既存建物の維持管理情報の一元管理を目指す「メタバース検査システム」|深堀り取材【毎月更新】

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度が本格化しています。第16回は、既存建物の3次元スキャンモデルと設計BIMデータを結合させ、維持管理情報の一元管理を目指す「メタバース検査システム」を解説します。

既存建物のデジタル管理

前稿では、既存建物の維持管理業務をデジタルによって援用するアーリーリフレクションの「BIMSTOK(ビムストック)」、スターツアセットマネジメントの「Re:BIM」について報告した。それらの事例に見られるように、比較的、安価かつ容易に既存建物を3次元スキャンし、点群データを取得して再利用することが可能となっている。それらの現況を受けて、本稿でも引き続き、既存建物の3次元スキャンモデルと設計BIMデータを結合させ、維持管理情報の一元管理を目指す「メタバース検査システム」について概説する。

建築確認に伴う諸検査等でのデジタル運用の急進を想定して「メタバース検査システム」を開発

清水建設は、日本建築センターからの指導並びに積木製作との協働によって、施工中の建物をリアルに再現した仮想空間の中に入ることで、遠隔地にいながら建物の諸検査を実施できる「メタバース検査システム」を開発した。
国土交通省では、各都道府県の建築行政主務部長宛に2022年5月9日付通知「デジタル技術を活用した建築基準法に基づく完了検査の立ち合いの遠隔実施について」を発出している。

それらの背景を受けて、今後、建築確認申請はもとより、建築確認に伴う諸検査や施工中の工事監理のプロセスにおいてもBIMの活用が急速に進むことが想定される。清水建設では、デジタルゼネコンとしてBIMデータ活用により建築生産の効率化に寄与する。

アバターとしてメタバース空間に入り込み、デジタルとリアルを統合した環境で諸検査を実施

「メタバース検査システム」は、対象建物の3次元スキャンモデルと設計BIMデータを結合させる「メタバース」と両者の整合を確認できるチェックツール「xRチェッカー」から構成されている。
「メタバース」では、クラウド上にある建築確認を受けた設計BIMデータと施工中の建物の空間をスキャンした3次元点群データを結合し、表示する。そのためVRゴーグルを着用することによって分身であるアバターと化してメタバースに入り込み、デジタルとリアルを統合した視野を得ることができる。

コントローラーの操作によってアバターは対象建物内や建物周囲の任意の場所へ瞬時に移動し、鳥瞰など現実にはない任意の視点から諸検査を実施できる。合わせて別の場所からアバターとして仮想空間に参加している関係者との音声会話、クラウドからダウンロードした工程写真や各種検査報告書などの書類データの確認が可能だ。
「xRチェッカー」の機能によってBIMデータと点群データとの整合を即座に自動計測し、設定した許容値を超えた差分を色分け表示できる。

これらの機能によって「メタバース検査システム」においては、居場所を問わず施工中の建物の諸検査に対応できるため、建築生産の効率化に貢献できると共に、検査の効率化、高度化も実現する。すでに実際の建物を対象に「メタバース検査システム」の検証を実施しており、改善点も明らかになる中で日本建築センターから実用に供し得るとの評価を受けている。

年間60万棟に及ぶ建築確認+100万時間を要する完了検査時の移動を、デジタル援用で改善

現状では、一年間に全国で60万棟近くの建物が建築確認を受けて着工し、完成までの間に建築確認を受けた図面との整合を確認する諸検査が繰返し実施されている。具体的には、設計者による工事監理、行政の建築主事などによる中間・完了検査などが行われ、多くの場合、複数の担当者が現地まで移動し、図面による目視や簡易計測機器による整合確認、工程写真や各種検査報告書の書類検査などを行っている。一方、検査のための移動には膨大な時間を要しており、完了検査の移動だけでも全国で100万時間以上に達している。

清水建設では、2019年6月から建築生産の効率化を目的にBIMデータを活用した建築確認申請や諸検査に取り組んでいる。すでにAR(拡張現実)技術を用いて遠隔地からタブレットの画面越しに諸検査を実施できるシステムを開発済みで、日本建築センターからも一定の評価を受けているが、視野の制約をなくし、臨場感を増すことが課題になっていた。  

「メタバース検査システム」による検査ではこれらの課題を解決し、遠隔検査の普及に弾みをつける可能性を明らかとしている。

メタバース検査の全体像
メタバース検査のシステム概要

ゲームチェンジャーとなる可能性を秘めたアップルの空間コンピュータ「Apple Vision Pro」

直近でアップルが正式リリースしたのが空間コンピュータと称する「Apple Vision Pro」だ。国内では未発売だが、大手設計事務所などでは何らかの方法で試用し、SNSなどに装着感も投稿されている。 

空間コンピューター「Apple Vision Pro」は、搭載したカメラで捉えた周囲の映像をヘッドセットのディスプレーに表示するビデオパススルー機能を有するのが特徴で、ビデオシースルー(映像透過)型のヘッドマウントディスプレー(HMD)とも称される。この分野での久々のゲームチェンジャーとなる可能性を秘めており、建築分野のデジタル担当からも注目を集めている。

BIMソフト「Archicad」のベンダーであるGraphisoftでは、早速、インタラクティブな3次元モデルビューアアプリ「BIMx」の「Apple Vision Pro」対応版をリリースした。建築分野への援用など今後の展開が期待できる。