急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第十四回)/技能継承にAIを活用する大和ハウス工業と設計初期業務を効率化する大林組の事例|深堀り取材【毎月3回更新】

建設業における生成AIの援用が加速化しているのと合わせて援用の高度化が進行している。当初は、人手の削減や作業効率の改善を目的としていたが、直近では、実務に即したナレッジを生成AIとのコミュニケーションの中で磨き上げ、より実利的な課題解決と人的資産の確保に向かいつつある。
本稿では、AIで熟練技能をデータ化し、建設業の課題解決を目指している大和ハウス工業、生成AIで設計初期段階の要件整理の効率化を図る大林組の事例を報告する。
人財不足・熟練者不足に伴う技能継承などの課題解決に向けて協業に関する基本合意書締結
大和ハウス工業と※エムシーディースリー(渋谷区: 代表取締役社長飯田正生氏)では、建設業界における人財不足、熟練者の減少に伴う技能継承などの課題解決に向けて協業に関する基本合意書を締結した。今後、両社は、AI及び※データ基盤による課題解決の可能性を検証していく。
※エムシーディースリー: 2025年7月にインダストリー・ワン、エムシーデジタル、MCデータプラスが合併し、発足した。「産業に寄り添い社会課題に向き合い続ける」をミッションに3社が持つ強みであるデザイン・デジタル・データを掛け合わせ、AI・デジタル技術を活用した事業構想からサービス提供まで一貫したオペレーティングモデルを構築することで、顧客価値の最大化を目指す。
※データ基盤: 社内外に散在するデータを収集・統合・蓄積し、分析や活用を可能にするITシステムの総称。

技能者・協力会社・元請会社の三者にとって価値ある仕組みを共創するべく基本合意書締結
建設業界では、少子高齢化を背景に技能者の減少と高齢化が進み、熟練技能者が培ってきたノウハウの継承が大きな課題となっている。加えて資材価格の高騰や労働時間規制、猛暑日の増加など現場を取り巻く環境の変化は激しさを増し、経験は勿論、データに基づく判断が不可欠となっている。
現状においては、設計・調達・施工・維持管理など各工程で生まれるデータは、各社の個別管理に留まり、十分に活用されておらず、従来の枠を超えた連携が求められている。
そのような状況下、大和ハウス工業が有する施工に関する知見及び建設・建物データとエムシーディースリーが有するデータ基盤・AI技術・実装力を掛け合わせることによって技能者・協力会社・元請会社の三者にとって価値ある仕組みを共創できるよう基本合意書を締結することとなった。
両社は、熟練技能者の作業・動作データの取得、現場技能者・施工会社の技術力の可視化、それらのデータの活用によって重複作業の削減や適正工期の実現、品質・安全の向上と人財の確保・育成・定着を実現させると共に、工種や事業領域、元請・協力会社の枠を超え、建設業界に広く活用できるよう検証を行う。
両社は、当該合意に基づき実証・検証を進める。得られた知見や成果については、段階的に検討・評価を行い、将来的には、建設業界の課題解決に資するソリューションの提供を目指す。

『本協業を通じて得られる成果を現場で働くすべての方々・建設業界全体の持続的な発展に還元』
『日本の建設業界では、技能者の高齢化と担い手不足が進み、現場で培われてきた知恵と技をいかに次世代へ引き継ぐかが、建設業界共通の喫緊の課題となっています。当社は、現場を支える技能者・協力会社を大切にしてまいりました。
一人ひとりの努力や熟練の技が正しく評価され、適正な処遇に還元される循環モデルをつくることが、人財不足と技能継承という課題への本質的な答えだと考えております。この循環モデルを実現するには、現場の知見と先進的な技術の融合が不可欠です。だからこそ、AIとデータ基盤に強みを持つMCD3様とご一緒できることを大変心強く感じております。
本協業を通じて得られる成果を、当社グループにとどめることなく、現場で働くすべての方々、そして建設業界全体の持続的な発展に還元していくことを目指してまいります。』(大和ハウス工業執行役員技術本部技術戦略担当:北真夫氏:原文ママ)
『当社は、「産業に寄り添い社会課題に向き合い続ける」をミッションに掲げ、AI・データ・デザインを掛け合わせたソリューションを様々な産業に提供しております。とりわけ建設業界に対しては、長年にわたり「建設サイト・シリーズ」を通じて、現場業務のデジタル化を支援してまいりました。
その中で日々向き合ってきたのが、技能継承とデータ活用という、業界構造に根差した重要な課題です。その解決に向けて、業界をリードする大和ハウス工業様とご一緒できることを大変光栄に思います。本協業で得られる知見と成果を起点に、建設業界全体の生産性向上と、現場で働く方々がより活躍できる環境づくりに貢献してまいります。』(エムシーディースリー 代表取締役社長:飯田正生氏:原文ママ)
法令データや社内に蓄積された知見を活用した生成AIを業務に適用+その効果を検証する
大林組では、建設プロジェクトの設計初期段階における法令調査・要件整理業務の効率化に向け、法令データや社内に蓄積された知見を活用した生成AIを業務に適用し、その効果を検証した。
その結果、法令調査や要件整理に要する時間を短縮できることを確認し、設計者が設計検討や顧客対応により注力できる環境づくりに資することを確認した。これによって法令順守と設計品質の更なる向上を図ると共に、顧客への提供価値向上に繋げていく。
大林組では、今後、当該取り組みで得られた知見を基に、設計プロセスにおける生成AI活用を更に深化させ、設計者がより創造的な業務に注力できる環境整備を進める。

設計初期段階で生成AIサービスを活用+関連法令や設計要件の抽出・整理、留意点を可視化
設計初期段階の法令調査・要件整理業務の効率化を図るため※外部の生成AIサービスを活用し、関連法令や設計要件の抽出・整理、留意点の可視化を行った。
当該取り組みでは、法令データに加え、社内に蓄積された過去の法令解釈や設計検証の知見をナレッジとしてAIエージェントプラットフォームに組み込むことによって設計初期に確認すべき論点や留意事項を根拠資料と共に参照できる仕組みを構築している。
これによって法令対応業務の効率化に加えて、設計者と法令確認を担う関係部門との認識共有を促進すると共に、設計後半で顕在化するリスクの早期把握や手戻りの抑制に繋げている。
※外部の生成AIサービス:Tektome(テクトーム)社が提供する建設特化型のAIエージェントプラットフォーム「Tektome(テクトム)」
法令調査・要件整理の所有時間約67%短縮+論点整理・確認観点の明確化に効果を実感した割合100%
生成AIを活用した業務効率化の効果を確認するため、実務者を対象に検証を実施した。主な検証結果は、以下の通りである。なお、本稿に記載の意識調査は、設計部門を対象に実施したものである。
具体的には、法令調査・要件整理に要する時間を約67%短縮、法的検証における論点整理・確認観点の明確化に効果を実感した割合:100%であった。
これらの結果から、生成AIの補助的な活用によって設計初期段階における法令・条例対応の効率が向上することを確認した。
