急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第十一回)|深堀り取材【毎月3回更新】

ソフトウェアやデジタル環境のみに存在する従来のAIとは異なり、物理的な世界で稼働し、相互作用する人工知能システムを指すフィジカルAI(Physical AI) の援用が建設業界にも押し寄せている。
本稿では、共にヒューマノイドロボットによるなどによるフィジカルAIの試行に挑戦している清水建設と安藤ハザマのケースを報告する。

「AIロボット」の研究開発を本格化・国内建設業界の先陣を切ってAIロボットの実証を開始

清水建設では、建設現場における労働力不足の解消と生産性・安全性の向上を目的に、AIロボット(フィジカルAI)の現場実装に向けた取り組みを開始した。既にヒューマノイドロボットによる現場巡回やロボットアームによる塗装作業の実用化をターゲットに本格的な実証をスタートさせている。

フィジカルAIとは、カメラやセンサーなどによって現実世界の状況を把握してロボットや機械システムを適応的に制御するAI技術の総称。その代表格といえるのが現実世界の変化する環境に適応しながら、物理的な動作によってタスクを遂行する能力を持つAIロボットである。

現場内を巡回するヒューマノイドロボット(作成:清水建設)
ロボットアームによる塗装作業(作成:清水建設)

人手作業が多い建設業の作業を代替できる可能性が高いヒューマノイドロボットに着目

労働力不足が懸念される建設業界にとってAIロボットは、それらの課題解消への切り札の1つといえる。建設現場でこれまで活用されてきた従来型のロボットは、プログラムされた通りの動作しかできないために作業ごとの専用機であることが多かったのに対して、AIロボットを実用化できれば、複数の作業をこなす汎用機とすることができるからだ。

清水建設は、作業の進捗によって日々、環境が変化する建設現場や、人手による作業が圧倒的に多い建設業の作業特性から、それらを効果的に代替できる可能性が高いヒューマノイドロボットに着目した。手にカメラを持った状態で自律歩行するヒューマノイドロボットによる現場巡回や、作業者の動作を模倣学習したロボットアームでの塗装作業を実証している。

施工を進める「Torch Tower(トーチタワー)」の建設現場で実施した巡回作業の実証でも、手にカメラを持ったヒューマノイドが1.0m/秒の速度で自律的に歩行している。現実世界である現場の状況を感知・判断しながらあらかじめ指定した道順で巡回した。マルチモーダルLLM(大規模言語モデル)を駆使したAI技術によってカメラで撮影・取得した映像を解析することによって管理業務(現場巡回)の効率化に繋げていくことも検討している。

ソニーなどの協力を得ながら建設業界の先陣を切ってAIロボットの実用化を進めていく方針

ヒューマノイドロボットに代表されるAIロボットの開発や現場実装など、建設現場でのフィジカルAIの実用化に必要となるのが建設現場におけるデータ収集・分析やシミュレーション、AI学習モデルの構築、ロボットへの実装(実証試験)のサイクルを着実に回す、いわば建設業に特化したAIエコシステムの構築だ。

エコシステムの構築の過程で進められるAIロボットへの移植を目的とする技能のモデル化・アーカイブ化は、熟練技能者の高齢化が進む中で、日本の建設業が持つ高度な技能の伝承にもつ繋がるものと期待されている。

今後は、建設業に特化したAIエコシステムを作り上げることによって建設作業におけるロボット化の適用範囲を広げていく考えだ。将来的な労働力不足への懸念という建設業界における共通課題の解決に向けて、ソニーなど複数の企業の技術協力を得ながら、建設業界の先陣を切ってAIロボットの実用化を進めていく方針である。

建設工事へのフィジカルAI×ヒューマノイドロボット活用で建設機械の自動化を目指す

安藤ハザマと神戸市立工業高等専門学校(神戸市: 校長:林泰三氏)では、フィジカルAIを活用した建設機械の自動化に関する共同研究を開始した。既にヒューマノイドロボットによる建設機械の自動操作を目指し、本格的な実証を開始している。

ヒューマノイドロボットによる大型油圧ショベル操作(作成:安藤ハザマ)

技術や知見を融合させることでヒューマノイドロボットによる建設機械の自動操作を実現

安藤ハザマでは、建設業の立場から油圧ショベル等の建設機械の自動化に取り組んでい.る。他方、神戸高専システム情報工学科田原研究室では、AIロボティクスの分野から土工作業シミュレーションを活用した建機自動化AIの開発、ヒューマノイドロボットを活用した小型電動ショベルの自動化に取り組んでいる。

当該共同研究では、両者の技術や知見を融合させることによってヒューマノイドロボットによる建設機械の自動操作を実現する。その第一歩として、両者の専門性を最大限活用できる油圧ショベルの自動操作に着手した。

ヒューマノイドロボットによる小型ショベルの遠隔操作(作成:神戸高専)

有人作業のヒューマノイドロボットへの置き換えなどフィジカルAIの適用を進めていく

現在、センサー等で把握した現実世界の状況を基に物理的なロボットを制御する「フィジカルAI」が世界で注目されている。日本政府は、官民の投資拡大に向けた検討を加速しており、国土交通省も建設業でのフィジカルAI活用を考えるピッチイベントを開催するなど、i-Construction2.0で掲げた生産性向上を実現するための動きが活発化している。

建設業においては少子高齢化による深刻な人手不足が喫緊の課題だ。従来の自動化技術では困難だった現場状況に応じた臨機応変な判断を伴う作業にもフィジカルAIなら対応できるとして期待が高まっている。

このような背景から、安藤ハザマと神戸高専は、建設業における労働力不足の解消と生産性・安全性の向上を目的に、フィジカルAIを活用した建設機械の自動化に関する共同研究を開始した。

当該共同研究によってフィジカルAIを活用したヒューマノイドロボットによる大型油圧ショベルの自動操作を実現し、建設機械の自動化にフィジカルAIが有効であることを確認する。

その後は、大型油圧ショベル以外の建設機械の自動化や一般的な有人作業のヒューマノイドロボットへの置き換えなど、建設工事におけるフィジカルAIの適用を進めていく。

ロボットハンドを用いた操縦イメージ(作成:安藤ハザマ)