鴻池組にみるBIMの経過と現況、建設業の今後の新たな方向性|深堀り取材【毎月更新】

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度も本格化しています。第4回は、「BIMの経過と現況、建設業の今後の新たな方向性」について、実際に業務に携わった方の視点から解説します。

BIMソフトと設計者の連携:鴻池組の9年間の挑戦と変革とは

鴻池組の大阪本社を訪ね、黎明期のBIMの状況を「BIMソフトと設計者の連携」として報告したのは14年4月であった。9年余を経て、内田公平氏(建築事業総轄本部工務管理本部技術統括部ICT推進課課長代理)氏を再訪し、これまでのBIMの経過と現況、建設業の今後の新たな方向性について聴いた。

最初にBIMのメリットとして明らかとなった容積率の確認など、設計情報の共有・見える化

鴻池組では、13年にICT推進課の前身であるBIM推進課を立ち上げ、設計段階でのBIM援用を進めた。設計者の試用を経て、設計者自らが使うBIMソフトとして福井コンピュータアーキテクトの「GLOOBE」を選定した。また、BIMソフトの運用、管理システムを構築し、スキルアップ教育にも着手している。

最初にBIMのメリットとして設計情報の共有と見える化が明らかとなる。BIMモデルを構築し、ボリューム検討からパース作成を行う過程で、即座に面積・容積率の確認やチェックが可能となり、設計品質の向上が実現した。

建築基準法に付随する日影・天空率・逆日影計算などが「GLOOBE」内で可能となり、更に設計効率も改善されていく。構造計算に基づき構造モデルを構築、プレゼンツール「リアルウォーカー」に展開、構造の課題を早期に発見するなど、3次元モデルの見える化効果を最大限に活用した。

BIMと他のデジタル技術(ICT)を連携して、援用するICT推進課を中心に建設業の未来像を提案

鴻池組は総合建設業として設計から施工へと一貫してBIMを援用し、さらに他のデジタル技術(ICT)と広範に連携するため17年にICT推進課を設立した。ICT推進課では、日本建設業連合会主宰の「魅力ある建築生産の場づくり・人づくり」をテーマにしたアイデアコンペで「Craftsman NEO(クラフトマンネオ)」を発表し、高い評価を得た。

25年の大阪万博を目途に、ICT技術と古来からの匠の技を組み合わせ、伝統技術を新たに生まれ変わらせる挑戦だ。そこでは、コミュニティーツール、ロボット、AI、ドローン、3Dプリンタ、クラウド、ウェアラブル端末、スマートグラスからなる先端技術を用いた建設業の未来像を提案した。

設計施工の各フェーズでのBIM援用の成果を、エビデンスに基づき組織内で共有・見える化

設計フェーズでのBIM援用案件においては、エビデンスに基づき組織内で成果を共有し、見える化するべくモデル作成、一般図作成、申請図作成、実施図作成、干渉チェック、デザイン検討、シミュレーション、3D模型、モデル合意、パース作成、アニメ作成、VR利用、構造積算渡し、統合モデルの14項目からなる案件追跡表を整備し、実利も追求している。

設計フェーズでの案件追跡

施工フェーズでのBIM援用案件では、仮設、解体、杭・掘削・山留、基礎・逆打、RC躯体、免震、鉄骨、外壁・外部建具、設備、昇降設備、内装・内部建具、シミュレーション、外溝、VR、3Dプリンタの16項目を設定、施工現場ごとの動向から個々の現場での取組状況までを共有、工事全体の推移、進捗までを見える化している。


施工フェーズでの案件追跡

地上での3次元スキャン+ドローンでの空撮で得られた点群データを、改修工事などに活用

国土交通省による「i-Construction」での点群データの活用推進策を受けて、ICT推進課においてもBIMと他のデジタル技術(ICT)を連携するBIM/ICTともいえる技術領域の援用が進んでいる。点群データの活用が急進する背景には、点群アシスト機能追加という「GLOOBE」の改良も寄与している。

「これまでのBIM」+「これからのBIM」

地上からの3次元スキャンでは、現況の躯体を残した状態を撮影し、設備の検討を行うなど改修工事に利用している。精度確認(出来形確認)時には、点群データとBIMデータの比較や点群データと図面データ(断面・展開など)の重ね合わせに利用する。

3次元スキャナーで取得した点群データ例

また、ドローンの空撮は敷地内の土量の確認に有効で、点群データと敷地図を重ねて配置検討や建物確認(図面との差異)にも利用している。