なぜ日本のBIMは遅れていると言われるのか
毎月25日更新「BIMコンサルの視点で読み解く」は株式会社AMDlab(本社:兵庫県神戸市)のCEO 藤井 章弘氏による連載です。
今月はなぜ日本のBIMは遅れていると言われるのかについてです。
藤井氏は、BIMをはじめとする建設テックに精通した一級建築士の資格を持つ建築構造デザイナー/構造家です。BIMエキスパートの藤井氏が選んだ注目記事を見て、建設DXの最前線のキャッチアップに役立ててみてください。
日本におけるBIM普及の現状と課題を探る
「日本のBIMは遅れている」というのは本当なのか。もしそうであればなぜそうなのか。日本のBIMが遅れているとだけ聞いても、それだけではわからない点が多く、対策を講じることも難しいです。例えばBIMといってもどの部分が、どこと比べてなのか等、さらに前に進むためにも、理解を深め、踏み込む必要があります。
また、世界と比べてと言っても、BIMが全く普及していない国もありますし、もしかしたら進んでいる国より日本の方が優れている部分もあるかもしれません。仮に日本が遅れているのであれば、短所を直すよりも長所を伸ばす方が、日本にBIMを普及させるポイントになるかもしれません。
実際に、日本では年々BIMは普及していっておりますが、今ひとつ伸びに欠けるというのが現状ではないでしょうか。一方で、海外に目を向ければ、BIMが建設プロセスの中心的な役割を果たし、効率性や品質向上に大きく貢献している国もあります。
そこで、なぜ日本のBIMは海外と比べて遅れている、あるいは異なっていると言われているのか、本稿ではその理由を探ってみようと思います。
日本のBIMが遅れている理由
BIMで世界を見た時に、まず比較対象となるBIMが進んでいる国はどこなのかを知っておきましょう。アメリカを筆頭にフィンランドやノルウェー等の北欧やイギリスやドイツ等の欧州諸国、アジアではシンガポールや中国といった国々でBIMが進んでおります。
それらBIM先進国とそれぞれ比較すると、細かな部分も含めて異なる点もさまざまですので、ここでは簡単に、BIM先進国を世界と一括りで捉え、それに比べて日本と異なっている点や日本が遅れていると言われる理由を以下に複数リストアップします。より詳細な各国の特徴や日本との差異は、国の違いが出ていて面白いので、興味のある方はぜひ調べてみてください。
文化と教育の違い
日本と海外のBIMが異なる理由の一つに、文化や教育の違いがあります。海外ではBIMが積極的に推進され、建築や土木などの専門教育にもBIMが取り入れられています。また、海外ではBIMを活用したプロジェクトが多く、実践的な経験を積む機会が豊富です。
一方の日本は、昔と比べてかなり改善されてきておりますが、BIMに関する教育や啓蒙が不十分であり、まだ従来のCAD中心の設計も多いです。そのため、BIMに対する理解や技術力が不足しています。
業界の構造と環境の違い
日本の建設業界は、ゼネコンや設計事務所がプロジェクト全体をコントロールし、下請業者が細部を担当するというケースが多いです。所謂多重下請け構造ですね。このような環境では、情報の共有や協力体制の構築が難しく、BIMの効果を最大限に引き出すことが難しいです。また、BIMを活用するためには様々な関係者が協力し、情報を共有する必要がありますが、それが十分に行われていない現状もあります。
共通データ環境(CDE)の未整備
BIMの導入において重要な要素の一つが、共通データ環境(CDE)の整備です。CDEについてはこちらの記事(https://news.build-app.jp/article/26839/)を参照ください。海外ではCDEが整備され、効果的な情報共有が実現されていますが、日本ではまだCDEの整備があまり進んでおりません。業界全体での協力体制や情報共有に関する理解の不足等が影響していると考えられます。
技術の普及と啓蒙活動の不足
日本でBIMが普及しにくい要因の一つとして、関係者や発注者からBIM活用を求められていないという点も大きいです。この点については、過去の調査データがあるので、こちらの記事(https://news.build-app.jp/article/27177/)も参考にしてみてください。
BIM先進国では、国が決めたルールが既にあることにより普及が進んでいる側面もあります。BIMは単なるツールではなく、その理念やメリットを理解し、建設業界だけでなく全体で共有する必要があります。そのためには、政府や業界団体、教育機関が連携し、BIM普及のための啓蒙活動や技術者の育成が必要です。特に中小企業や地方の建設業者に対する支援が不足しており、その課題を解消するための施策が求められています。
最後に
日本のBIMが海外と比べて遅れている理由は、文化や教育の違い、業界の構造や環境の違い、共通データ環境の未整備、技術の普及と啓蒙活動の不足など複合的な要因が影響しています。そのため、諸外国と異なっていて当然であり、BIMを活用するための方法は一つではなく、日本の現状を整理し、様々な視点から考える必要があります。
近年、徐々にではありますが、BIMの重要性が認識されつつあり、政府や業界団体、企業も積極的に取り組み始めています。将来的にはそういった取り組みが実を結び、BIMの普及と活用が進むことが期待されます。特に、教育・啓蒙活動の充実や中小企業への支援策が進めば、BIMの利用がより一層広がると考えられます。