それらの状況下、現実の現場状況を仮想空間上に再現するデジタルツインの実現手法の一つとして、確認したい箇所を自由な視点で見られる3次元モデルの活用が期待されている。反面、高価な専用機材の準備や現場の稼働を中断しての撮影、更には撮影後の3次元モデル生成にも時間を要することが導入の障壁となっていた。

NECでは、このような課題に対する技術として、近年、映画やアニメの背景生成への応用が進み、注目されているガウシアン・スプラッティングと独自AIを組み合わせ、高精細な3次元モデルの高速生成を実現した。

今回の新技術によって高価な専用機材が不要となり、現場の稼働を止めず、「現場の状態」を精緻に再現した高精細3次元モデルを高速で生成できる。

加えて、生成した3次元モデルは一般的なパソコンやタブレットで閲覧できるため、現場状況を即時に把握できる。リモートからの設備点検や異常時の迅速な判断に加え、限られた人材の最適配置が可能となり、現場業務の効率化と高度化を支援する。

NECは、インフラ事業者や建設業などを中心に、デジタルツインの導入を進め、人材不足の解消、業務変革、設備の安全性向上に貢献していく。