ISO19650とは?BIM/CIM運用の国際標準をわかりやすく解説【2025年】

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著者:上野 海

建設業界では今、BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)を活用した情報共有が急速に進んでいます。しかし、複数の関係者(設計者や施工者、協力業者など)が異なる段階でデータを扱うため、情報の整合性・命名ルール・保存環境などに課題を感じている企業も少なくありません。

そこでこの記事では、国際的な共通ルールとして注目されている「ISO19650」について説明したのち、基本構成、命名規則、CDE(共通データ環境)との関係、日本国内での導入事例、資格制度や研修の有無まで、実務に役立つ情報を詳しく解説します。

ISO19650とは?

ISO19650とは、建築・土木分野におけるBIM/CIMの情報マネジメントに関する国際規格です。次のような建設プロジェクトの各フェーズで、情報の一貫性・透明性を高めることを目的として用いられています。

  • 設計
  • 施工
  • 維持管理

また、ISO19650に準拠して業務を進めることで、以下のような効果が期待されます。

  • CDE(共通データ環境)を通じた情報共有の効率化
  • 命名規則の統一によるファイル管理の透明化
  • 発注者と受注者間での合意形成の迅速化

2018年にISO(国際標準化機構)によって策定されて以降、日本でも建設DXの推進とともに注目が高まっています。

(参考:JACIC研究開発部「ISO19650の概要」

またBIM/CIMの概要から知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください▼

BIM/CIMとISO19650の関係

結論として、ISO19650は、BIM/CIMの実務運用を国際基準に基づいて整理・標準化するためにつくられた独自のルールブックです。

既存のISOを流用した単なる情報管理の指針ではなく、BIM/CIMを組織横断で運用するための「共通言語」として用いられています。

従来、建設プロジェクトでは図面や3Dデータの命名ルール、保存場所、ファイル管理のルールが企業ごとに異なっており、再利用や情報連携が難しい課題がありました。対して、ISO19650はこれを国際共通のルールとして標準化し、「情報の受け渡しミス」や「設計変更の伝達漏れ」といったトラブルを防ぐ狙いがあります。

BIM/CIMの知識やソフト操作に慣れていることも業務に欠かせませんが、データの流れそのものを設計できる力が、ISO19650に求められる能力です。

ISO19650の構成

ISO19650は、複数のパートに分かれており、それぞれ異なる業務段階や機能に焦点を当てています。ここではパート1〜5までの概要をわかりやすくまとめました。

パート対象フェーズ主な目的対象読者
1全体・基本概念定義と原則の整理全関係者(特に発注者)
2設計・施工実務の情報管理ゼネコン・設計者
3維持管理維持管理対応の情報活用オーナー・施設管理者
4CDE運用情報環境とシステムBIM/CIMマネージャー
5情報セキュリティサイバー攻撃やリスク管理高セキュリティ施設関係者

ISO19650-1|用語と原則(情報管理の基本)

ISO19650-1は、すべてのパートの基礎となる部分です。建設プロジェクトにおける情報マネジメントの基本原則と用語を定義しています。

【主な内容】

  • 情報のライフサイクルにおける「段階」「責任」「成果物」の定義
  • CDE(共通データ環境)の役割と基本構造
  • 「情報要求」(EIR, AIR)や「プロジェクト情報要件」の考え方

BIM/CIMの前提知識がなくても読めるように設計されており、特に発注者側(自治体・官庁・ゼネコン)にとって、「何を管理すべきか」を把握するための基礎文書となります。

ISO19650-2|設計・施工段階フェーズでの情報管理

ISO19650-2は、設計・施工段階における情報の取り扱いがまとめられたパートです。

【主な内容】

  • 情報マネジメント計画(IMP)と実行戦略(MIDP)
  • 情報提出のプロセスと承認フロー
  • CDEでのバージョン管理・アクセス権の設計

特に、BIMモデルを使った情報交換がひんぱんに実施される「プロジェクト本番」におけるマネジメント手法が定めてあり、BIM/CIM活用の実務担当者の業務進行に役立ちます。

ISO19650-3|維持管理(FM)フェーズでの情報管理

ISO19650-3は、建設が完了した後の維持管理における情報活用マネジメントについて定義されています。

【主な内容】

  • アセット情報モデル(AIM)の構築
  • 維持管理フェーズにおける情報の更新ルール
  • データ寿命と将来的なリスク評価の視点

設備保守・点検計画の最適化やBCP対応に役立つ構造がまとめられており、内容が国交省の「インフラ分野のDXアクションプラン」にも沿ったものとなっています。

出典:国土交通省「インフラ分野のDXアクションプラン」

ISO19650-4|CDE(共通データ環境)との関係と実践

ISO19650-4は、CDE(共通データ環境)の技術仕様と運用ルールに焦点があてられたパートです。

【主な内容】

  • 情報ステータスの定義(WIP、Shared、Published、Archived)
  • CDEの技術要件(セキュリティ、ログ記録、検索性)
  • CDE上での「命名規則」と「ワークフロー自動化」の方法

上記の内容は施工管理に用いられる「Autodesk Construction Cloud」「Bentley ProjectWise」といった、CDEツールの選定基準として活用可能です。

ISO19650-5|セキュリティマネジメント(情報保護の観点)

ISO19650-5は、サイバーセキュリティと機密情報保護に関するガイドラインがまとめられています。

【主な内容】

  • セキュリティ脅威の評価手法
  • 機密データ・設計データの扱いにおける配慮事項
  • 国家安全保障に関わるプロジェクト向けの運用指針

国や自治体などを介してとりおこなう、業務データの情報漏えいやウイルス対策として欠かせないフェーズです。

また、ISO19650は、パート5以降も整備が進んできています。そのなかでも、パート6の邦訳情報を知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください▼

ISO19650の命名規則やデータ構造の標準化

ISO19650における命名規則は、以下のような構造を持つことが多く、各プロジェクトでこれをベースにカスタマイズされています。

プロジェクトコード-目的-区分-階層-要素コード-日付-バージョン

例:PRJ001-DRW-AR-2F-WALL-20240601-V03

要素説明例
プロジェクトコードPRJ001、TOKYO-HIGHWAY など
ドキュメント種別DRW(図面)、MOD(モデル)、RPT(報告書)など
担当部署・専門AR(建築)、ST(構造)、ME(設備)など
階層・位置2F、B1、EAST、ZONE-Aなど
日付20240601(YYYYMMDD)
バージョンV01〜V99(履歴管理に使用)

上記のような命名体系を用いることで、ファイルを開かずとも内容と更新履歴が把握でき、CDE(共通データ環境)での管理がしやすくなります。

日本におけるISO19650の普及状況と国土交通省の動き

ISO19650の活用は、日本国内でもBIM/CIMの普及とともに進んできています。

特に国土交通省が公開している「CIM導入ガイドライン」でも、ISO19650の考えが採用されていることから、徐々に普及率が増えてきている状況です。

ISO19650の公式PDF・参考リンク集

ISO19650に関わる公式PDFや参考リンクを整理しました。

上記のリンクは2025年時点に役立つ一例です。どれもBIM/CIMの運用に欠かせない資料ですので、ぜひチェックしてみてください。

ISO19650導入に必要な知識と資格・研修とは?

ISO19650の導入に成功したいなら「規格の理解」と「情報マネジメント技術」が必要不可欠です。

まず、ISO19650を導入・運用するために必要な主なスキル・知識は以下のとおりとなります。

  • 情報要求(EIR/AIR)に関する理解
  • CDE(共通データ環境)の構築・運用知識
  • 命名規則・ファイル管理の体系化
  • BIM/CIMモデルのライフサイクル設計
  • プロジェクト情報要件(PIR)に基づいた書類整備能力

このような知識・スキルを身につけるためには、参考書や学習本を用いて独学をするか、ISO関連の研修に参加するのがおすすめです。「形だけ導入する」のは意味がないため、正しい知識を身につけ社内ルールを整備することが欠かせません。

ISO19650についてよくある質問【FAQ】

ISO19650とCDEはセットで考えるべき?

ISO19650の運用では、CDE(共通データ環境)の整備が不可欠です。 両者を切り離して考えることはできません。ファイルの承認フローや履歴管理、データの信頼性を確保するうえで、CDEが基本インフラとして機能するため、一体での運用が必須です。

CDEの重要性を知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください▼

ISO19650の実践知識はどこで学べる?

たとえば、buildingSMART JapanのBIM認定試験や、国交省・建築研究所が主催するCIM研修、民間のBIM/CIM講座などで体系的に学べます。特にCDE運用やEIR作成のスキルは、座学だけでなく実習を伴う講習での習得が推奨されます。

命名規則に正解はある?自社導入の注意点は?

ISO19650では命名規則の例示がありますが、正解はひとつではなく、プロジェクトごとに最適化することが重要です。チーム全体がルールを守れるよう、フォーマットの共有とチェック体制の整備が導入成功につながります。

まとめ

ISO19650は、BIM/CIM運用における情報管理を国際的に標準化する重要な規格です。

BIM/CIMを用いた業務を進行するためには、命名ルールやCDE運用、研修制度までを理解し、組織的に導入することが重要であり、正しい知識を身につけることにより業務効率と信頼性が向上します。

建設DX時代に欠かせない基盤として、今こそ対応が求められる規格ですので、この機会に学習をスタートしてみてはいかがでしょうか。