つくるBIMからつかうBIMへ‐梓設計(前編)|深堀り取材【毎月更新】

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著者:樋口 一希

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度も本格化しています。第6回は、BIM-FMソリューション、施設総合管理システムについて解説します。

BIM-FMソリューションとAIR-Plate

日本建築学会主催「BIMの日シンポジウム2023」における墓田京平氏(梓総合研究所取締役・梓設計AX team leader)の講演「つくるBIMからつかうBIMへ」を端緒に、「つかうBIM」として開発されたBIM-FMソリューション、施設総合管理システム「※AIR-Plate」(登録商標出願中)について、2回に分けて報告します。
※AIR:Azusa Institute of Research

施設・建物の維持管理・運用に関わるPDCAサイクルを実現するプラットフォーム構築

 施設・建物の維持管理・運用は、大量のデータ処理と共に、各種の書類作成や連絡・報告に追われるなど膨大な手間がかかる。加えて現況での経年劣化の把握だけでなく、瑕疵が発生する前に、予防保全することで施設・建物を長寿命化するのも喫緊の課題となっている。

 「AIR-Plate」は、施設・建物の維持管理・運用を担うプラットフォームとして、経年に関わる履歴(旧)データから現況(現)データに加えて、予防に関わる将来(新)データまでを一括して統合し、優れて有効なPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act cycle)を実現する。

 プラットフォームを構成するツールとしては、データテンプレート、3次元スキャン、BI(Business Intelligence)、AI(Artificial Intelligence)などを用意し、それらツールによって実現するファンクションとしては、施設情報、ライフサイクルマネジメント、モニタリング、カルテなどを提供する。

 一例として、施設情報は、敷地・建物概要などからなる基本情報、施設台帳、設備台帳、備品台帳、竣工図書デーダース、維持管理計画などから構成されている。


更新業務の状況や施設運営費の推移などを可視化して運営分析を行うBI(Business Intelligence)の画面例

「つくるBIM」は設計施工でのBIM+「つかうBIM 」は維持管理・運用段階でのBIM

 「つくるBIM」とは、建設業の内部において援用される設計・施工段階でのBIMである。設計BIMは、設計意図の見える化+共有と平・立・断面図間の整合性確保によって設計品質の向上に寄与し、施工BIMは、3次元施工モデルの援用やICT建機との連携によって施工現場での生産性向上に貢献する。

 「つかうBIM」とは、施設・建物の維持管理・運用を担うBIM-FMソリューションであり、梓総合研究所では、「つかう」主体は、本来、建築主、オーナーであるとの知見に基づき「AIR-Plate」を開発した。

 BIMの普及に伴い、施設・建物の維持管理・運用を担うBIM-FMソリューションは複数、登場したが、多くは建築主、オーナーが使うには難解だ。拡張性にも乏しく、導入コストも発生するし、即時かつ同時に、また長期に渡って施設・建物の挙動を把握しにくい。

 それらの課題を解決するべく、デジタルの優位性を最大限に活かし、建築主、オーナーに最も近い位置にある建築設計事務所として「つかうBIM」を開発した。

BIMへの知見を基に、設計事務所の技術の射程距離を施設・建物の維持管理・運用まで伸延

 BIMモデルは、属性情報(I=information)と形態情報(BM=building model)から構成されている。建設プロジェクトの進捗に伴い、BIMモデルは、優れた流通性、可用性によって工程間を超えていくが、設計・施工でのBIMモデルは維持管理・運用段階のBIMモデルとしてはそのまま適用できない。

そのため属性情報においては、設計・施工での属性情報から維持管理・運用のために不要な情報を差し引き、逆に維持管理・運用のために必須な情報を追加入力する必要も生じる。

 形態情報においては、設計から施工へと高度化したBIMモデルの詳細度(LOD= Level Of Detail・Level Of Development)では、維持管理・運用には重厚長大過ぎて適用できない。そのため維持管理・運用では、形態が判別でき、紐付けられた属性情報と重畳させて参照できる程度のシンプルな形態でよく、ここでも詳細度を退行させるか、新たに再入力する必要がある。

 「AIR-Plate」では、表計算ソフトのスプレッドシート状のインターフェイスをもつクラウド型オールインワン・ワークスペース「Notion」を採用しているので、建築主、オーナーが施設・建物に付随する属性情報を自在に扱える。3次元の形態情報を表示、参照するためのビュアーとしては、ゲームエンジン「Unreal Engine」を採用している。

これによって専門的な知識を要するBIMソフトを使用することなく、建築主、オーナーは、形態情報に容易にアクセスできる。

建築設計事務所は、建設プロジェクトの最上流においてBIMモデルの変遷を俯瞰できる立場にあることから、BIMモデルの詳細度に象徴されるさまざまな課題を把握し、「AIR-Plate」を開発する知見を得ることとなった。  

それらの知見を基に、建築主、オーナーが「つかうBIM」として「AIR-Plate」を実現することによって、建築設計事務所として技術の射程距離を施設・建物の維持管理・運用にまで伸延することが可能となった。


ゲームエンジン「Unreal Engine」による3次元建物モデルの表示例