日建設計による、知見とデジタル技術とハイブリッドした最先端事例|深堀り取材【毎月更新】

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度も本格化しています。第8回は、ロボットと人が共存、共生できる「ロボットフレンドリー」の最先端運用事例ついて解説します。

日建設計によるロボフレ研究

日建設計では、東急不動産、東急コミュニティー、ソフトバンクと協働して、ロボットと人が共存、共生できるロボットフレンドリー=「ロボフレ」な環境を構築するための調査、研究を行い、報告書として公表した。建築工程の最上流に位置する設計事務所として培ってきた知見を、デジタル技術とハイブリッドすることによって、完成後の施設・建物の維持管理・運用にまで伸延した最先端の事例として特筆できる。

日建設計の光田祐介氏(デジタル推進グループデジタルソリューションラボ・アソシエイトコンサルタント)と後藤悠氏(デジタル推進グループスマートプラスラボ・リーダー)に、本研究で得た知見と今後の展望について聞いた。本研究は、経済産業省による補助事業「令和4年度革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の一環として実施している。

ロボットとの関わりを動的に設計して、施設・建物での共存・共生を実現するルール作りが進む

実証実験は、東急不動産が維持管理・運用する東京ポートシティ竹芝オフィスタワーにおいて、令和3年度「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」で提案された評価指標「ロボフレレベル」に基づき、ロボット運用時の課題と対策を明らかにするべく行われた。

現状の施設・建物では、ロボットと人との共存、共生が想定されていない。ロボットを安全かつ効率的に運用するためには、ロボットの挙動を含めて施設・建物との関わりを動的に計画、設計し、ロボットとの共存、共生を実現することが求められる。

比喩的に捉えると、Googleは世界中の地図データを公開しているが、特定の施設・建物にまつわるデータは持ち合わせていない。設計事務所は、BIMデータやCADデータを活用し、施設・建物とロボットとの挙動を動的に捉え、リアルに駆動する動線の設計を実現する。

本研究では、複数のロボットを群管理するロボット管理(管制)システム」において、基礎的な地図データとして平面図などを用いており、ロボットの位置情報から建物のどこを走行しているかの確認や、ロボットのタスクやスケジュールの管理を目指している。ここでも、BIMに象徴されるデジタル技術を援用する設計者としての知見が生かされている。

なお、ロボットの群管理については、ロボットフレンドリー施設推進機構(Robot Friendly Asset Promotion Association:RFA)において標準化の協議を進めている。

建築上(物理環境関連)と運用上(館内走行関連)の課題に対して、実証実験を行い対策を探る

コンビニでもセルフレジの設置が進むなど、背景には少子高齢化が進行する中での労働力不足があり、本研究で対象としたオフィスビルにおいてもロボット技術の発展を受けて省人化が視野に入ってきた。

ロボット本体は、LiDER(Light Detection And Ranging)センサーを用いたマッピングによって生成した点群データを基に、障害物などを検知し、移動経路を認識して挙動している。実験に際しては、建築上(物理環境関連)の課題と運用上(館内走行関連)の課題に大別して実施した。

建築上の課題は、施設・建物の部位、機能に準じて挙げている。平面的には、点字ブロック、目地、毛足の長いカーペットなど、微細な段差であり、立体的、空間的には、光の反射・鏡面、間仕切りなどのガラス面、普段は閉鎖している防火扉などである。機能面での検証としては、充電ドックの適正な設置場所+保管場所やエレベータとの連携の確保などである。

また、運用上の課題として挙げたのは、人と接触する危険性の高い曲がり角や滞留への対策であり、特にロボットが苦手な階段の大きな段差や回避のタイミングを図るのが難しいドアの開閉などへの対策である。

配送ロボットの活動シーン
建築上・運用上の課題(まとめ)

施設・建物側+ロボット側+人の側が取るべき対策の軽重をまとめた星取表を公開している

ロボットを実際に駆動させた実験の結果、得られた対策を概説してみよう。
施設・建物側がとるべき対策としては、段差や傾斜そして溝の解消であり、LiDERが発する光の反射・鏡面に対しては、床や壁の仕上材の変更である。

防火扉などについては、日常的に開閉しても良い箇所ではロボットの近接を感知して開閉する自動扉とし、エレベータとの連携など、開閉が伴う駆動設備に対しては、適宜、設定を行う。合わせて充電や保管のためのスペースを確保する。

ロボット側での対策としては、発生の確率が高いと考えられる曲がり角での人とロボットの遭遇実験の結果、衝突防止には、角の部分を大回りしたり、警笛を鳴らすといった対策が有効であり、人に対しては床のステッカーで告知する対策をとるべきとした。

人の側の運用上の対策では、あらかじめ施設利用者にロボットの存在を周知することから始めて、一部、ロボットの駆動を補助するとし、ロボット対応の走行エリアを尊重するなどとした。

 それら建築上の課題と運用上の課題及び対策の軽重をまとめた星取表に見られるように、今回の報告書は、ロボットと人が共存、共生する施設・建物を計画し、設計する際の道標となる。

人と接触する危険性の高い曲がり角での対策事例
対策をまとめた星取表