既存建物の維持管理の現状とBIMツールの援用の現在|深堀り取材【毎月更新】
建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度が本格化しています。第15回は、既存建物の維持管理や運用に、BIMに象徴されるデジタルツールをどのように援用するのかを解説します。
目次
BIM活用とデジタル化の現状
昨年11月の段階でのことだ。社名に管財とつく大手企業のBIM担当に事前取材した。BIMの現状はまだ貧しいものがあり、施設管理の実際は紙ベース、アナログ中心で、デジタルへのマインドも希薄だと語っていた。更に紙ベース、2次元図面では、検索性もなく、ましてや建物の現況と齟齬も生まれている。一方で、現状のままでは資産の健全化の面でも問題があることに建物オーナーが気づき始め、建物オーナーの中には自らデジタル援用に動くものも現れたという。
本稿では、それらの状況を受けて、既存建物の維持管理や運用に、BIMに象徴されるデジタルツールをどのように援用するのかの現在地を報告する。
維持管理情報の一元管理+直感的で分かりやすい情報整理と可視化を実現する「BIMSTOK」
アーリーリフレクション(本社:東京都千代田区・代表取締役:田中喜之)では、インフラ維持管理クラウド「BIMSTOK(ビムストック)」を開発し、市場提供している。今後は、他システムやデータベースとの情報連携から得意分野であるデータサイエンス、AIによる劣化予測などの意思決定支援機能、独自開発の地図エンジンオプションなどの機能追加に至るまでリリースを予定している。
全国各地に点在するインフラ施設の多くは、高度経済成長期に建設・整備されたもので、施設の老朽化が大きな問題としてクローズアップされている。それらの問題を抱えつつ、インフラ施設の維持管理の現場においては紙ベースでの情報管理が主流であることから、多くの課題も顕在化している。
それらは蓄積された維持管理情報の整理と探索に時間を要し、設備の異常箇所の共有と対応状況の把握に膨大な手間がかかることであり、デジタル対応の側面では、維持管理で活用しやすいBIMソフトウェアが普及していないことなどである。それらの課題を解決するべく、アーリーリフレクションでは維持管理者向けBIMビューアを備え、維持管理情報の一元管理と直感的で分かりやすい情報整理と可視化を実現する「BIMSTOK」をリリースした。
「BIMSTOK」で実現する関係者間の情報共有+業務の効率化+安全性の向上+施設の健全化
情報の一元管理と可視化によって業務の効率化が実現する。紙ベースでの維持管理業務が主流の現場では、各種の書類が点在しており、使いやすい整理方法が確立されていない課題がある。「BIMSTOK」を活用することで、あらゆる維持管理情報が自動的に設備軸で時系列表示され、施設管理者は必要な情報に瞬時にアクセスできるので、従来、資料探索や整理に要していた時間が大幅に削減される。
また、安全性が向上する。維持管理業務においては、設備の状態や劣化の程度を正しく把握、共有することが求められる。「BIMSTOK」では、設備ごとに異常箇所単位で情報を整理し、複数の異常箇所の状況を容易に比較できる。あわせて、対応状況のステータス管理やアラート表示機能によって見落としや対応漏れを防げるので、予防保全型の施設維持管理を実現する。
さらに、関係者間の情報共有が可能となる。維持管理書類が多岐に渡り、情報が分散しやすいことから引き継ぎやノウハウ共有の難しさも課題だ。「BIMSTOK」の活用で設備の経時変化を容易に把握でき、属人化しやすいノウハウの共有も容易になるので、担当者変更の際は勿論のこと、外部の検査員や業者とのタイムリーな情報共有も実現する。
BIMの活用による情報共有の効率化を実現する。「BIMSTOK」は、施設管理者向けBIMビューアを備え、維持管理に特化したBIMソフトウェアとして位置づけられる。BIMモデルと設備情報や設備に紐づく各種報告書などの維持管理情報を連携することで、直観的に施設構造の把握が可能となり、維持管理情報の共有による業務の効率化を可能とする。
LiDARでスキャン+簡易BIMモデル自動生成+賃貸住宅の修繕などに援用する「Re:BIM」
スターツアセットマネジメント(本社:東京都中央区・代表取締役社⾧:平出和也)は、)では、賃貸住宅の退去修繕及びリフォーム業務を効率化するクラウド型BIM サービス「Re:BIM(リービム)」の提供を開始した。本事業は、国土交通省公募の令和4年度住宅生産技術イノベーション促進事業の選定事業である。
「Re:BIM」は、iPad PRO用(LiDAR搭載の第3世代以降)のLiDARアプリを使用して既存建物の室内をスキャンし、その結果をクラウド上で簡易BIMモデルとして自動生成する。簡易BIMモデルを活用することによって賃貸住宅の退去修繕・リフォーム業務に必要な仕様情報をBIMモデル内の部材に付与することが可能となる。一連の作業は全てクラウド上で完結することが可能だ。
「Re:BIM」で退去修繕とリフォームに関連する一連の業務時間が従来よりも約63%削減
「Re:BIM」を用いることで建物の修繕業務における現場調査や既存図の作成、見積書作成の効率化を促進する。簡易BIMモデルを作成すれば、そのBIMモデルをクラウド上で複成・流用して正確な仕上げ面積・部材数量に基づき修繕計画を立てることが可能だ。
退去修繕業務を想定した実証実験に基づき分析した効率性の結果として、従来は複数人が関わり1週間程度かかっていた退去修繕・リフォーム業務(現場調査~既存図作成~見積もり作成)に係る時間(1時間強)が「Re:BIM」の使用によって30分程度に短縮できることが確認された。これによって退去修繕とリフォームに関連する一連の業務時間は従来よりも約63%削減されることが期待できる。
加えて「Re:BIM」は、不動産管理において現場ユーザーができる限り感覚的に操作できるように設計されており、簡易BIMモデルの入力や活用を補助するさまざまな機能が実装されている。