急速に発展する建設分野での生成AI援用の現在地を多分野に渡り追跡(第十二回)|深堀り取材【毎月3回更新】

建築物の室内環境(温度・湿度・CO₂濃度など)を制御するなど主要な内部機能を担う設備領域におけるAI援用の事例を報告する。

新菱冷熱工業(新宿区: 代表取締役社長加賀美猛氏)とアジアクエスト(文京区: 代表取締役会長CEO桃井純氏)が協働で開発した

AIを活用して室内環境(温度・湿度・CO₂濃度など)を可視化・予測する予測型デジタルツインである。

将来的な空調を見据えた基盤技術—AI×CFDで室内環境を可視化・予測するデジタルツイン開発

新菱冷熱とアジアクエストでは、BIMを基盤とし、AIによる※CFD技術を活用して任意の時期における室内環境(温度・湿度・CO₂濃度など)を可視化・予測する「AI-CFD環境予測デジタルツイン(スマート・エア・ツイン)」の初期版を開発したと公表した。

※CFD:Computational Fluid Dynamics(数値流体力学)

快適性と省エネ性の両立に向けた分析・シミュレーションを支援「スマート・エア・ツイン」

「スマート・エア・ツイン」は、建物内部から外気までを含む空気の流れを3次元空間で再現し、従来まで個室単位に限定されていたCFD解析対象を建物全体に拡張している。

これによってZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現に向けて重要となる外気導入と空調の最適な組み合わせを検討するための快適性と省エネルギー性の両立に向けた分析・シミュレーションを支援する。

「スマート・エア・ツイン」の主な機能を列記する。

室内環境の可視化を可能にしている。なお、実測データとの連携は、リアルタイムではなく、取得タイミングに基づく反映である。

  • BIMデータによる建物形状の3次元表示機能及び点群データによる内装表現
  • センサーにより取得した温度・CO2濃度・PMV等の空間分布表示
  • CFD解析結果に基づく温度・気流の可視化(アニメーション表示)
  • ビーコンを用いた在室者の位置情報表示

任意時点の環境を再現する「AI-CFD」を実装している。

AIを活用し、季節・時刻・空調条件などを指定することによって短時間で解析結果を生成し、表示する「AI-CFD」を実装している。約2,500件のCFD解析データを用いて※CNNモデルを構築することによって高速かつ柔軟な環境予測を実現している。

今回開発した「AI-CFD」は、通常のCFD解析と比較して解析速度を200分の1以下に短縮することが可能だ。これによって実空間では検証が難しい条件下での環境状態を再現し、運用改善や設備更新における意思決定を支援する。

※CNN:Convolutional Neural Network(畳み込みニューラル・ネットワーク)

スマート・エア・ツイン アプリケーション画面(作成: 新菱冷熱)

空調制御システムとの連携強化で設備システムに反映する環境最適化・自動制御へ展開

新菱冷熱は、長期ビジョン2030「未来・環境エンジニアリングカンパニー」を掲げ、建設DXの推進と新規事業創出力の強化を通じてサステナブルな脱炭素社会への貢献を目指している。

アジアクエストはAI・IoT・クラウドなどの先端技術を活用し、企業のDX/AIX推進を支援する「AIインテグレーター」として事業変革を支援している。

両社は、新菱冷熱のイノベーションハブ(茨城県つくば市)における空調設備・IoT基盤とアジアクエストのAI実装技術を組み合わせ、環境の可視化と予測を可能にするデジタルツインの構築に取り組んでいく。

「スマート・エア・ツイン」は、イノベーションハブにおける環境グラデーションの可視化に活用されている。今後は、「AI-CFD」の予測精度の検証・高度化を進めると共に、空調制御システムとの連携を強化することによって解析結果を設備システムにフィードバックする環境最適化・自動制御への展開を目指す。

快適性と省エネルギー性の両立を目指して設計・建設された施設「イノベーションハブ」

イノベーションハブ本館は、外皮性能の工夫によりZEB(Zero Energy Building)化を図りながら、快適性と省エネルギー性の両立を目指して設計・建設された施設である。2024年3月に開設され、設計・施工・維持管理に渡ってフルBIM活用を目指した建物として運用されている。

当該施設では、自然に近い環境から空調でコントロールされた環境までの空気の流れを利用し、多様な温湿度・光環境を組み合わせた「環境グラデーション」を実現している。  

利用者がバリエーション豊富な環境と働く場所を自由に選ぶことができるABW+e(Activity Based Working + environment)を形作っている。

来訪者からは、フロア内で連続的に温湿度等が変化する環境グラデーションのビジュアル表示を希望する声が寄せられている。

「スマート・エア・ツイン」本館の環境グラデーション(作成: 新菱冷熱)

PMVに基づいて空調を制御する「CFD連携PMV制御」を開発・運用+効果の検証が目的

「スマート・エア・ツイン」本館において採用したCFD技術を用いた空調制御は、室内の温度や湿度などの分布を考慮しながら制御できるため、局所的な不快感の低減や快適性の向上に資する技術として期待されている。

センシング情報や天気予報の情報を基に近未来の室内環境をCFD技術で予測しながら、人が感じる温冷感を示す指標である※PMVに基づいて空調を制御する「CFD連携PMV制御」を開発・運用し、その効果を検証している。

CFD技術を用いた空調制御は、快適な室内環境の維持と省エネルギー化の両立を目指すものだが、解析には高い計算負荷が伴うことから効率性が課題となっていた。それらの課題への対応策としてAIや機械学習を活用したCFD解析の手法に注目が集まっている。

※PMV:Predicted Mean Vote(予想平均温冷感申告)の略称で温度、相対湿度、平均放射温度、気流、着衣量、活動量の6要素によって人がどのように感じるかを表した温冷感指標。ISOの標準では、PMVが±0.5以内を推奨している。

1時間後の気象予報から将来の室内環境を予測し、温度・湿度・放射量・気流を快適かつ省エネルギーに制御する空調システム「CFD連携PMV制御」(作成: 新菱冷熱)

総合エンジニアリング企業-新菱冷熱+ AIXを支援するAIインテグレーター-アジアクエスト

新菱冷熱は、1956年創業以来、空気調和、電気設備、給排水衛生、コージェネレーションシステムなどの幅広い分野で経営ビジョン「さわやかな世界をつくる」の基、国内外の大型プロジェクトを手掛けている総合エンジニアリング企業。

DX推進においては、2022年に発足したデジタルトランスフォーメーション推進本部を中心に、デジタルを活用した業務プロセス改革に取り組んでおり、国土交通省BIMモデル事業への参画などBIM導入も積極的に展開している。2025年10月からスタートした第16次中期経営計画においても、データドリブン経営を実現するべくDX推進とデジタル基盤を更に強化するためにさまざまな施策を実行していく。

アジアクエストは、高度なAI技術を核に、AIX(AIトランスフォーメーション:AIによる業務変革)及びDXの実現を支援するAIインテグレーター。

AI・IoT・クラウドなど多様な技術に加えて建設・製造・小売といった各業界の知見を合わせ持つプロフェッショナル集団として、コンサルティングから設計・開発・運用、人材育成まで一貫して伴走している。PoCから大規模システム構築まで確かな実装力で応え、顧客と共に新たな価値の創出と変革を実現している。