【BIMの日 独自取材④】建築性能の見える化によるSDGs 達成への貢献|林 立也氏(千葉大学)

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Category:BIM連載
Tag:AI

2022年2月22日に行われた「BIMの日」にて独自取材を行いました。

「BIMの日」とは、BIM建築やそれを取り巻く業務に求められる価値を考えることで、BIM の位置付けを改めて見直し、今後の活用のヒントになるようなシンポジウムです。BIM活用の生の声を全8回の連載にてお届けします。

第4回は、SDGs達成に必要な建築価値・性能とは?千葉大学の林氏はBIMとは異なる視点、「都市と健康」「ウェルネスオフィス」などの切り口から建築の価値を研究されています。BIMに期待することとは?発表をレポートします。

▼「BIMの日」その他の回の連載記事はこちら▼

第一回連載:BIMの祖型―CAD黎明期の試みに学ぶ | 建築情報学技術研究WG 種田 元晴氏(文化学園大学)
第二回連載: コロナ禍で見えてきたキャンパスBIM-FMのためのIPD | IPDコラボレーション研究WG 飯島 憲一氏(大阪電気通信大学)
第三回連載:BIMと関連するデジタル情報の連携や活用事例の研究|情報連携技術WG 柴田 英昭氏(FMシステム)

第四回連載:建築性能の見える化によるSDGs 達成への貢献|林 立也氏(千葉大学)※本記事です
第五回連載:デジタルツインが切り拓く近未来の世界~映画の世界が現実に~ |及川 洋光氏(清水建設)
第六回連載:from Room to Planet Mixed Reality ~空間デジタル技術の拡がり~ |伊藤 武仙様(ホロラボ)

プロフィール紹介

林氏は日建設計出身。設備設計、技術コンサルタントを担当の後、千葉大学に転じ、千葉大学大学院工学研究科 准教授に着任されました。長年CASBEEの開発に携わり、近年ではウェルネスオフィスの枠組み構築も進めています。研究テーマは「建築性能の見える化による建築・都市の価値向上」です。建築業界以外の人でも価値を共有できる建築や都市の在り方を研究しています。

都市と健康

千葉大学では文部科学省からの助成を受け、ゼロ次予防戦略を研究しています。ゼロ次予防とは健康=病気になることを防ぐ=ゼロ次での予防戦略です。研究の中で人の健康維持には建築や都市との関わりが強いことがわかってきています。膨大なデータ(全国の健康診断データなど)をAIで分析し、都市と健康の関係性を明らかにしています。

わかりやすい例として、都道府県別の平均寿命と健康寿命に関するデータがあります。データによると平均寿命、健康寿命がともに一番長い県は山梨県。逆に一番短い県は青森県となっています。地域により違いがあるのです。差が出る要因は食生活、気候、生活環境などさまざま考えられますが、その原因要素の分析が研究テーマです。

人との関わり方と健康

研究では人との交流が週1回未満から健康リスクが上がることも明らかになっています。近年、高齢者や若年層含め独居の方が増えていますが、人との交流が週1回未満の場合、要介護リスクが高くなるのです。毎日交流している方と比べると、1.3倍のリスクになり、さらに月1回未満の交流では、早期死亡にも至りやすいという結果も出ています。

人との関わり方の展開として、組織参加のスポーツが健康に好影響を与える研究も進んでいます。研究では組織に参加してスポーツを行う方が、組織に非参加で行うスポーツに比べ、要介護認定へ至りにくいという結果が示されています。

さらには組織非参加で週1回以上スポーツするよりも組織参加で週1回未満スポーツする方が要介護に至りにくいとの分析もあります。これは人との関りの有無がスポーツにおいても健康に影響を与えていることを示唆しています。

SDGsに貢献する建築・都市とは

このように物理的環境(都市、建築物など)や人間関係は個人の振る舞いや人体生理に影響を与えています。逆に言えば、建築・都市が人々のパフォーマンスや健康に与える要素をデータ化し、意味のある枠組みで整理できれば、SDGsや超スマート社会の構築につなげることができると考えられます。

オフィス性能と健康生産性

健康や知的生産性に貢献するオフィスをウェルネスオフィスと呼びます。オフィスは住宅と違い、ワーカー(利用者)が選べるものではありません。主には企業経営者が選ぶという側面が強くなります。しかしながら、オフィスで長時間働き、生産性や収益性を求められるのはワーカーとなります。ワーカーにとって働きやすいオフィス環境が共有され、その価値を企業経営者や不動産会社、投資家などが理解し、開発・選択する好循環形成を目指すのがウェルネスオフィスの枠組みです。

ワーカーの環境に対する評価をアンケートで点数化

CASBEE-オフィス健康チェックリストでは、ワーカーのオフィス環境(建築・設備仕様、性能、運用管理の質など)に対する評価をアンケートで定量化しています。

ワーカーのウェルネスに資するオフィス環境の要因を分析することにより、オフィス選定の際、ワーカーの健康性や知的生産性を向上させるために、オフィス選定の際なにを重視すべきか、という共通言語を持つことができます。

ウェルネスオフィスと賃料

これまで建物の仕様や性能が賃料に与える影響は不透明な部分が多くありました。そこで、オフィスビルの環境性能や仕様を「CASBEE-ウェルネスオフィス」として点数評価し、賃料との相関性を調査しました。

調査結果からはSランク物件はB+-ランク物件と比較して1.5倍ほどの賃料差があることがわかりました。Sランク物件とは丸の内の高層ビル程度のイメージです。さらにまた、不動産賃料に影響が強い主要ファクター(立地、規模、築年数等)と併せて分析することで、ウェルネスオフィスのスコア1点あたりが234円/坪の賃料常上昇に寄与していることも分析されました。

このように建物価値を数値化することで不動産会社、投資家も投資価値が判断しやすくなり、意志決定も促進できます。「きっとそうだろう」ではダメで、定量的な説明性がないと企業では意思決定できません。その意味で建築に関わるあらゆる情報のデータ化が大切だということがわかります。

BIMへの期待

建築業界はこれまでも、そしてこれからも国・自治体の政策、都市計画と深く連携しています。一方で近年は上述のように個人の行動振る舞いとの関連性も考えていかなければなりません。社会と建築、建築と個人。これらをつなぐ架け橋は「データ」です。BIMはあらゆる建築情報をデータ化するものとして、データプラットフォームになりうる可能性があります。BIMが建築に関連するデータのプラットフォームとして、人々の行動・健康にいい影響を与え、最終的にSDGs貢献になることを期待しています。

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