BIM図面審査は本当に普及するのか―地方の現状と2029年BIMデータ審査への課題【BIM確認申請特集_後編】

前編では、吉川建設と大林組の事例を通じて、BIM図面審査の実践状況や運用効果を紹介した。申請業務の効率化や図面整合性の向上など、制度の可能性が見え始める一方で、普及に向けては依然として多くの課題が残されている。後編では、その実態を現場の声から探る。
※BIM図面審査: 国交省BIM図面審査制度説明会資料(出典:国土交通省ウェブサイト)

地方では行政側と民間双方の審査機関が「BIM図面審査」を受け付けていない事態も発生
北陸地方の某県庁所在地に本社を置き、BIMも初期から積極導入するなど、先駆的に業務のデジタル化に取り組んでいる建設会社にヒアリングした。「BIM図面審査」へ対応する要員も能力も充分に備えているにも関わらず、建築確認申請を受け付けるべき当該審査機関(県土木及び市建築指導課)も、県内唯一の民間審査機関も「BIM図面審査」を受け付けていないという事態が判明している。
BIMを有効活用している立場から「BIM図面審査」全般についても意見を聴取すると、「BIM図面審査」を受け付ける審査機関に確認データを提出する仕組み自体は、『審査手段の効率化という面では評価できる』としている。
一方で、申請内容の審査、判断という面では、『一般的な敷地の建築物の審査ならばいざ知らず、既存建物の増築や特異な敷地形状、更には、都市計法上の問題(開発行為等)も含めた場合、民間審査機関に提出することは手間がかかるのと、主事判断が必要な案件の場合の対応ができ難く否定的に考えている』との現況で評価が行われた。
改正建築基準法で審査機関に申請が集中するなどの「2025年問題」で確認申請に遅延発生中
関係者へのヒアリング、公開情報の収集などを続ける中で、「BIM図面審査」以前の問題としても、建築確認申請の遅延が大きく浮かび上がってきた。「2025年問題」ともいえる事態である。「2025年問題」を通して建築確認申請遅延の現状をみてみよう。
2025年4月1日に施行された改正建築基準法以降、審査機関に申請が集中し、審査待ちが多数発生する状況が続いている。2026年5月の段階でも、確認申請業務の集中により受付から審査開始まで通常より長期間を要しており、審査開始時期の目安は各機関のWEB申請ログイン画面でも確認するべく案内されている。これら遅延によって契約から着工までの期間が延び、着工日が1~2ヶ月後ろ倒しになるケースも生じている。
「2025年問題」とは、具体的には、法改正による審査項目の増加と複雑化である。2025年に省エネ基準適合義務化や性能表示制度の強化が実施され、従来と比較して大量の書類提出と確認項目が必要になった。構造に加えて設備や断熱性能などの確認事項が増え、審査に必要な時間が大幅に長くなっている。
それら法改正も受けて、申請図書の不備と補正対応の増加も生じている。審査が長引く最大の要因の一つが図書不足や記載ミスによる補正対応だ。申請図書の不備が多い状況が続き、補正が発生すると審査が滞り、再確認に時間が必要となる。省エネ計算書類や仕様書の不足が指摘されるケースが増えている。
次いで審査機関の人員不足も挙げられる。建築確認を担当する専門技術者の数は限られており、人員不足がボトルネックとなっている。審査機関ごとに審査スピードや運用方針に差があり、混雑状況も異なるため、案件によっては更に遅延が生じやすい。
電子申請システムへの移行期の混乱も生じている。建築行政のデジタル化が進む中、各自治体や審査機関で「建築確認申請の電子申請システム」への移行も進行中だが、当該システムの運用開始に伴う入力フォーマットの違いや運用トラブルも処理遅延の一因となっている。
確認申請のデジタル化と近似する「建築確認申請の電子申請システム」の現状も意見聴取
建築行政のデジタル化の一助とするべく先行して進められている「建築確認申請の電子申請システム」の現状についても見てみよう。
建築確認などの手続きは、「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」によってすでに電子申請が可能となっている。関連して国土交通省が公にしている※建築確認申請の電子化率の推移によると、2024年度第一四半期で約56%となっている。建築行政のデジタル化の先行事例として「BIM図面審査」の今後の推移とも近似すると考えられるため、電子申請の普及率が過半に留まっている背景には、どのような理由があるのか探ってみた。

紙の図面以外に有効な審査手法が確立されていないことが電子申請導入の高いハードル
国土交通省では、「規制改革実施計画」(2021年6月18日)において建築確認手続きのオンライン化を推進し、2025年度末に電子申請率50%という目標を掲げていた。ここでの目標は、2024年度第一四半期の約56%で達成されたものの、反面、依然として約44%の申請が紙ベースで行われている現況も明らかとなっている。背景には、何があるのか、ヒアリングを続けた。
行政側においては、条例に基づく届出において、複数の審査担当者が紙の図面に直接書き込みながらチェックを行うことで審査品質を保持しているケースが多く、紙の図面以外に有効な審査手法が確立されていないことが電子申請導入の高いハードルとなっている。これらの課題は、「BIM図面審査」によって解消される可能性は高いと考えられる。
審査機関側にとっては、電子申請システムの導入にはコストと手間が伴う。既存の紙ベースの業務フローを電子化するには、システム開発や職員のトレーニングが必要だし、特定行政庁と指定確認検査機関の間でシステムの互換性やデータ連携の課題も存在する。
システムと手続きの複雑さが課題となっている。電子申請には、ICBA(一般財団法人建築行政情報センター)が提供する「電子申請受付システム」などを利用する必要があるが、一つの物件で電子申請と書面申請を混在できず、建築確認を電子申請で行った場合はその後の全ての手続きを電子申請で行わなければならないなど運用上の制約がある。
前述したように、2025年4月には、建築物省エネ法と建築基準法の改正が施行され、省エネ基準への適合審査が建築確認手続きに組み込まれるなど手続き自体が大幅に変更された。これら制度変更への対応も電子申請の普及に影響を与えている可能性がある。
そして何よりも、建築業界では長年にわたり紙の図面や書類での申請が慣行となっており、電子申請への移行に対する抵抗感や新しいシステムへの習熟不足も原因と考えられる。
これらの要因から電子申請の仕組み自体は整備されつつあるものの、現場の審査慣行やシステム運用の複雑さ、法改正への適応などが障壁となり、普及率が約56%に留まっていると考えられる。このように先行している電子申請において明らかとなった諸課題を俯瞰しつつ「BIM図面審査」の普及を目指す必要があると考えられる。
多く聞かれた「BIMデータ審査」の開始に向けてBIM導入を推進すべきとの積極的な意見
前述したように、国土交通省調べでも、建築確認申請の電子化率は、2024年度第一四半期で約56%となっている。このように建築確認の電子申請制度が普及していない状況下で、建築確認申請の「BIM図面審査」が始まったことへの危惧について各方面にヒアリングした。
現実的かつ実利的には、「BIM図面審査」が強制ではなく、任意である点が建築確認申請の現業での混乱を回避すると考えられている。従来の紙や電子申請による確認申請も継続される。審査対象はあくまで従来の2次元図面であり、IFCファイルとして提示されるBIMデータは補助的かつ参考資料としての役割に留まっている。3次元のBIMモデルそのものを審査するのはなく、従来の審査プロセスを大きく変えるものではない。
そのため「BIM図面審査」に未対応の事業者が直ちに不利益を被ることはなく、各事業者が自社のデジタル化の進捗に合わせて段階的に移行できる。そこで「BIM図面審査」は新たに加わった選択肢の一つとする中で、最終的には、2029年度に迫る「BIMデータ審査」の開始に向けてBIM導入を強力に推進すべきであるとの積極的な意見が多く聞かれた。
「BIM図面審査」から3ヶ月経過時点で確認申請用CDEのアカウント登録が800件超となる
「BIM図面審査」向けの確認申請用CDE(共通データ環境)である「ArchSync(アークシンク)」を提供するICBA(一般財団法人建築行政情報センター)では、「BIM図面審査」が開始された約3ヶ月が経過した7月6日付けで進捗状況を公表した。
それによると、「ArchSync(アークシンク)」のユーザー登録数(ユーザーアカウント数)は、800件を超えたと報告されている。同財団によると、ユーザーアカウント数は、システム登録者の人数であり、審査側だけでなく、申請社側も含まれ、「アカウント数が単純に審査実態を明確に表すものではない」とも付け加えている。
「ArchSync(アークシンク)」のユーザー登録した確認審査機関や特定行政庁は30機関を超えたとしている。これらは確認審査機関の全体の約4分の3となり、特定行政庁については約4分の1となる。これら情報を公開したメディアであるBIMediaによると、4月末までに「BIM図面審査」による確認済証の交付件数は2件に留まり、各地で交付の動きが出始めている状況だとしている。
building SMART Japanが開発しICBAにOEM供給した確認申請用CDE 「ArchSync」の概要公開
確認申請用CDE(共通データ環境)である「ArchSync(アークシンク)」は、一般社団法人building SMART Japanが開発し、ICBA(一般財団法人建築行政情報センター)にOEM供給している。建築確認の電子申請時に、申請書やBIMソフトウェアから出力した設計図書PDFに加え、建築物を3次元で表示できるIFCデータを補足・参照情報として提出し、審査の効率化を図る。

PDFファイルのビューイングを行う。表示位置の移動や拡大縮小などの操作を行うと共に、2画面(2ファイル)の連動表示機能、複数画面表示機能、2点間の距離など簡単な計測機能を備えている。

見る方向を変更する機能、拡大・縮小の機能、任意の位置で軸方向に断面を切って表示する機能を持つ。加えて、IFCデータの空間構成やオブジェクトのプロパティ情報を確認する機能、2点間の距離などの計測機能も持つ。

なお、現状で稼働している電子申請システムと「ArchSync(アークシンク)」は、連動して機能するための仕組みが用意されている。具体的には、電子申請システム側で申請書情報(XMLなど)を入力し、BIM審査利用を通知すると、「ArchSync(アークシンク)」側に専用フォルダが作成され、図面データ(PDF)などのやり取りや審査が行われる仕組みとなっている。
「BIM図面審査」への一歩が3年後の「BIMデータ審査」そしてその先の新次元へと先導
これまで論考してきたように、「BIM図面審査」おいては、一部、図面による整合性確認が省略できるなど、審査の効率化メリットもある反面、申請者側には、入出力基準に沿って作成された誓約書及びBIMモデルから生成されたIFCデータの提出など、新たなスキルと業務負担が求められる側面もある。
「BIM図面審査」を新たなスキルも伴う手続きの変更と捉えるのではなく、自社の設計プロセスや情報の扱い方を再考するためのチャンスと捉えれば、生産的な営為となり得る。
手描きの図面が2次元CAD へと時を経て変遷したように、作業としての製図ともいえる2次元CADから情報の集合体である建築物をデジタル空間上に構築できるBIMへの進化は必然と考えられる。「BIM図面審査」へと踏み出す一歩が3年後の「BIMデータ審査」そしてその先の新たな次元へと先導すると考えられるからだ。


