「どうするDX」家康に学ぶリーダー像|経産省デジタルガバナンス・コードを解説
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トレンドワード:デジタルガバナンス・コード
経済産業省が策定している「デジタルガバナンス・コード」についてピックアップします。経営者が企業価値を向上させるために実践すべき事項である「4つの柱」を解説します。グローバル競争の「戦国時代」とも言える現代において、話題の人物・徳川家康のリーダーシップ像との共通点についても探っていきます。
家康に学ぶリーダーシップ像
徳川家康は江戸幕府を開いた武将で、その後260年も続く長期政権の基盤を作り上げたことで知られています。「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」の句にあるように、時流をよく読みチャンスを待つ忍耐強さのイメージが強い人物です。
ここでは天下人に上り詰めた家康の「リーダーシップ像」についてご紹介します。
- ステークホルダーとの対話を大切にする
- 新技術を積極的に取り入れる
関ケ原の戦いに際しては、全国にいる大名に「150通以上」の直筆メッセージを送ったと言われています。その内容は「東軍(家康側)に寝返れば褒美を与える」というものでした。
当時手紙は代筆が一般的だったため、「家康がわざわざ手紙を書いてくれた」と感動した大名も多かったのではないでしょうか。こういった事前の根回しが功を奏し、東軍の勝利に繋がりました。
また家康は常に勉強を欠かさず「新しいもの好き」の一面もありました。ウィリアム・アダムス(三浦按針)から数学や幾何学を学ぶなど、興味を持ったものは積極的に取り入れたそうです。眼鏡や鉛筆を日本で初めて使ったのも家康でした。
家康は、織田信長のようにカリスマ性を持ったリーダーではありません。しかしステークホルダー(部下や利害関係者)との対話に重きを置き、多様な価値観を認めることで信頼を得ていたことが読み取れます。
デジタルガバナンス・コードとは|デジタル戦国時代を生き抜く経営者の指針
現代はグローバルな競争の中で、新たなビジネスモデルにより既存ビジネスが破壊される事例も多く、まさに「戦国時代」と言っても過言ではありません。こうした時代変化の中、DXを促すために経済産業省が示したリーダーの指針「デジタルガバナンス・コード」についてご紹介します。
デジタルガバナンス・コードとは、2020年に経済産業省が取りまとめた「デジタル技術による社会変革を踏まえたビジョン、経営者に求められる対応」のことを指します。
「そもそもDXとは何か?」という疑問については、下記記事をご覧ください。
デジタルガバナンス・コードの目的
- DXを推進する
- 古いシステム等の「足かせ」を無くす
- 経営者とステークホルダーの対話を促す
日本は諸外国に比べるとDX化が遅れており、古いシステムが足かせとなっているケースは多いです。また経営者とステークホルダーとの対話も十分と言えず、成長を阻害しています。
デジタル・ガバナンスコードにより、こういった現状を変革しDX化を推進するという狙いがあるのです。
デジタルガバナンス・コード「1.0」と「2.0」の違い
変化の目まぐるしい情報処理に関する法律は「2年に⼀度、⾒直しについて議論をする」とされています。「デジタルガバナンス・コード1.0」は、2020年11月に発表された指針です。そして「デジタルガバナンス・コード2.0」は、2022年に改訂版として策定されました。
主な改定ポイントは、下記の通りです。
- デジタル⼈材の育成・確保
- SX/GX
- 「DXレポート2.2」の議論の反映
- 「DX推進ガイドライン」との統合
具体的には「デジタル⼈材の育成・確保をDX認定の認定基準に追加」、「企業の稼ぐ⼒を強化するためのデジタル活⽤の重要性を指摘」等が盛り込まれています。2019年に「DX推進指標」がデジタル経営改革のための評価指標として策定されていましたが、今回デジタル・ガバナンスコードに一本化されています。
またDX認定・DX銘柄への影響としては、下記が挙げられます。
- DX認定の認定基準に「⼈材の育成・確保」を追加
- DX銘柄の評価選定基準となるDX調査の調査項⽬において、今回の改訂で追記された⼈材やデジタル投資等に関する内容を追加予定
「DX銘柄」について詳しくは、下記記事をご覧ください。
「デジタルガバナンス・コード2.0」の4つの柱
ここでは、デジタルガバナンス・コード2.0の主な内容をご紹介します。ポイントは「4つの柱」です。
1.ビジョン・ビジネスモデル
ここでは、経営者の示すべきビジョンについて述べられています。
『企業は、ビジネスと IT システムを一体的に捉え、デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響(リスク・機会)を踏まえた、経営ビジョンの策定及び経営ビジョンの実現に向けたビジネスモデルの設計を行い、価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである。』
望ましい方向性としては、「経営者として世の中のデジタル化が自社の事業に及ぼす影響(機会と脅威)について明確なシナリオを描いている」ことが挙げられています。
2.戦略
デジタル技術を活用する戦略を策定し、ステークホルダーに示していくことが求められます。
①組織づくり・⼈材・企業⽂化に関する⽅策
DX化における人材の育成・確保や外部組織との関係構築・協業について述べられています。具体的な取組事例の一部は、下記の通りです。
- DX の推進をミッションとする責任者(Chief Digital Officer としての役割)、CTO(科学技術や研究開発などの統括責任者、Chief TechnologyOfficer )、CIO(IT に関する統括責任者、Chief Information Officer)、データに関する責任者(Chief Data Officer)が、組織上位置付けられ、ミッション・役割を含め明確に定義され任命されている(他の役割との兼任も含む)。
- スキルマトリックス等により、経営層(経営者及び取締役・執行役員等)のデジタルに関係したスキルの項目を作成し、ステークホルダーに向け公表している。
- 取締役会や経営会議等の場において、経営トップが最新のデジタル技術や新たな活用事例に関する情報交換を定期的に行うとともに、自社の戦略への落とし込みについて自ら主体的に検討を行っている。DX を推進する、組織上位置付けられた専任組織がある。
②IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策
IT システム・デジタル技術活用環境の整備に向けたプロジェクトやマネジメント方策、利用する技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等について述べられています。具体的な取組事例の一部は、下記の通りです。
- ビジネス環境の変化に迅速に対応できるよう、既存の情報システムおよびデータが、新たに導入する最新デジタル技術とスムーズかつ短期間に連携できるとともに、既存データを活用できるようになっている。
- 全社の情報システムが戦略実現の足かせとならないように、定期的にビジネス環境や利用状況をふまえ、情報資産の現状を分析・評価し、課題を把握できている。
- 上記で実施した分析・評価の結果を受け、技術的負債(レガシーシステム)が発生しないよう、必要な対策を実施できている。またそれを実施するための体制(組織や役割分担)を整えている。
3.成果と重要な成果指標
デジタル技術を活用する戦略の達成度を測る指標を定め、ステークホルダーに対し、指標に基づく成果についての自己評価を示すことが求められています。具体的な取組事例の一部は、下記の通りです。
- 実施している取組について、すべての取組に KPI を設定、KGI(最終財務成果指標)と連携させている。
- 企業価値向上に関係する KPI について、ステークホルダーに開示している。
- デジタル時代に適応した企業変革が実現できているかについて、指標(定量・定性)を定め、評価している。
4.ガバナンスシステム
ガバナンスシステムの基本的な考え方は、下記の通りです。
- 経営者は、デジタル技術を活用する戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信を含め、リーダーシップを発揮するべきである。
- 経営者は、事業部門(担当)や ITシステム部門(担当)等とも協力し、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、戦略の見直しに反映していくべきである。また、経営者は、事業実施の前提となるサイバーセキュリティリスク等に対しても適切に対応を行うべきである。
具体的には、企業価値向上のための DX 推進について、経営トップが経営方針・経営計画やメディア等でメッセージを発信すること等が求められます。
デジタルガバナンス・コードの手引き
経済産業省では、中小企業のDX化を推進するために手引き書を作成しています。具体的な内容としては「DXの成功ポイント」として下記が挙げられています。
- ①気づき・きっかけと経営者のリーダーシップ
- ②まずは身近なところから
- ③外部の視点、デジタル人材の確保
- ④DXのプロセスを通じたビジネスモデル・組織文化の変革
- ⑤中長期的な取組の推進
中堅・中小企業等のDXにおいては、経営者のリーダーシップが大きな役割を果たします。まずは身近な業務のデジタル化や、既存データや身近なデータの収集・活用に着手することが求められています。
詳しい内容は、中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引きをご覧ください。
まとめ|デジタルガバナンス・コードでDX化推進
デジタルガバナンス・コードでは、経営者が企業価値を向上させるために実践すべき事項がまとめられています。「DX化」と聞くと特殊な能力が求められそうなイメージを持ってしまいますが、その内容を見ていくと意外とシンプルです。
経営者のあり方は、戦国武将の生き方や戦術から学べるポイントも多くあります。家康のようにステークホルダーと良好な関係を築くことは、いつの時代にもリーダーに求められる資質と言えるのではないでしょうか。