【BIMの日 独自取材⑤】デジタルツインが切り拓く近未来の世界~映画の世界が現実に~ |及川 洋光氏(清水建設)
2022年2月22日に行われた「BIMの日」にて独自取材を行いました。
「BIMの日」とは、BIM建築やそれを取り巻く業務に求められる価値を考えることで、BIM の位置付けを改めて見直し、今後の活用のヒントになるようなシンポジウムです。BIM活用の生の声を全8回の連載にてお届けします。
第5回の清水建設DX推進部部長の及川氏は清水建設でエバンジェリスト(伝道師)としてDX化を推進しています。デジタルツインなど清水建設の最新DX動向について及川氏の発表をレポートします。
▼「BIMの日」その他の回の連載記事はこちら▼
第一回連載:BIMの祖型―CAD黎明期の試みに学ぶ | 建築情報学技術研究WG 種田 元晴氏(文化学園大学)
第二回連載: コロナ禍で見えてきたキャンパスBIM-FMのためのIPD | IPDコラボレーション研究WG 飯島 憲一氏(大阪電気通信大学)
第三回連載:BIMと関連するデジタル情報の連携や活用事例の研究|情報連携技術WG 柴田 英昭氏(FMシステム)
第四回連載:建築性能の見える化によるSDGs 達成への貢献|林 立也氏(千葉大学)
第五回連載:デジタルツインが切り拓く近未来の世界~映画の世界が現実に~ |及川 洋光氏(清水建設)※本記事です
第六回連載:from Room to Planet Mixed Reality ~空間デジタル技術の拡がり~ |伊藤 武仙様(ホロラボ)
目次
デジタルツイン事例紹介
グローバル企業、世界中の工場をデジタルツイン上で管理
国内外で約60の工場が稼働するグローバル企業。工場稼働状況をデジタルツイン上で管理しています。設備効率やエネルギー効率などさまざまな指標がリアルタイムに反映され、分析可能となっています。工場内の設備不具合情報も瞬時に把握することができます。
デジタルツイン化により、従来までの人による確認作業が効率化されました。コロナ禍による渡航制限も踏まえて、今後このような一元管理が効果をもたらす可能性を強く感じます。
台湾のスマートダム構想
台湾の台中地方のダムをデジタルツイン化する試みです。従来ダムは中央監視コントローラーで管理していました。管理室には60個以上のモニターがあり、監視カメラ映像や様々なデータやグラフが映し出されます。それらはバラバラの情報であり、専門職員が適切な分析することにより管理判断がされていました。熟練したスキルを伴う属人的な面が強かったのです。しかし台湾でも職員の高齢化と技術継承の問題により、作業の標準化・一元化が求められ、デジタルツインを目指すことになりました。デジタルツイン化により各ダムを一極集中で管理するシステムです。
また、現状把握だけでなく、未来予測も可能となります。例えば、台風時のダム水位のシミュレーションです。天気データをAIが自動解析することで、何時間後に満水に達するかなどの事前予測ができるのです。
地震による被害状況もデジタルツイン上で把握できます。従来、地震があった際は、職員が山奥にある現場まで見回りに行っていました。現地でのコンクリートのひび割れ、土砂崩れの把握などはとても大変な作業でした。
デジタルツインではこれらの作業をドローンに置き換えます。現場状況がドローンからリアルタイムで中継され、中央監視室で見ることができます。映像はもちろんのこと、3Dスキャンしたポリゴンデータも映し出され詳細な地形の変化も分析可能となりました。デジタルツイン化によるダム管理の効率化はさまざまな可能性を秘めていると思います。
MR技術、ホロレンズの活用
デジタルツインのデータはMRのホロレンズを通すことでより効果的に活用できます。パソコンではモニターサイズに限りがあり平面的な見え方ですが、ホロレンズでは、現実世界に対して360度立体的に投影できます。
テクノロジーは日々進歩しています。テクノロジーにどのようなアイデアを吹き込み、競争上の優位性を上げていくかが今後は重要となります。建築業界でどのような活用方法があるかは、清水建設だけでなく業界の皆さんと一緒になって考えていきたいと思います。
遠隔制御/支援
リアルタイム性のある遠隔制御の事例です。6軸ロボットアームの動きが5G回線を通じリアルタイムで遠隔にいる人間のMRに投影されます。
画面左が実際のロボットアーム、画面右がMR上に投影されたバーチャルなロボットアームです。ほぼリアルタイムで動きが反映されています。ロボットアームのモデルデータがMR上に組み込まれています。センサーが動きを感知することで、MR上のロボットアームにデータが転送される仕組みです。ロボットアームを見ることができない遠隔地でもほぼリアルタイムに動きが把握できます。逆に操作指示をMR側から実際のロボットアームに出すことも可能です。このような遠隔操作、MR技術はBIMデータとの連動でさらに可能性が広がると思います。
テレポーテーション
テレポーテーションはカメラで撮影した点群データをリアルタイムで転送する技術です。Microsoft社製のAzure Kinectカメラ2台で女性の前後の3Dスキャンします。2台のスキャンデータをデイジーチェーン技術により瞬時に統合します。すると、女性の3DデータがMR上に転送され、バーチャル空間に実際の女性がいるかのように動き出します。
点群データは建築業界やBIMでもキーとなるテクノロジーだと感じます。このようなリアルタイム性のある点群データは可能性があるのではないでしょうか。
清水建設「デジタルゼネコン」への変貌
豊洲スマートシティ、オフィス・ホテル棟をデジタルツイン化
2021年より清水建設は「デジタルゼネコン」としてブランディングしています。ものづくり(匠)の心を持ちながらも、空間づくり・サービス提供に対してデジタルなアプローチを推進するというものです。
豊洲スマートシティはその先駆けと言えるプロジェクトです。官民含めた13社で協議会をつくり、豊洲のスマートシティ化を目指しています。国土交通省「スマートシティ先行モデルプロジェクト」にも採択され、清水建設は事務局企業として、リーダー的な役割を果たしています。
街の中心部である市場前駅に立地するオフィス棟(MEBKS TOYOSU)、ホテル棟(ラビスタ東京ベイ)は清水建設の設計施工によるものです。
清水建設は都市のデジタルツインプラットフォーム化を進めています。建物のデジタルツイン化はもちろんのこと、それを取り巻く都市までもデジタルツイン化するというコンセプトです。
具体的には建物データに交通、人流、天気、購買などの人の行動や環境に関するデータを連携させ、様々なサービス提供への活用を検討しています。
バーチャル豊洲のイメージです。BIMデータをベースに車や電車、人の流れもデータに取り込むことで、災害対策などよりよいまちづくりに活用できる可能性があります。
新東名高速道路川西工事、現場をデジタルツイン化
国土交通省推進の建設工事IT化「i-constracionConstruction」で優秀賞を受賞した土木事例です。新東名高速一部区間の建設工事で、隣接する高速道路を稼働させながらの工事でした。
工事にあたり現状高速道路に重機が接触するリスクなどを回避する必要がありました。そのため、工事前に現場をドローンなどで3Dスキャン、点群データ化し、デジタルツインをつくりだしました。そのデジタルツイン上で工事を詳細にシミュレーションし、安全性を事前確認したのです。
シミュレーションに対しては、遠隔地から関係者がアドバイスできるようにVRネットワークによる遠隔巡回を導入しました。これにより遠隔地(本社や別現場などから)から知見のある関係者が適切に指示を出すことが可能になりました。
実際、本工事はデジタルツイン上の工事とほぼ同内容で安全に行うことができました。
左がデジタルツイン上の工事映像、実際の工事映像
このような事例を踏まえると、BIMだけでなくデジタルツインを用いて、建築業界でできることが多くあると感じます。DXな一歩を清水建設と一緒に踏み出していければと思います。
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