つくるBIMからつかうBIMへ-梓設計(後編)|深堀り取材【毎月更新】

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度も本格化しています。第7回は、BIM-FMソリューション、施設総合管理システムについて(後編)を解説します。

BIM-FMソリューション「AIR-Plate」の革新

 梓設計の研究機関である梓総合研究所が、施設・建物の維持管理・運用は、本来、建築主、オーナーがBIMを包含したデジタルツールを用いて行うべきであるとの知見に基づき開発したのがBIM-FMソリューション、施設総合管理システム「AIR-Plate」(登録商標出願中)だ。

 従来、BIM-FMソリューションの利活用には専門知識が必要で、導入コストがかかるなどの課題があった。本稿では「AIR-Plate」がそれらの課題をどのように解決し、建設プロジェクトの最上流に位置する建築設計事務所の職域を、竣工後の施設・建物の維持管理・運用にまで伸延するのかを概説する。

※AIR:Azusa Institute of Research

クラウド型オールインワン・ワークスペース「Notion」+ゲームエンジン「Unreal Engine」を採用

 「AIR-Plate」は、クラウド型のオールインワン・ワークスペース「Notion」と世界的にも広く普及しているゲームエンジン「Unreal Engine」を中核に据え、建築主、オーナー自らが使用できる環境を構築している。「Notion」が属性情報(I=information)、「Unreal Engine」が形態情報(BM=building model)を扱うが、共に、スマホ、タブレット、パソコンとデバイスもタイムリーかつ自由に選択できる。

 BIMモデルは、文字+数値からなる属性情報と3次元建物モデルからなる形態情報によって構成されている。「AIR-Plate」では、属性情報と形態情報を分離した上で、それぞれの特性と目的に応じて編集、加工、自在に紐付け、統合して利活用する手法を採用している。これによって設計・施工段階でのBIMモデルが維持管理・運用でのBIMモデルとしては適用しにくいなどの課題を解消している。

3次元スキャンで遠隔管理+BIツールで意思決定を支援+テンプレートでノーコード開発

 3次元建物モデルからなる形態情報は、ゲームエンジン「Unreal Engine」をビュアーとして運用するので、高額なBIMソフトも不要で、BIMソフトの専門知識がなくとも、建築主、オーナーが自在に操作できる。これによって居室などの特定の3次元建物モデルを、属性情報と紐付け、統合し、重畳表示することで、図面に頼らず直感的な操作が可能となる。

 普及が進む3次元撮影カメラを用いて施設・建物を3次元スキャンし、リモートで遠隔地から現況を視認できる。BIMのLOD(詳細度)を下げることによって構築・再構築にかかるコストや手間を縮減しつつも、3次元スキャンによって情報の精度を高く保つことが可能となる。特定の家具、備品、設備などにタグ(付箋)を追加したり、保全情報の履歴として空間にタグを追加でき、「Unreal Engine」をビュアーとしてそれらの属性情報と形態情報を共に重畳表示する。

 維持管理・運営に関わるデータを収集・分析・加工し、経営戦略のための意志決定を支援するBI(Business Intelligence)ツールも提供している。現況の分析に留まらず、予防的な戦略を含めた施設・建物のライフサイクルマネージメントが可能となる。また、AIの情報学習機能によって議事録やメモを要約し、アクションプランを自動生成するなど、定型業務の無人化も指向している。

 さらに、目的に応じてデータテンプレートを開発し、必要なデータを共有、検索、編集、利活用できる。データテンプレートの開発には、専門的なプログラミング技術は不要で、いわゆるノーコードでの開発が可能だ。

目的に応じて開発・運用される各種データテンプレート

維持管理・運用コストの最小化以上に重要な施設・建物の経営資源としての価値の最大化

 現状では、施設・建物の維持管理・運用におけるBIM-FMソリューションの援用は端緒についたばかりだ。ましてや、既存建物についてはBIM以前に、デジタル化の手法さえも確立されていない。施設・建物のライフサイクルは長期に渡るにも関わらず、紙ベースの図面で保存されているケースがほとんどで、検索もままならず、図面と現況が一致しない事例も多々ある。

 それらの課題を解決するべく、「AIR-Plate」では、主要なファンクションである3次元スキャンを用いて、施設・建物の点群データを取得し、3次元の形態情報と属性情報を統合、データテンプレートを用いてさまざまな目的に応じて利活用できる。 

 建設コストは氷山の一角であり、その数倍に及ぶ維持管理・運用コストが水面下に隠れている。「AIR-Plate」による維持管理・運用コストの最小化以上に重要なのが、施設・建物の経営資源としての価値を最大化することだ。

 施設・建物の全容を明らかにするデジタル情報に基づき、最適なリノベーションを行えば、運用実績も改善できる。正確な資産評価が可能となることで、不動産としての資産価値も明確化でき、企業・組織のバランスシートの信頼性も高まる。「AIR-Plate」の開発によって、建築設計事務所として技術の射程距離を施設・建物の維持管理・運用にまで網羅的に伸延し、新たなビジネスモデルの構築を目指している。

形態情報と属性情報を分離する概念図