2兆円規模「グリーンイノベーション基金」とは?CO2削減と経済成長を両方叶える採択事例紹介も
目次
トレンドワード:グリーンイノベーション基金
「2050年カーボンニュートラル」の一環として注目されている、「グリーンイノベーション基金」についてピックアップします。CO2など温室効果ガス排出をゼロにするための挑戦的な取り組みとして、洋上風力や水素といった次世代エネルギーへの転換が求められています。
グリーンイノベーション基金とは
グリーンイノベーション基金とは、経済産業省によりNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に設置された「カーボンニュートラル実現に向けた基金」のことを指します。民間企業がカーボンニュートラルに挑戦しやすいよう、資金誘導や税制といった「政策によって後押しする取り組み」として2021年にスタートしました。
政府は「2050年までにCO2等の温室効果ガスを実質ゼロにする」という目標を掲げています。達成には大胆な構造転換が求められますが、「イノベーションを起こす」という企業の前向きな挑戦を応援するという理念で創設されたのが特徴です。
「2兆円規模」のかつてないスケール
グリーンイノベーション基金の特徴としては、過去に例のない「2兆円規模」のスケールという点が挙げられます。これを呼び水として民間企業等の研究開発・設備投資を誘発し、さらには世界で 3,000 兆円規模とされている投資資金を国内に呼び込む狙いも。
対象となる研究開発プロジェクトの規模も大きく、「200億円以上」の規模が目安となります。ただしベンチャー企業等の活躍が見込まれる場合、この水準を下回る小規模プロジェクトでも実施可の場合があります。
こういったことからも、「2050年カーボンニュートラル」という野心的な目標を達成するため、民間企業の前向きな挑戦を支援するという意図が読み取れますね。
グリーンイノベーション基金の基本方針
ここでは、経済産業省が定めている「グリーンイノベーション基金の基本方針」について解説します。基金事業における支援対象や成果を最大化するための仕組み、実施体制など、各研究開発分野に共通して適用する方針が定義されています。
①グリーンイノベーション基金の目的・概要
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、NEDOに2兆円の基金を造成しています。野心的な目標にコミットする企業等に対し、研究開発・実証から社会実装までを10年間継続して支援します。
②グリーンイノベーション基金の目標
企業にとっての環境問題対策は、いわば「コスト」のように成長を妨げるものとなっているのが一般的でした。しかしグリーンイノベーション基金では、これを「成長の機会」と捉え直しているという違いがあります。環境問題対策にも、「経済と環境の好循環」を生み出す産業政策としての役割が期待されているのです。
具体的には、予算、税、規制・標準化、民間の資金誘導など、政策ツールを総動員して企業等の取組を全力で後押ししていくことが掲げられています。こうした取組により「2030年で年額約140兆円、2050年で年額約290兆円」の経済効果が見込まれているのです。
③グリーンイノベーション基金の支援対象
支援対象の基準は以下の通りです。
- 従来の研究開発プロジェクトの平均規模(200億円)以上を目安
- 国による支援が短期間で十分なプロジェクトは対象外
- 社会実装までを担える、企業等の収益事業を行う者を主な実施主体(中小・ベンチャー企業の参画を促進、大学・研究機関の参画も想定)
- 国が委託するに足る革新的・基盤的な研究開発要素を含むことが必要
グリーン成長戦略においては、「政策効果が大きく、社会実装までを見据え長期間の継続支援が必要な領域」に重点化して支援することとしています。
上図が今後成長が期待される14分野となっており、エネルギー分野では「水素・燃料・アンモニア産業」や「洋上風力」、輸送・製造関連産業ではスマートモビリティにも通じる「蓄電池」「半導体」などといった次世代技術がピックアップされているのが特徴です。
④グリーンイノベーション基金の成果最大化に向けた仕組み
研究開発の成果を着実に社会実装へ繋げるため、企業等の経営者に対して、長期的な経営課題として粘り強く取り組むことへのコミットメントを求めています。取り組み状況によっては「委託費の返還」があることや、「成功報酬」のような措置が導入されている点が画期的です。
【企業等の経営者に求める取組】
・応募時の長期事業戦略ビジョンの提出
・経営者によるWGへの出席・説明
・取組状況を示すマネジメントシートの提出
【コミットメントを高める仕組みの導入】
①取組状況が不十分な場合の事業中止・委託費の一部返還等
②目標の達成度に応じて国がより多く負担できる制度(インセンティブ措置)の導入
⑤グリーンイノベーション基金の実施体制
外部専門家の知見も取り入れ、関係機関が緊密に連携した透明性・実効性の高いガバナンス体制が構築されています。
⑥事業の流れ
プロジェクト期間は「最長10年間」となっています。長期間にわたる継続的な支援が必要である野心的な取組を支援することに主眼があることから、短期間で十分なプロジェクトは対象外です。
グリーンイノベーション基金の採択事例
ここでは、グリーンイノベーション基金の採択事例をご紹介していきます。主に、建設業に関わりのある2つの事例に注目してみましょう。
①CO₂を用いたコンクリート等製造技術開発
コンクリート・セメント分野への CO2の利用については、CO2固定化ポテンシャルが高いこと、生成物が安定していることなどから世界的に研究開発が本格化しています。
具体的な目標としては、CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの製造システムを確立し、「既存製品と同等以下のコストに抑える」ことが掲げられています。また回収したCO₂や廃棄物から炭酸塩を製造し、セメント原料等で利用する技術など資源の有効活用にも取り組む予定です。
2022年9月には、鹿島建設によって試行工事が実施されました。放水路トンネル工事における作業坑において、「CO2を固定化し収支をマイナスにするコンクリート」を用いた埋設型枠により側壁部を施工しました。結果のフィードバックにより、さらなる研究開発を進めるとしています。
②洋上風力発電の低コスト化
「洋上風力発電」は、大量導入やコスト低減が可能な再生可能エネルギーとして注目されています。これまでヨーロッパを中心に洋上風力発電の導入が拡大してきましたが、今後はアジア市場の急成長が見込まれます。日本は急深な地形が広がっているのが特徴ですが、低風速・台風・落雷等の気象条件や海象等を踏まえた形で最適化するニーズが高まっているのです。
プロジェクトのフェーズ2に定められている「浮体式の基礎製造・設置低コスト化技術開発事業」では、日本の強みである造船技術の基盤やドック等の「インフラ」を活かした取り組みが行われています。
「セミサブ型ハイブリッド浮体の量産化・低コスト化」で鹿島建設、「15MW 級大型風車に対応した低コスト型ハイブリッドスパー浮体量産システムの開発」では戸田建設といった大手ゼネコンが参画しています。
まとめ|グリーンイノベーション基金でCO2削減が期待される
カーボンニュートラルの実現には従来のビジネスモデルや戦略を抜本的に変えていく必要があり、決して簡単なものではありません。そのような中、グリーンイノベーション基金は「経済と環境の好循環」につなげるための日本の新たな成長戦略として設立されました。建設現場においても、官民一体となった挑戦的な取り組みが期待されています。