AIとBIMの可能性と求められる能力

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著者:藤井章弘

毎月25日更新「BIMコンサルの視点で読み解く」は株式会社AMDlab(本社:兵庫県神戸市)のCEO 藤井 章弘氏による連載です。
今月はAIとBIMの可能性についてです。

藤井氏は、BIMをはじめとする建設テックに精通した一級建築士の資格を持つ建築構造デザイナー/構造家です。BIMエキスパートの藤井氏が選んだ注目記事を見て、建設DXの最前線のキャッチアップに役立ててみてください。

AIとBIMの融合による可能性とは

昨今のAIの進化は凄まじく、生成AIが普及し、誰でも簡単にAIを使えるようになりました。読者の中にも業務や学習といった様々な場面で実際にAIを活用しているという方も少なくないのではないでしょうか。本記事では、そのような進化を見せるAIと建設業界で活用されているBIMが組み合わさることでどのような可能性があるのか。実例を交えながらご紹介できればと思います。

AIとBIMの活用例

そもそもAIと言っても、人によって捉え方が異なるかもしれません。例えば汎用的なAIを思い浮かべる方もいれば、何か特定の用途に使われているAIを浮かべる方もいるかもしれませんが、どちらも正解で、AIと呼ばれている領域は広いです。AIでできることは様々ですが、他の技術と組み合わせることでさらに強力なソリューションを生み出します。

ChatGPTもAIの技術だけでは広く使われるサービスにはならず、Webの技術等と組み合わされることで初めて一般の私たちでも簡単に使えるようになり、価値を生んでいるわけです。BIMもAIと組み合わせることで強力なソリューションを生み出します。データがあるからこそ何かを判断したり、生み出したりできるAIが作れ、一方でBIMは、その言葉の通り建物の情報を扱う概念であり、AIと相性が悪いわけがないのです。

実際にAIとBIMを活用して、様々な現場業務の課題が解決されてきており、業務効率化のための有力な手段になっています。それらの技術は、設計や施工から維持管理に至るまで、建物のライフサイクル全体での活用が可能です。

例えば、BIMで設計を進め、AIで最適な設計案を複数生成することや、施工時にBIMモデルを活用したAIによるスケジュール管理やIoTを組み合わせた現場の安全性管理、維持管理時にはBIMモデルとAIによる設備機器の管理等、AIとBIMの活用の場面は様々で、実際に既に事例としてあります。その他最近の生成AIを使った事例もいくつかご紹介します。

ChatGPTでBIMソフトを操作

BIMソフトで作業を行っていると、どうしても面倒な作業や操作が発生します。高機能なソフトの場合、実現したいゴールに向かう道筋が複数存在する場合があります。しかし、ユーザーからするとそこに至る操作手順はどうでもよくて、結果のモデルさえできればよく、最適な手順はシステム側で考えて貰えば良いわけです。人間が複雑な操作や機能を覚える必要はないのです。

そもそも全ての機能を覚えて最適な手順を考えられるユーザーは高機能なソフトほど限られています。そこで、ChatGPTを使い、自然言語で指示してRevitを操作する試みがあり、株式会社AMDlabのテックブログでもその方法を簡単に紹介しております。(https://amdlaboratory.com/amdblog/%E3%80%90revitxchatgpt%E3%80%91chatgpt%E3%81%ABrevit%E3%82%92%E6%93%8D%E4%BD%9C%E3%81%95%E3%81%9B%E3%82%8B/

また、燈株式会社でも、建設業に特化したLLMを開発し、チャットでBIMモデルを操作する試みもありました。

BIMモデルをAIでレンダリング

レンダリングの高速化も進んでおりますが、画像生成AIを活用することでさらに早く様々なレンダリングが行えるようになってきています。最近ではかなりリアルな動画を生成できるAIも生まれており、ウォークスルー等の動画も当たり前にAIで作成する日も近いかもしれません。

AIとBIMの今後と求められる能力

AIとBIMは、既に様々な価値を生み出しており、今後も建設業界の発展に欠かせない重要な技術であることは間違いないです。そしてそれらの技術は、これまで以上のスピードで進化し、来年あるいは来月には状況が大きく変わっているということも十分に考えられ、その時どうなっているかという予測が非常に難しいです。

技術自体の進化と同時に活用の幅も広がり、一つの建築だけでなく、都市や社会インフラといった幅広い領域でも活用が進み、もしかしたらそれは例えば自動車メーカーのような建築の事業会社ではない会社を起点に起こされるものかもしれません。進化する技術が、分断された世界に横串を刺し、様々なものが繋がっていくことが予想されます。

今後、業務の自動化が進むことは誰も目にも明らかです。しかし、その自動化した業務自体が無くなるというのはまた別の話で、単にAIとBIMだけでは語りきれない部分です。

極端な話をすると、AIとBIMで設計の自動化は進んでいますが、設計自体がなくなってはおらず、設計自体がなくなれば自動化なんてそもそも不要になるという劇的な変化は、少なくとも今のAIやBIMの技術だけでは難しそうだということはわかっています。見方を変えると、これまで人間が行っていた業務の多くは代替の可能性があり、AIとBIMによっても切り拓いていかれる領域です。

上記のことを踏まえて、現場の実務者目線では、今後AIとBIMのどちらかができるというのでは足りず、共に詳細はわからずとも適切に使えるようにはなっておくべきだと考えます。

技術の進化のスピードの話をしましたが、結局人間の能力はそのスピードでは進化できないので、うまく波に乗る術を身につけないといけません。ただ技術に振り回されないように、自身の軸と広い視野を持ち、早いペースで知識を更新し続けることは、必携のスキルになってきているのではないでしょうか。