ICT施工とは|サイバー攻撃で「建機乗っ取り」はあり得る?
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「ICT施工」についてピックアップします。ICT建設機械やドローンを使いプロセス全体をIT化することで、建設現場の業務効率化が期待されています。一方で、ネットワークに繋がることで「ハッカーに乗っ取られる危険性はあるの?」など気になる点も。本記事では、ICT施工の具体的な事例も合わせて解説していきます。
ICT施工とは
ここでは、ICT施工の概要や規制緩和の動きについてまとめていきます。
ICT施工の概要
ICT施工(ICT土工)とは「建設生産プロセスの各段階で、ICTを全面的に活用する工事のこと」を指します。「施工だけ」「設計だけ」という一部分のみの導入ではなく、「プロセス全体」での導入となる点が特徴です。
人口減少が進む中で建設業従事者の数も減り続けており、慢性的な「人手不足」が課題となっています。そんな中で国土交通省は「i-Construction」を提唱し、IT機器を活用した建設現場の生産性向上を推進しています。
ICT施工を行うことで、建設業の安全性向上・働き方改革の実現等が期待されているのです。
国土交通省|ICT建機の自動運転をルール化する動き
国土交通省では、「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を設置して議論を進めています。その中で、ICTを活用して「監理技術者が2現場を兼任できる」方針に緩和する方針を示しました。
現行では請負金額3,500万円未満で専任不要となっていますが、緩和後は「1億円未満」に基準が引き上げられる予定です。これにはウェブ会議システム等を利用して、現場の状況をリアルタイムで確認することが条件となります。
兼任の範囲が認められれば、人手不足解消や生産性向上にも繋がることが期待されています。
ICT施工の事例をプロセス別に紹介
ここでは、ICT施工の具体的な事例をプロセス別にご紹介していきます。
①測量
従来の測量では、「三脚や測量機器」を使って敷地面積や高低差を算出していました。しかしICT測量では、「ドローンやMMS(モービルマッピングシステム)」といったIT技術で3次元データを取得する方法になります。
上図に挙げた北陸地方整備局の事例では、ドローンの使用で作業時間が「2日から0.5日」に短縮できるといった効果が現れています。また従来の測量に比べて「精密なデータ」が得られるため、その後の計画がスムーズに進むという声も聞かれました。
②設計
ICT施工の設計では、「3次元データの契約図書化」が行われます。従来の施工では設計図をもとに施工土量を算出していましたが、ICT施工では切り土、盛り土を「自動算出」できます。
たとえば土木施工管理システムの「EX-TREND武蔵」では、完成イメージの視覚的な表示や、横断等の形状編集をCADプロット上で直感的に操作することも可能です。
③施工
ICT建設機械を用いた施工では、3Dデータによる自動制御が可能となります。
従来の施工では「設計図に合わせて丁張り設置」「丁張りに合わせて施工」「検測と施工を繰り返して整形」といった作業が必要でした。しかしICT建設機械を使えば人の手による作業が削減でき、「重機の1日当たり施工量が約1.5倍」、「作業員の数は約1/3」になります。
「ICT建設機械」について詳しくは、下記記事をご覧ください。
④出来形管理
従来の出来形管理では、人の手で測定した結果と設計図書の数値を比較し、一つひとつ記載する必要がありました。しかしICT施工では「ドローンを使った3次元測量」を行うことで出来形の書類が不要となります。
作業が自動化できることで正確性が高まり、生産性向上にも繋がります。
ICT施工のメリット
ICT施工のメリットとしては、下記が挙げられます。
- 省人化ができる
- 施工日数が短くなる
- 施工精度が上がる
- 作業員の安全性が高まる
- 環境に優しい施工ができる
- 施工データを記録できる
ICT施工では、ドローンやICT建設機械といったIT技術を活用します。そのため作業人員や日数を短縮でき、スピーディーな工事が可能となります。
また建機の乗降といった手間が省けることで安全性が高まり、無駄な工程をカットして環境負荷を低減できるでしょう。施工データが記録できることで、履歴の確認や技術評価が「見える化」しやすくなります。
ICT施工のデメリット
一方で、ICT施工にはデメリットもあります。
- システムの初期費用が掛かる
- ICT建機等のメンテナンスが必要
- 操作技能習得の必要がある
- 通信が途切れると使えなくなる
- サイバー攻撃のリスクがある
ICT施工では「ICT建設機械」や「ドローン」といった測量機器やソフトウェアを用意する必要があります。また適宜メンテナンスを行うため、維持管理費用も余計に掛かるのがデメリットです。従来の施工に慣れていた技術者の方が、新たに作業技能を習得する手間もあるでしょう。
さらに通信技術を用いるため、天候不良や機器の不調時には施工自体が行えないケースも出てきます。場合によっては、サイバー攻撃を受ける可能性も考慮しなければなりません。
ICT施工は「サイバー攻撃」の危険もある?
ICT施工では建機が、。に接続するため、最悪の場合「ハッカーに乗っ取られる」可能性があります。
すでに乗用車は「コネクテッドカー(ICT端末としての機能を持つ車)」の時代に突入しており、一般車両にも搭載されるようになっています。「車載端末でYoutubeの動画が見られる」「スマホと車が同期してアプリがそのまま使える」など、便利な機能が使えて人気です。また「自動運転」にはクラウド通信が必須のため、将来的にはほぼすべての車で搭載されると考えられます。
しかし便利な反面、「ハッキングのリスク」もあります。実際に「セルラーネットワーク経由でハンドル操作ができた」「外部からの盗難防止アラームの無効化」といった事例が報告されており、同様の事象がICT施工でも起こる可能性があるでしょう。
自動車のサイバーセキュリティ対策は?
自動車のサイバーセキュリティ対策としては、2022年7月以降、国際規格である「UN-R155」による規制が段階的にスタートしています。これは自動車に対して「サイバーセキュリティ対策」を義務付けるもので、不正な操作による事故等の防止が徹底されているのが特徴です。
重機が制御不能になってしまった場合、重大な事故に繋がりかねません。ICT施工に関しても、様々なリスクに対応していく必要があります。
まとめ|ICT施工で建設現場の生産性向上を実現
ICT施工には、初期費用やネットワーク通信の安全性などのマイナス面はあります。しかしIT技術を用いることで「省人化や業務効率化ができる」等のメリットが大きく、国土交通省も普及を推進しています。今後のさらなる活用に向け、対応の強化が急がれるでしょう。