リリースが相次ぐ住宅設計の領域をターゲットとした生成AIによる支援システム|深堀り取材【毎月15・30日更新】

前稿において住宅建設分野でも生成AIの浸透が徐々に進んでいる現況を報告したが、それに引き続き、住宅設計の領域において新たな生成AIのリリースが相次いでいる。ひとつは、住友林業の自社の規格型住宅への提案支援システムであり、他方は、ニュウジアによる住宅産業における広範な生成AI利用を目指すものとなっている。

顧客向け提案支援システム「AI間取り検索」の概念実証モデル完成+年内の実用化目指す

住友林業では、※規格型住宅商品「Premal」の顧客向け提案支援システム「AI間取り検索」のPoC: Proof of Concept (概念実証)モデルを完成させ、技術検証を経て年内の実用化を目指している。

経験豊富な担当者のナレッジ(知識・知見)を共有させたAIが顧客からヒアリングした情報を基に「Premal」の間取りを選び、最適な提案に繋げる。これによって「Premal」の提案作成作業の効率化が見込め、将来的には注文住宅での活用も検討している。

住友林業グループは、AIを活用したDXを推進し、住宅営業・設計プロセス効率化と高品質な住まいの提供で木造住宅の付加価値や顧客満足度の向上を目指す。
https://sfc.jp/ie/lineup/premal/

大規模言語モデルを利用した顧客要望深掘・間取り検索・データベースの3つのAIから構成

顧客向け提案支援システムは、※LLM: Large Language Models (大規模言語モデル)を利用した3つのAIから構成されている。
顧客要望深掘AIでは、営業・設計・インテリア・外構・営業責任者・設計責任者の人格を持ったAI担当者が顧客の要望を議論し、顧客の潜在的な要望を示唆する。

間取り検索AIにおいては、顧客要望深掘AIが議論して算出した示唆を基に、顧客の要望を整理してデータベースから最適なモデル間取りを選出する。

データベースAI(システム管理者が利用)では、顧客要望深掘AIが議論して算出した示唆を基に、顧客の要望を整理してデータベースから最適なモデル間取りを選出する。

実際の運用方法を下図にあるように検証してみよう。①にあるように、最初に営業担当が顧客の家族構成や住宅の好み、現在の住まいの悩みなどをヒアリングしてシステムに入力する。次いで②のように「顧客要望深掘AI」が顧客の潜在的な要望を議論し、示唆を提示する。その後、③のように、間取り検索AIが検索し、複数の間取り候補を選び出す。それらに基づき営業担当は、AIが選んだ候補を基に顧客に最適な間取りとライフスタイルがイメージできる提案を行う。

システム全体の流れ

技術検証を通じて改善点を整理+「顧客要望深掘AI」内の議論と示唆の精度を高めていく

現状では、顧客に理想の住まいを提案するため、間取りの検討には事前調査や資料参照などで多くの時間を要している。これら検討時間の短縮と提案の精度を高める目的で、経験豊富な営業担当や設計担当などのナレッジを共有させたAIが担当者をサポートするシステムを開発した。

「Premal」は、「Premium(プレミアム)」で「Minimal(ミニマル)」な住まいをコンセプトに、機能的で暮らしやすく普遍的で洗練されたデザインにこだわり、インテリアや外構まで全ての仕様をトータルコーディネートした規格型住宅商品となっている。注文住宅と比べて打ち合わせの回数が少なく、契約から引き渡しまで期間の短さが特徴となっている。

2025年末までに全国支店で「Premal」提案時に活用する予定となっている。今後は、技術検証を通じて改善点を整理し「顧客要望深掘AI」内の議論と示唆の精度を高めていく。将来的には、蓄積したデータを活用し、分譲住宅や注文住宅へ活用範囲を広げる検討を進める。

設計プロセスそのものを自動化するソリューション「AI建築設計ドロー」を正式リリース

ニュウジア(東京都中央区: 代表取締役柏口之宏)では、建築設計業界に大きな変革をもたらす最先端AI設計支援ソフトウェア「AI建築設計ドロー」を発売した。

建築設計業務は、構想から基本設計、実施設計、確認申請、施工段階に至るまで多くの工程と関係者を巻き込むプロセスとなっている。加えて、それぞれの工程で必要とされる知識や判断は極めて専門性が高く、属人的で、時間と人材コストを要する。

そのような状況下、法規制の複雑化や働き方改革による労働時間の制限、高齢化による設計士の人材不足などの課題が顕在化している。それらの背景からAIの支援を受けて設計業務を効率化し、標準化しようという流れが徐々に広がっている。

一方で、国内で登場したAI設計支援ソフトの多くは、補助的な機能に留まり、設計プロセスの本質的な変革には至っていない。そこでニュウジアでは、設計業務を根本から再定義し、AIが中心となって設計プロセスそのものを自動化するソリューション「AI建築設計ドロー」を国内建築業界に向けて正式リリースした。

建築設計の主要部分をAIが自動生成するクラウド型設計支援プラットフォームとして提供

「AI建築設計ドロー」は、建築・構造・設備を統合的に考慮しながら、建築設計の主要部分をAIが自動生成するクラウド型設計支援プラットフォームだ。特に次のような特徴において従来のAI CADツールとは一線を画している。

AIが中心となる「設計の自動生成」

AIが中心となり「設計の自動生成」を行う。単なる図面作成補助ではなく、建築法規や敷地条件を自動解析し、設計要件に最適な平面図、立面図、断面図をAIが数分で提案する。提案内容は複数パターンから選択でき、従来の「人がゼロから考える」時間を大幅に短縮できる。

法規チェックの自動化と初期段階での準拠判断

法規チェックの自動化と初期段階での準拠判断を実行する。設計案が建築基準法、条例、消防法などに準拠しているかをAIがリアルタイムでチェックする。日影規制・避難距離・採光条件などを自動評価し、違反リスクを最小限に抑える。

配置・面積・用途に応じた最適化

配置・面積・用途に応じた最適化を実行する。容積率・建ぺい率・階数・高さ制限といった要素を複合的に解析しながら、敷地を最大限に活用したプランをAIが自動提示する。住宅だけでなく、オフィス・商業施設・公共施設など多様な用途にも対応可能となっている。

国内法対応・日本語完全対応・国内サーバー対応

国内法対応、日本語完全対応、国内サーバー対応となっている。日本市場向けに特別ローカライズし、UIや出力図面も全て日本語対応としている。セキュリティの観点から日本国内サーバー運用に対応することにより、大手建設会社・自治体の利用にも適応する。

明らかとなった生産性向上・ヒューマンエラー低減・若手の育成支援などの導入メリット

「AI建築設計ドロー」は、すでに中国を始めとするグローバル市場において大手不動産会社・設計事務所・地方政府などで広く導入され、年間1,000件以上のプロジェクトで利用されている。
具体的には、一級建築士事務所、大手ゼネコン設計部門、デベロッパー、都市開発事業者、官公庁・自治体の公共施設計画部門などに導入されており、生産性向上(設計スピードが10倍)、ヒューマンエラー低減(確認申請での指摘が大幅減)、若手設計士の育成支援(設計の標準化により教育コスト軽減)、顧客対応スピード(初期プラン提案が数時間で可能)などの導入メリットが明らかとなっている。

中国におけるある大規模都市開発案件では、設計案提出までの期間(従来8日間→ AIで1日未満)、手戻り率(50%以上減少)、法令違反率(ゼロ:初期段階で対応済み)、コスト削減効果(設計フェーズで20〜30%削減)などの実績を上げており、日本市場でも有効性が期待されている。

今後「AI建築設計ドロー」では、構造設計・設備設計との連携、BIMデータへのエクスポート対応、VR空間との連携によるプレゼン強化、リノベーション・既存建物改修への応用そして中小建設事業者向けのライト版の提供などの領域へ拡張していく。

合わせて、設計事務所との共同研究や自治体との実証実験も進め、日本の建築産業全体のAXを先導していく。

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