パラメトリックデザインとは|建築事例やメリット、設計ソフト紹介

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著者:小日向

トレンドワード:パラメトリックデザイン

「パラメトリックデザイン」についてピックアップします。曲線や円形を多用した先進的な建築で用いられる手法で、設計者が思いつかないような斬新なアイデアもツールによって可能になります。本記事では、パラメトリックデザインの事例やメリット、国交省が推進する取り組みについてまとめていきます。

パラメトリックデザインとは

パラメトリックデザインとは、「パラメーター(変数)を基準として寸法を決める形状作成方法」のことを指します。3Dモデリングでパラメーターを変更してデザインが変えられるので、設計者が想定していなかったような複雑なパターンを生み出すことも可能です。

従来からある「ダイナミックモデリング」はパラメーターを持たず、各寸法を直接一つひとつ調整するという違いがあります。これまで、パラメトリックモデリングとダイナミックモデリングは対照的な手法とされてきました。しかし最近では両者を「共存」させる柔軟な設計手法も誕生しています。

パラメトリックデザインで使用されるソフト

パラメトリックデザインを行う際には、「グラスホッパー(Grasshopper)」が用いられることが多いです。これは3D CADソフト「ライノセラス(Rhinoceros)」のプラグインで、アルゴリズムにより複雑な3D曲面のデザインが可能になります。

パラメトリックデザイン建築の事例

ここでは、パラメトリックデザイン建築の主な事例をご紹介します。

①The Exchange|オーストラリア

隈研吾建築都市設計事務所による「The Exchange(オーストラリア)」は、円形の建物を取り囲むような木製スクリーンが特徴的です。こちらのランダムな円は、3Dソフト「Grasshopper」により設計されています。

大都市の中にあるオアシスのような「木のコミュニティセンター」で、スパイラル状のファサードが日陰を作るパーゴラとしての役割も果たしています。アコヤ材を曲げたパネルを現場で重ね合わせ、ジョイントが見えないよう設置する工夫がなされているのも特徴です。

②ヘイダル・アリエフ・センター|アゼルバイジャン

「ヘイダル・アリエフ・センター(アゼルバイジャン)」は、故ザハ・ハディッド氏の設計による複合施設です。曲線が多用されたエレガントなデザインで、近未来的でありながらイスラム建築のような雰囲気も感じさせます。

ザハ氏は「曲線の女王」と呼ばれ、パラメトリックデザインとの関わりも深いです。東京オリンピックスタジアム案は予算により「幻」となってしまいましたが、これまでのモデリング手法では考えられなかったような斬新なデザインが注目されました。

パラメトリックデザインのメリット

パラメトリックデザインを取り入れるメリットとしては、下記が挙げられます。

設計変更が簡単

パラメトリックモデリングでは、入力後に長さやサイズの変更ができます。形状がパラメーターと連動しているので、1か所を修正すれば全体も連鎖的に変更できるのです。「建物の大まかなサイズが決まっていて、その中で微調整してバランスを確認したい」といった場合にも便利です。

設計意図が明確に示せる

上図の2パターンでは、「左側」のプレートはどちらも同じ形状です。しかし設計変更の段階でパラメーターを変更すると、「右側」2枚の形状は全く違うものになっています。

この理由は、穴寸法の入れ方を「中心から固定する(上側の図)」か「両端から固定する(下側の図)」かという設計意図の違いによります。パラメトリックモデリングだと設計段階で形状の中に意図を組み込めるので、計画がスムーズに運ぶのがメリットです。

上述のように、パラメトリックモデリングでは変更を重ねながら設計を進めていきます。そのためCADでの設計時にはあらかじめ「変更を想定した作り方」にしておくのが一般的です。

プロセスの自動化ができる

パラメトリックモデリングでは、ある程度単純な工程であればプロセスの自動化が可能になります。複雑なプログラミング無しでロジックの定義ができるので、非常に合理的です。設計意図を自動化ワークフローに読み込めば、すでに完成した作業をベースに構築できます。

パラメトリックモデルとは|国交省、3次元モデル作成コスト省力化に期待

パラメトリックモデリングは、ザハ・ハディッド氏の建築のように「曲線を多用したデザインで使われる」というイメージが強いのではないでしょうか。しかし一般的な建築物でも、この手法は大いに役立ちます。

国土交通省では建設業の生産性向上に向け、BIMの導入を推進しています。しかし3Dモデル作成には「一部を変形しようとしても、ソフトウェア間の相性次第で大幅に作り直しになる」という作業コスト上のデメリットが課題となっています。

そこで国土技術政策総合研究所では、これまで紹介してきたようなパラメトリックモデルの活用を推奨しています。実際にすでに多くのCADソフトでは、パラメトリック機能が実装されている状態です。しかし現場で使うとなると、個々のソフトにおける設定がバラバラなので「ソフトが異なればデータの受け渡しができない」という問題があります。

そのため国総研では、パラメーターの設定方法が共通化できる「パラメトリックモデル」を検討しています。パラメトリックモデルに準拠したCAD データを作成しておけば、「複数のソフトウェア間でデータ交換が可能」になるのです。

具体的には、パラメトリックモデルとして「パラメータを設定する箇所(パラメータ表)と、概形を定めた規則(テンプレート)の組合せ」を定義しています。 

詳しくは「データ交換を目的とした パラメトリックモデルの考え方(素案)」をご確認ください。

まとめ|パラメトリックデザインで可能性広がる

パラメトリックデザインは斬新なデザインを容易にすることで、次世代の建築手法として注目されています。またそれだけでなく、BIM作業コストの効率化という面でも有効です。建設業での業務効率化に向け、さらなる活用が期待されます。