【連載】「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:日本のBIMの現状とは?(第一回)
連載企画「なぜ日本のBIMはだめなのか?」では、BIMプロセスイノベーション 伊藤久晴氏の建設DX展BuildAppブースでの講演を再録します。
BIMエバンジェリストとして多数の実績を誇る同氏の日本のBIMの歩みについてや課題について、そしてあるべき姿など、BIMを活用する上で大変示唆に富む内容となっています。
第1回ではテーマの「なぜ日本のBIMはだめなのか」の問題提起部分をお届けします。
目次
他の連載記事はこちら
第2回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:日本のBIMの課題とこれから(第二回)
第3回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:NOHARAのBIMとは(第三回)
第4回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:BIM標準の違いを解決するヒントとは(第四回)
第5回連載はこちら:「なぜ日本のBIMはだめなのか」講演再録:日本の建設業の未来はどうなる?(第五回)
様々な問題をかかえる日本のBIM
皆さんは、日本のBIMは素晴らしい、最高だ、非の打ち所がないと思っておられますでしょうか。恐らく、いろいろな疑問や壁などにぶちあたっているのではないかと思います。それほど、BIMは複雑で難しいものです。
私は15年から20年ぐらいBIMに取り組んできたのですが、やっといろいろなことが見えてきました。
様々な立場の建設プレイヤー
建設業には設計者、施工者、発注者、メーカーなど、様々な立場があります。それゆえ、それぞれの立場によって問題点も課題も、取り組みも違います。
ですが、それぞれ自分の立場しか見えていないんです。だから、自分の立場の問題としか捉えようがないのですが、建設業というのは全体で捉えなければならないので、そこが非常に大きな課題になるわけです。
BIMに対する認識
経営者と設計者
皆さんの会社の社長さんと思ってください。社長さんは「BIMを導入しなさいよ」と思っています。
「お金は出します。導入コストがかかっても、すぐに生産性が向上し、受注と利益の拡大がでるんでしょ、だから入れなさい」と、経営者は言うはずなのです。
それに対して、設計担当者は心の底で思います。「BIMソフトは覚えるのが大変だ、現実的には2次元CADを使わざるを得ない」と思っているんですね。そして、「だから、BIMモデルは、2次元CADの後追いで作ればいい」というふうに考えます。
この時点で、まず認識が違っていることになります。 そういうことが続くと、どうなるでしょうか。
経営者としては、「いったいいつになったら生産性向上ができるんですか、利益に貢献するんですか、このまま投資する意味があるんですか」と考えるようになります。だって、何年経っても目に見える効果が見えてこない、そういう現実がありますからね。
でも、設計者としては、BIMに完全に変わるということは、やはりすごく難しいと思うわけです。だから、現実的に2次元CADが捨てられないんです。
ここで設計担当者は、「設計作業の効率が落ちても、BIMモデルさえ作ったら干渉チェックもできるので次工程の生産性が上がる」と考えています。続くのは工事ですね。「設計は仕方ないけれど、生産性が落ちても工事で頑張ればいい」と、工事に期待するということがよく起きてきます。
設計者と現場担当者
では、それを受けた現場は、いったいどうなるのか。ここで設計担当者と現場監督のやり取りが起きてきます。設計者は、先ほど申し上げたように、「設計で時間とかお金がかかっても、干渉チェックをきちんとやっているので、次工程にそのデータを渡しさえすれば、工事はハッピーなのだ」という話をするんですね。
現場は何を言うかというと、設計からBIMモデルをもらっても、そもそも設計と施工でBIMモデルの作り方が違うじゃないか、それに、干渉チェックは当たり前のことで、そもそも干渉しているものを持ってくるなら意味がないじゃないかと言います。
要するに、工事ではそのBIMモデルは使えないという話になるんですね。だから、BIMモデルを渡せば工事は楽になるという理論は成り立たないのです。
後追いBIMでは効率化は実現できない
いまの話から言えることは、経営者が一生懸命、生産性向上をねらってBIMを導入したとしても、やはり、設計・施工が本当のかたちでBIMを導入するということに至らない限り、生産性向上は見えてこないということです。
はっきり言えると思います。逆に言えば、2次元CADの後追いBIMではかえって工程がプラスされるだけなんですね。
古い体質が問題
では、このようなことが起こるのはどういうことからくるのかと言うと、古い体質が問題だと思っています。
過剰なBIMへの期待や、従来の設計プロセスを貫いている設計・施工、仕事のやり方を変えようとしないということがあるんですね。これは、不幸でしかないと私は思うのです。
ここを何とかしない限り、この先にはつながらないですね。そんなことを私はいつも思っています。
まとめ|BIMの認識が立場で異なるうちは生産性向上は見込めない
経営者、設計者、現場担当者を例に、建設プレイヤーがそれぞれの立場でBIMに対する認識を持っているため、効率化に至らない日本の現状についてお話いただきました。
次回の連載では「BIMの課題とこれから」についてご紹介します。