BIMによる建設業界のプロセス改革を目指す「BIM Innovation HUB」とは

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BIMの原則適用により、今後本格的な普及が期待されています。本記事では、BIMによる建設業界のプロセス改革を目指す「BIM Innovation HUB」についてご紹介します。先進的な取組の「共通BIM環境」についても注目してみましょう。

「BIM Innovation HUB」とは

「BIM Innovation HUB」は、2023年に発足した非営利団体です。BIMによる建設業界のプロセス改革を目指し、改革(Innovation)を起こすことを目的とし、伊藤 久晴氏が発起人となっています。

BIM Innovation HUBでは「共通BIM環境」を提案し、役割や企業の壁を越えた情報の協働生産を行えるような活動を行っています。今後、意匠設計のプロジェクトテンプレート・ファミリテンプレートなどの公開も予定されています。

BIMの課題

BIMは普及期に入りつつありますが、まだまだ課題も多いです。ここでは、BIMの抱える主な課題について整理しておきましょう。

  • 技術的な課題
  • 標準化とデータ共有の課題
  • 人的リソースと教育の課題
  • コミュニケーションと協働の課題
  • 利益とコストの課題

まず、BIMを扱うにはBIMモデリングや情報共有のための「専門知識やトレーニング」が必要であり、導入には一定の学習が求められます。

またソフトウェアの互換性やデータの整合性の問題も存在し、プロジェクト参加者全体が同じプラットフォームを使用する必要があるのです。ただし現状では「標準化の不足やデータ形式の相違」が課題となっています。異なるBIMソフトウェアやバージョンの使用、データの整合性の確保、適切なデータ交換フォーマットの選定など、データ共有の課題解決が求められています。

その他にも、業界全体でのBIMに関する教育やトレーニングの普及が進んでいないため、人材不足やスキル不足が課題となっています。BIMソフトウェアやハードウェアの導入費用、トレーニングや人材の費用、データ管理やセキュリティについても、課題が多いです。

「BIM Innovation HUB」のビジョン

ここでは、BIM Innovation HUBの描くビジョンについてご紹介します。

①誰もが自由に利用できる

BIM Innovation HUB が提案する共通BIM 環境は、「誰もが自由に利用できる」というメリットがあります。発注者・設計・施工・製造・施設利用者など、全ての役割の方に使えるのが特徴です。

企業や役割を越えて誰もが利用できることで、コミュニケーションとコラボレーションが実現します。

②企業を超えて連携可能

現状、⽇本のBIMは「繋がっていないBIM」です。設計~施工~運⽤の企業を越えた繋がりはなく、各段階でBIM モデルを作り直しています。設計においても、企業が違えばBIM モデルも異なります。

これを繋げてゆくことが生産性向上に繋がります。そして海外とも繋がるために、ISO19650 国際規格も考慮します。

③実務で成果が出せる

共通BIM 環境は、設計・施工の業務に役立つ仕組みでなければなりません。そこで、意匠・構造・設備が同じ環境で情報の協働生産が行えるRevitを中心に取り組みを行います。

また実務での活用には、実績のある仕組みを共有することが必要です。そこでBooT.one(意匠設計)のプロジェクトテンプレートやファミリテンプレートなどの提供も視野に入れています。

求められる「BIMの成熟度」

ご紹介してきたビジョンを実現してゆくためには「BIMの成熟度」を上げてゆく必要があります。上図は、ISO19650‐1に示されているBIMの成熟度の段階に、ステージ0を追加したものです。

残念ながら日本では、まだ多くの企業がステージ0から脱却できていません。そこでBIM Innovation HUBでは、このBIM成熟度のステージ2を目指した活動をしながら、ステージ3に上がるための道筋を検討しています。

共通BIM環境とは

建設業は、多くの企業が協力して現場での一品生産を行っています。しかしこれらの企業が個別の仕組みでBIMソフトウェアを使ってもBIM情報は繋がらず、結局共通言語はBIMソフトから出力した2次元図面になってしまっています。

そのため多くの企業全体が「同じBIMの環境」でBIMに取り組めば、効率は確実に良くなるのです。これが共通BIM環境です。共通BIM環境には、技術的な内容の共通BIM標準とプロセスについての共通BIMプロセスがあります。

共通BIM環境のメリット

ここでは、BIM Innovation HUBが提案する「共通BIM環境」によるメリットをご紹介します。BIMを利用する各プレイヤーごとのメリットをチェックしておきましょう。

BIM管理者

各社のBIM管理部門は、個別に作っていたプロジェクトテンプレートの開発やバージョンアップ対応などの費用が削減できます。

BIM実務者

設計・施工の実務担当者は、他部門や前工程が作成したBIMモデルを連携・活用して作業ができるので、作業の効率が上がります。

建材メーカー

建材メーカーは、共通のルールに従って作成することで、提供したファミリの設計・施工で実践活用が進みます。企業ごとにファミリを用意する必要もありません。

発注者

発注者は、発注した企業により共通化したルールで作成したBIMモデルが入手できるので、

運⽤・維持管理などへの活用が進みます。

プロジェクト関係者

プロジェクト全員がISO19650 に準拠したプロセスに取り組むことにより、フロントローディング等の効果が期待できます。

共通BIM標準の共有リソースとは

共通BIM標準の中の共有リソースとは、BIMソフトウェアなどの仕組みのことです。この共有リソースの中で、まず「Revitの基本的な仕組みの標準化」に取り組みます。

上図は、Revitによるモデル・図面・集計表作成の仕組みです。Revitでの設計作業は、プロジェクトテンプレートを使った「壁や床などのシステムの設定」と、共通の規格で作成された「窓やドアなどの部品の読込みと配置」です。

そして、テンプレートを使って図面や集計表が作成できます。共通の規格に従っていない部品は、読み込む前に修正が必要となります。一方で共通の規格で作られた部品は、ライブラリとして企業を越えて利用できます。

これらの共通ルールのために、ひとつのセットで管理・運用する必要があります。BIM Innovation HUBで提供するのは、BooT.one(意匠設計)の①プロジェクトテンプレート、②モデル作成基準、③共有パラメータ、④ファミリテンプレートのセットです。

まとめ|「共通BIM」で業務効率化

BIM Innovation HUBでは、共通BIM環境を整備することで建設業のDX化を目指しています。役割や企業の壁を越えた情報の協働生産を行えるようにすることで、日本の建設業界の変革も期待されています。