【連載】「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:日本のBIMの課題とこれから(第二回)
連載企画「なぜ日本のBIMはだめなのか?」では、BIMプロセスイノベーション 伊藤久晴氏の建設DX展BuildAppブースでの講演を再録します。
BIMエバンジェリストとして多数の実績を誇る同氏の日本のBIMの歩みについてや課題について、そしてあるべき姿など、BIMを活用する上で大変示唆に富む内容となっています。
第2回ではテーマの「なぜ日本のBIMはだめなのか」について、現状の日本の建設業における課題を具体例を交えながら解説していきます。
他の連載記事はこちら
第1回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:日本のBIMの現状とは?(第一回)
第3回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:NOHARAのBIMとは(第三回)
第4回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:BIM標準の違いを解決するヒントとは(第四回)
第5回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:日本の建設業の未来はどうなる?(第五回)
日本のBIMはなぜだめなのか?
まず、何がダメなのかというところを少し、お話ししましょう。
全部ではなく、いくつかのポイントで日本のBIMがダメなところをお伝えします。
実は、BIMのダメなところをお伝えするというのは、私にとっても痛いことなんですよね。
私は長年BIMに取り組んできまして、それでもいまだにダメな部分を言う私自身が嫌いなのですが、やはりあえて皆さんに知ってほしいという意味で、お話をさせていただきます。
課題①BIMの意味が違う
そもそも、BIMの意味が違うんです。
皆さん、BIMをどういう意味でとらえられていますでしょうか。BIMとはなんであると思っているでしょうか。もう一つ言えば、BIM自体がどんな意味を持つ、どんな価値を持つと考えているでしょうか。
皆さん、会社でBIMに取り組んでいらしてますよね。
では、会社は「BIMとはこういうものだ」と明言していますか?
会社は、「BIMをやる」と言います。でも、「BIMとは何だ」とは言っていないんですよ。
「何だ」と言っていないから、みんな勝手な解釈をして違うことをしてしまうんです。
やはり、きちんとした本質的な意味が必要だと私は思っています。
まず一つ考えなければいけないのは、日本ではBIMの定義が、基本的にツールやソフトウェアなどの技術にかたよっていることが非常に多い、ということです。
例えば、Revitを使う、CADを使う、ということはBIMソフトウェアにおいて当然必要なことです。
だけどそれらは、BIMの全体の中で考えたら、ツールの一つでしかないんですね。
海外では、BIMの定義がまったく違うわけです。「情報を作成管理するプロセス」となっているのです。
ソフトウェアですとか、3次元でモデリングをするとか、それを使うですとか、そういったことを言っているわけではないのです。
では、その情報を作成管理するプロセスというところを定義する、それが企業としてできているところは少ないと言えます。ですから、このあたりから考えなければいけないということになります。
ここで、ツールやソフトの技術として考えることと、情報を作成、管理するプロセスとして考えるのと、この2つにどういう意味の違いがあるのかを考えてみます。
これは明白なのですが、ツールとして考えた場合は、RevitやCADのソフトで扱う部分だけがBIMの範囲とされます。
だから、それ以外の部分、例えば、2次元CADで作ったものや見積もり、現場写真など、まったくBIMに関係しない部分が発生してしまいます。
ところが、プロセスとして考えた場合は、ソフトウェアを使おうが、何をしようが、設計・施工すべてがプロセスの中に入るわけです。
つまり、プロセスとして考えた場合、例えば、2次元CADでの仕事、書類、議事録、写真、そういうものもすべてこの一つのBIMに入ると考えてください。
これはISOの定義でもあるんです。Building Information Modelと定義をしているのが、スライドの左の図です。
Building Information Modelはプロセスです。そのことを考えていかなければならないということがあります。
課題➁各社のBIMが異なり、つながることができない
二つ目のポイントは、各社のBIMが異なり、つながることができないというところです。
どういうことを言っているのかというと、いろんな会社の方がここに来られていると思いますが、皆さん、それぞれの企業が違う仕組みで仕事をしているのが現状じゃないでしょうか。
Aという会社とBという会社では、仕組みが違っていて、仕組みが違うことが何を起こしているかというと、まず、そのしくみを作るために非常に大きなお金が必要になるということ、そして、仕組みが違うためにデータを渡せないということも起こります。
ノウハウが渡ってしまう、ファミリが渡ってしまうなど、そういったことを恐れて、データの交換ができないんです。このように、BIMの仕組みが異なっているということが、会社同士の連携の阻害要因になっています。
例えば、Revitで言えば、ネイティブモデルを渡さなければ図面は描けないわけですね。IFCのモデルを渡したところで、そこから図面を描くためには、もう1回、作り直しに近い作業が発生します。
だから、設計から施工へ、ネイティブモデルを渡すということをしなければいけないのですが、仕組みが違うから、渡しても意味がない。
渡せない理由はたくさん出てくるんですね。権利が不明確ですとか、どうせ使えないですとか、ファミリ自体がすぐには使えないですとか、そのようなことがたくさん言われます。
ここを越えていかなければならないというのが一つのポイントになります。
では、どうやって越えていくのか、そのポイントについて、いますぐにここで答えは申しませんが、私もこの活動を行っていきます。
近いうちに、共通の環境を皆さんにご提案していきたいとも思っております。つまり、共通の技術基盤です。
みなさんが同じ土俵で仕事をしたら、いろいろなものを開発する際にも共通になります。そして、ファミリも自由に流通できるようになります。これが、非常に大きな問題点になろうと思っています。
課題③古いプロセス
三つ目は、先ほど申しましたプロセスですね。古いプロセスが足かせになっています。
一つの例をお話しします。
皆さんの中には、工場の設計に携わったことがある方もおられると思います。工場というのは、古いラインがあったとして、そのラインの中に、新しい技術、新しい機械を入れたら、ライン全体を見直すことになるはずなんですよね。
例えば一人一人が手作業で行っている中に新しい機械を導入したら、この機械だけではなく全体のラインから考えるのが当たり前です。
しかし、日本の建設業界では、全体を見ずにその部分だけしか見ていません。
例えば、2次元で行っていた作業をRevitに置き換えたら、それでうまくいくと思っていますが、これは違います。工場の全体的なラインを見直すということをしていただきたいと思います。
ラインを全体的に見直すことによって、さまざまな問題や課題がそこに見えてくると思うんです。
仕事量は増える一方だということになっています。
これが、先ほど申し上げた、生産性を伸ばせないことにつながってしまう、ということになります。
まとめ
今回は、次回の連載では日本の建設業でBIMが進まない理由を大きく3つに分けて解説していただきました。次回は、現状を踏まえ「ではどのようにすればBIM化が進むのか?」という内容となります。