【建設・建築DX EXPO 2026 夏 東京】BIMとAIで建築生産はどう変わる? 長谷工コーポレーションと久米設計が示した実践と課題

「建設・建築DX EXPO 2026 夏 東京」で、特別講演「ゼネコン・設計事務所と考える BIM推進の現場の実態と今後の展望」が行われました。登壇者は、芝浦工業大学 建築学部建築学科教授の志手一哉氏、株式会社長谷工コーポレーション エンジニアリング事業部 DX推進室 室長の中野達也氏、株式会社久米設計 DX本部 本部長の古川智之氏です。
講演では、BIMを単なる作図の道具ではなく、設計・施工・維持管理へ情報をつなぐ基盤として捉える考え方が示されました。国際標準を踏まえた情報管理、設計施工一貫のBIMモデル、蓄積データとAIの連携、設計初期からBIMを使う実践など、3者がそれぞれの立場から取り組みを紹介しました。後半のディスカッションでは、BIMマネージャーの役割や人材育成、詳細図とBIMモデルの使い分けが議題となりました。
BIM普及の先に見えてきた課題
BIMの普及が進む一方で課題も残る
志手氏は、建築分野のBIMは普及期に入ったとの見方を示しました。ただし、BIMを導入しただけで建築生産の課題が解消するわけではありません。基本計画の段階で要求水準が固まらず、設計者が不足を補ったり、施工段階で新たな関係者が加わってデータを作り直したりするなど、工程をまたぐ手戻りが起きています。
BIMの利用範囲は、作図やモデル作成から建築生産全体へ広がっています。デジタル化で不要になる作業をやめ、利用者の負担を減らすことが、BIMを定着させる前提だと説明しました。
共通データ環境が整っていても、古いデータや複数の情報源を参照していれば、判断に食い違いが生じます。講演では、設計と施工でデータを分ける運用、日本独自のルールへの依存、企業によって異なるBIMマネージャーの役割も論点になりました。AI活用が広がるほど、元になるBIMデータの正確性や構造を理解し、継続して管理する役割が重要になります。

BIMを建築生産のデータ基盤へ
BIMは情報を流す仕組みであり、AIとつながるデータ基盤
3者に共通していたのは、BIMの価値をモデル作成そのものではなく、モデル内の情報をどう管理し、次の工程や意思決定に生かすかという点で捉えていたことです。
志手氏は、国際標準に基づく共通言語と運用ルールの必要性を示しました。中野氏は、設計と施工で同じモデルを使い、蓄積したBIMデータをAIが読み取れる形に整える取り組みを紹介しました。古川氏は、BIMを設計後の入力作業ではなく、設計者の検討そのものを支える手段と位置付けました。
BIMの情報を設計から施工、維持管理まで活用できる状態を目指して
目指しているのは、各工程で確認した情報を次の工程へ正しく渡し、後戻りや再入力を減らす建築生産プロセスです。設計初期から施工側の知見を取り込み、設計と施工で同じモデルを使い続けることで、着工後に施工用モデルを一から作り直さない運用が紹介されました。
過去のBIMモデルや図面、写真を整理し、条件に合う間取りや関連情報を探す仕組みも紹介されました。BIMモデルから必要な情報を取り出して安全面を確認したり、過去案件の仕上げデータを参照してAIが案を作ったりと、データの使い道は広がっています。
BIMとAI活用の実践事例
手戻りを防ぐ情報管理、全体負荷を削減したフロントローディング

志手氏は、工程ごとに確認するステージゲートとCDEのワークフローを組み合わせ、手戻りを防ぐ考え方を説明しました。確認を終えた情報だけを次の工程へ渡し、古いデータを見ない仕組みを整えることで、設計情報を一貫して流しやすくします。
フロントローディングについては、単に作業負荷を設計初期へ移すのではなく、作業を前倒ししながら全体の負荷も下げることが重要だと指摘しました。また、国際標準を使える環境の整備、日本の実務に合わせたローカライズ、運用を担うBIMマネージャーの教育を今後の課題に挙げました。
長谷工コーポレーションの設計施工一貫BIMとAI活用

中野氏は、BIMモデルをデータ活用の中心に置き、意匠・構造・設備を一つのモデルにまとめ、企画、設計、施工、販売、維持管理、大規模修繕、建て替えにおける一貫したBIM活用を見据えたフローを紹介しました。
設計用と施工用でモデルを分けず、設計段階から施工側が納まりや施工性を確認します。情報をBIMに集約するため、設計、施工、BIM設計の各部門が連携する体制も整えています。
AI活用では、過去のBIMデータや図面、写真などを整理し、条件に合う間取り、関連する平面図、設計者情報を参照できる仕組みが示されました。AIに部材の探し方や建築上の条件を伝え、BIMモデル内の室外機を抽出して安全確認を支援する例も紹介されました。BIMが直接持っていない情報を加え、一般の設計者も使えるようにする基盤づくりは、社内のDX人材が担っています。
久米設計の設計BIMとAI活用

古川氏は、設計の開始時点からBIMを使った事例を紹介しました。設計内容を固めてからBIMへ入力するのではなく、検討しながら入力を進めています。
上下階で構造条件が大きく異なる事例では、従来のように2次元図面を見比べるだけでなく、意匠と構造の担当者がBIMモデルを一緒に確認しながら設計を進めました。仕上げも、内容をすべて決めてから入力するのではなく、仕上表と図面を行き来しながら検討とBIMへの入力を並行して進めます。
AIとの連携では、BIMから部屋名を取得し、過去案件の仕上げデータベースを参照してAIが自動的に仕上げ案を作成する例が示されました。方位別のガラス面積をBIMモデルから抽出するため、AIが解析用プログラムを作る例も紹介されました。古川氏は、BIMを基盤にAIを設計フローへ組み込み、「AI前提の設計フロー」へ変えていく方向性を示しました。
BIMマネージャーと詳細図を巡る議論
ディスカッションでは、BIMマネージャーにはモデル作成だけでなく、上流工程から竣工後までデータをつなぎ、スケジュールや関係者も含めて管理する役割が必要だとの意見が出ました。一人でBIM、AI、設計、施工のすべてを担うのではなく、組織の支援を使いながら、幅広く確かなBIM知識と建築・施工の専門性を組み合わせる方向性が示されました。BIMに加え、AIや現場知識など、もう一つの強みを持つことも提案されました。
一方、すべての形状や図面をBIMに入れることが適切とは限りません。部分詳細図や矩計図などは、技術的な向き不向きや必要な詳細度に応じてCADと使い分けているとの説明がありました。BIMモデルを成果品としてどこまで作り込むかは、業務量や契約上の位置付けも含め、引き続き整理が必要です。
今後について
今後は、BIMを企業や工程ごとに閉じた仕組みにせず、共通言語と運用ルールに沿って情報を受け渡せる環境を整える必要があります。国際標準を理解した上で、日本の実務に当てはめるための整理や教育も必要です。
API等によってBIMデータへアクセスしやすくなれば、設計者以外の関係者も自然言語で情報を確認できる可能性があります。それは、BIMに対するニーズが高まることを示しています。また、確認検査や維持管理など、設計以外の段階へ活用を広げる方向性も示されました。その一方で、AIが扱う元データの正確性やモデルの作り方、情報の意味を理解する人材は、これまで以上に重要になります。
BIMマネージャーには、ソフトの操作に加え、建築・施工の知識、データ管理、工程管理、関係者の調整を組み合わせることで、全体を通してデータを流していく・マネジメントしていく役割が期待されます。

まとめ
今回の講演からは、BIMを「導入するかどうか」ではなく、「情報をどう流し、業務や意思決定にどう使うか」が問われる段階に入ったことが見えてきます。モデルを作るだけでは、工程間の分断や手戻りはなくなりません。CDEやステージゲートといった運用、組織体制、データを管理する役割がそろってこそ、BIMは建築生産の共通基盤として機能します。
AIとの連携によって、BIMの位置付けも変わりつつあります。自然言語で検索や分析ができるようになれば、BIMを直接操作しない関係者にも使い道が広がります。ただし、AIが参照するデータの品質と、結果を検証する専門性は欠かせません。BIMとAIの組み合わせは専門知識を不要にするものではなく、正確なデータを整え、適切に問い、結果を判断できる人材の価値を、むしろ高めると考えられます。
今後のBIM推進を考えるうえでは、ツールの導入件数やモデルの作り込みだけでなく、不要な作業をどれだけ減らせたか、情報を次の工程へ円滑に渡せたか、蓄積データを新たな業務にどう再利用できたかという視点が重要になりそうです。