【BIMの日 独自取材➁】 コロナ禍で見えてきたキャンパスBIM-FMのためのIPD | IPDコラボレーション研究WG 飯島 憲一氏(大阪電気通信大学)
WGはコロナ禍での大学施設のデジタルモデル利用の変化に着目しました。キャンパスがBIM-FM利用へと進化する可能性を考察しました。これまでの大学施設管理ではIPDやBIMを活用しきれていない状況でした。アンケートでもBIMに対するニーズは低くなっていました。
しかし、コロナ禍でキャンパスの情報発信が激変しました。オープンキャンパス開催が困難となり、各大学がデジタル(WEB上)でのキャンパス紹介に取り組んだのです。
各大学のデジタルキャンパス紹介をふまえて、IPDの今後を見通しました。
WG主査:飯島 氏の発表をレポートします。
▼BIMの日の過去連載はこちら▼
第一回連載:BIMの祖型―CAD黎明期の試みに学ぶ | 建築情報学技術研究WG 種田 元晴氏(文化学園大学)
第三回連載:BIMと関連するデジタル情報の連携や活用事例の研究|情報連携技術WG 柴田 英昭氏(FMシステム)
第四回連載:建築性能の見える化によるSDGs 達成への貢献|林 立也氏(千葉大学)
目次
IPDとは? デジタルな建物情報を活用し空間価値を高めるためのワークフロー
IPD(Integrated Project Delivery)とは,発注者・設計者・施工者などプロジェクト関係者が共通目的をもち,リスクと報酬を共有し、プロジェクトを遂行していくものです。
IPD導入により、利用者へあらたな空間価値を提供することができます。IPDのコアとなる情報がBIMであり、建物情報を共有するための技術です。
日本におけるIPDの問題点のうち、クライアントのFMの視点、IPDをけん引するインセンティブの重要性、の2点は特に発注者や建物管理者への意識づけの必要性が挙げられていました。
大学施設管理の運用アンケート2021 BIMニーズの低さ
上記も踏まえ2021年には大学における発注者や建物管理者に対してアンケート*を実施しました。*キャンパス・リビングラボラトリ小委員会(日本建築学会/都市計画委員会)へのアンケート
アンケート結果からはBIMへのニーズの低さが浮かび上がりました。理由としてはキャンパスのステークホルダー(理事会、教職員、学生、近隣住民他)が複数存在するが、関係者にモデルを確認する風土がない、というものがありました。BIM活用は大手設計事務所、ゼネコンに限られるため、発注先が限定されるなどの指摘もありました。
コロナ禍でキャンパスの情報発信が激変
大学運営において入学者を多く獲得することは重要です。オープンキャンパスは入学希望者に大学を知ってもらうよい機会でした。しかし、コロナ禍でオープンキャンパスの開催が困難になりました。そのため代替のアピール手法として、キャンパスや学部学科、研究室などの紹介をデジタルで発信する事例が増加しました。各大学のデジタル情報発信の代表例を紹介します。
早稲田大学
複数箇所の360°写真をリンクして表現。学生による音声ガイダンス。マウス操作で視点を変えての移動が可能。あたかもキャンパス内を歩いているような体験ができます。
玉川大学
キャンパスMAPは対象施設名からのリンクで2Dと紹介文にて説明。ドローンによるキャンパス全体の空撮映像もあり、広大で緑豊かなキャンパスが魅力的に表現されています。キャンパスは点群測量による3D化や建物ごとのタグ付けがされており、BIMへの発展を感じさせられます。
中央大学
360°3D/VRサービスのMatterportを利用したVRキャンパスマップ。3Dスキャンした画像と360°パノラマ画像を合わせることで奥行きや立体感のある画像を作り出しています。まるで建物内を実際に歩き回っているような感覚を体験できます。
東京芸術大学
「デジタル芸大」として点群スキャンデータによるキャンパス体験を実現。VR配信サービスClusterを利用し、点群を点描画に見立て表現しており、印象的です。鳥のさえずりも聞こえ、印象画の世界に入り込んだような雰囲気になります。
東京大学
VR配信サービスClusterを利用。芸大とは違い一般的なCGで表現され、マウス操作により視点が移動します。キャンパスを移動しているとアイコンが立ち上がり説明や動画が流れます。
発展例 スキポール空港アプリ(オランダ)、慶應義塾大学無人宅配アプリ
スキポール空港アプリ(オランダ)
大学オープンキャンパス以外で施設紹介とBIMが連携した例としてオランダのスキポール空港があげられます。スキポール空港は巨大なハブ空港として年間数十回の改修工事を通常営業と並行しておこなっています。そのため改修工事が空港内案内ルートに支障をきたさないように最新レイアウトをBIMと点群で共有し、空港案内アプリに反映、活用しています。部屋の属性情報をBIMで更新し、アプリに連携させているのです。
キャンパスFMにおけるBIMの可能性
上記事例に共通することは、システム構築の際に施設名や位置情報が必要になる点です。また、移動ルートとの連携においては施設セキュリティ情報も必要となります。これらの建築情報は全てBIMがベースになっています。キャンパスにおいてはBIMが設計・施工時のツールとしてだけなく、施設運営上のツールとして活用されているのです。
BIMを建物用途、発注者目線で捉えなおすと、これまでとは違う価値を持った建築情報になる。このことは非常に示唆に富んでいます。
今後はキャンパスFMにおけるIPDステークホルダーを発注者+設計者+施工者+エンドユーザーと捉えることにより,キャンパスFMにおけるBIMの可能性が見えてくると言えます。