【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第5回)課題と今後へのヒント
連載企画「BIM原則適応で起こるこれからの建設DX」では、芝浦工業大学・蟹澤教授にお話を伺っています。
国土交通省では2023年に「小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用」としており、建設DXの大幅な推進が期待されています。本記事では、国土交通省の役割や建設業の人手不足問題についてご紹介します。
目次
他の連載記事はこちら
▼第1回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第1回)BIMのこれまでと現状
▼第2回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第2回)BIM「本来の役割」で業界変革
▼第3回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第3回)日本と海外のBIMの違い
▼第4回:【連載】BIM原則適応で起こるこれからの建設DX(第4回)国土交通省の役割
BIMの現状をまとめると|「技術面」では問題なし
これまでの連載の内容を踏まえ、BIMの現状について総括しておきます。
まずBIMの「技術面」を見ると、国交省のロードマップで想定されていたよりも速いスピードで進んでいます。特に大手ゼネコンでは、元々世界的に高レベルの3D CAD技術を持っていたこともあり比較的スムーズに進みました。
連載第1回でも述べているように、国土交通省の当初の目標では「2025年までに全ての公共事業をBIM/CIMを原則適用」となっていました。しかし2020年に、2年前倒しの「2023年まで」と変更されています。
建築BIM加速化事業の「その先」はどうなる?
建築BIM加速化事業では、中小企業や発注者にも広くBIMの導入が進められる予定です。しかし「導入したその先」に起こりうる課題は少なくありません。ここでは、BIM導入後の未来を見据えた課題についてご紹介します。
①BIMのワンモデル化実現
中小企業でもBIM活用が広まると、業務効率化に繋がるでしょう。しかしBIM本来の目的である「ワンモデル化」を進めるには、まだまだ課題が残っています。具体的には、ワンモデルを複数のプレイヤーが扱う上での「役割分担、責任分担」といった点を明確化する必要が出てくるのです。
また現状では、「設計段階で作ったモデルをゼネコンがそのまま使う」ことはほぼありません。「ワンモデル化に伴うリスクを誰が負うか」という点も、しっかり検討する必要が出てきます。
②建材メーカーの変化
これまでサッシや鉄骨ファブなどが行う設計は、「各メーカーが受注のために行うサービス」という商習慣が一般的でした。しかしBIMが本格普及すれば、誰が設計をしたのかが明らかになるので責任が伴うことになります。今後はメーカーが無料で設計を行う現在の習慣も、新しい形に変化していくと考えられるでしょう。
「施工に関する責任やリスク」という点で言えば、法改正の施行が令和7年頃に迫っています。
現在は「4号特例」により確認審査が省略化されており、住宅の7割程度はこちらに該当しています。しかし先般の建築基準法改正で「4号特例が実質廃止」になったため、ほぼ全数検査の形になります。この時までには「設計者や専門工事会社の責任やリスクの問題」に決着をつけておく必要があり、今後の動きが注目されます。
③「ゼネコン一括請負方式」の見直し
日本のゼネコンはこれまで「一括請負方式」で動いてきました。右肩上がりに経済成長していた時代には、インフレや経済危機のリスクはなかったので、一括方式は「儲かる」システムだったのです。
しかしコロナ禍や戦争に起因する様々な不確定リスクに直面し、事態は急転しています。資材の高騰や工期延長の影響で、施工前から赤字が見えているような事例も多発しているのです。
こういった状況を受け、ゼネコンから「契約方式の変革の必要性」が叫ばれるようになりました。具体的には、請負側(ゼネコン)が一方的に責任を負うだけでなく、「リスクをプレイヤー同士で分担する仕組み」にする必要があるということです。
そういったリスクに対応する方式としては、「CM方式(コンストラクション・マネジメント)」が注目されています。CM方式について詳しくは、下記記事をご覧ください。
またCM方式の一つである「CM/GC(ジェネラル・コントラクター)方式」は2000年代にアメリカで生まれた新しい契約方式ですが、これは日本のゼネコンをモデルにしているとされます。具体的な内容としては、「施工者が設計段階から事業に参画することで、施工を考慮した具体的な設計を早期に決め、変更や手戻りのリスクを最小化する」ものです。
今後BIMを普及させるに当たっては、日本でも「設計の責任を誰が担うのか」、「設計事務所とゼネコンの受け持ち範囲はどこまでか」といった点を明確化してそれを制度化しなければなりません。
④担い手不足への対応
建築業界は多重下請け構造になっており、「下請けに転嫁する」というスタイルがまかり通っていました。いわば、「施工段階でリスクを埋め合わせる」という手段が常套化していたのです。
しかしコロナ禍での現場閉鎖や職人不足といった問題により、下請けに任せきりの状態では立ち行かなくなってきています。
今後日本は生産者人口が減少し、働き手不足が深刻化します。労働環境を整えないと人材が集まらなくなってきているため、労務時間の改善やキャリアアップシステムの活用で「働き方改革」を実現する必要があります。CCUS(建設キャリアアップシステム)については、下記記事をご覧ください。
まとめ|国交省主導で「これからの建設DX」実現を
本連載では、BIM原則適応に関連する建設業の現状や、国土交通省の取り組み等についてご紹介してきました。建築BIM加速化事業でツールの導入が進められる一方で、「制度面」をどうするかといった問題も残っています。今後は、建設業のプレイヤー全体が関わる仕組みを整備していく必要があるでしょう。