BIMデータによる位置情報に基づき壁・柱との距離を計測しながら窓を施工するロボット開発|深堀り取材【毎月更新】

YKK APでは、非木造建築の建設現場で窓の施工を行うロボット「MABOT(マボット)」を※業界で初めて開発した。建設現場において熟練技能の継承の困難さや危険有害作業に対する安全性の向上など作業環境改善に貢献することを目的に、非木造建築物の建設現場での実証試験を開始する。

人口減少に伴う労働力不足や高齢化などの問題、長時間労働を是正するための時間外労働規制、いわゆる2024年問題への対応が求められている建設業界において、YKK APは建設DXに挑戦している。建設現場における省人化、工期短縮、技能継承、安全性の確保などに寄与すべく、商品開発やデジタル技術を取り入れた施工方法の確立などを進めている。それらの状況を受けて窓施工技能者の作業を自動で行う窓施工ロボット「MABOT」を開発した。

※業界で初めて: 2024年8月1日現在、日本国内の建設現場における人協働型窓施工ロボットシステムに関するYKK AP調べ。

窓枠を設置するロボットと窓枠を自動溶接して固定するロボットから構成される「MABOT」

「MABOT」は、自律移動して人と一緒に働くロボットシステムのシリーズで、窓枠を設置する「Alignmenter01(アライメンター01)」と設置された窓枠を自動溶接固定する「Welfixer01(ウェルフィクサー01)」から構成されている。

窓枠を正確な位置に設置するロボット「アライメンター01」は、※基準墨から設置位置を確認し、高精度な位置決め機能で窓枠を躯体に設置する。計測から※クサビを用いた窓枠の建て込み設置までの、一連の施工技能者による作業を自動で行うことができるので、熟練技能者不足の課題に対応する。 

自動溶接ロボット「ウェルフィクサー01」は、開口部に木クサビ等で建て込み設置された窓枠の四周に対して、躯体に窓枠を固定する鉄製ブラケットを自動で配置し溶接固定する。溶接工程を省人化できるだけでなく、高所作業による災害リスクや有毒な溶接ヒュームを吸引する健康障害リスクの低減、不活性ガスにより火花を抑えることで火災リスクを低減でき、安全性の向上に貢献する。

YKK APでは、今後も窓施工における資材運搬や品質検査、AIを用いた画像認識や自律移動機能を搭載した「複数のロボットが会話する連携ロボット」などの開発を進め、建設現場での実使用を目指すと共に、建設業界の課題解決に取り組んでいく。

※基準墨: 床、柱、壁やその開口部に描かれる建築の構造物や仕上げ物の基準となる墨で打たれた線のこと。

※クサビ: V字形の木の小片で、サッシを躯体に取り付ける時、位置決め調節するために枠と躯体との隙間に差し込むもの。

「アライメンター01」=開口部の基準墨を自動認識+「ウェルフィクサー01」=BIMデータによる自律移動

窓枠設置ロボット「アライメンター01」の特長を具体的に見てみよう。

開口部に打たれた通常の建築現場で使用されている黒色墨を自動認識することが可能だ。スキャンした墨情報を基準に高精度に位置決めすることによって自己の位置や開口の精度不良を補正し、正しい位置へと窓枠を建て込み設置する。窓枠の把持と設置機能がある着脱式のエンドエフェクターとなっており、ロボットとエンドエフェクターの開発に拡張性を持たせている。窓枠を設置した状態で次の溶接固定ロボットへ引継ぐ施工手順やエフェクター変更による他窓種対応を想定している。

自動溶接固定ロボット「ウェルフィクサー01」の特長を列記する。
BIMデータから作成した地図(位置)情報を基に自機と壁や柱との距離をセンシングしながら設置された窓枠の前へと移動する。BIMデータとの連携によって施工順番の変更、前工程の進捗情報を活用、作業結果を反映した工程管理なども可能となる。ロボットに自動昇降リフターを搭載し、はきだし窓の溶接を想定した低所(最低地上高0mm)から高所(最高地上高3.2m)までの広い可動範囲で、様々な窓種に対応している。開口部に木クサビ等で位置決め設置した窓枠の四周に対して鉄製ブラケットを自動で配置し溶接する。これによって作業員が有毒な溶接ヒュームを吸引するリスクを低減するのに加えて、不活性ガスを搭載しているため、火花の発生を抑えた溶接が可能だ。

バッテリー駆動でコードレスに加えて四輪独立駆動で縦横斜め、回転、スロープ移動の他、20mm程度の段差があっても自在に移動ができる。30分の急速充電で100分稼働できるため安全作業サイクルに適応した効率的な施工が可能だ。移動中は人やモノなど障害物を自動検知して回避する他、人やモノが接触した際には、自動停止するなど安全にも配慮している。


◇「MABOT」基本情報

・主な適用対象商品:ビル用Window「EXIMA 31」

・ロボット本体サイズと重量:「アライメンター01」=幅1,040mm×高さ2,020mm×奥行790 mm・250 kg+「ウェルフィクサー01」=幅930mm×高さ1,900mm×奥行1,700 mm・550 kg

WEBサイト「BIMデータダウンロード」でビル用商品とエクステリア商品のBIMデータ提供

YKK APでは、YKK AP商品のBIMデータを入手できる「BIMデータダウンロード」WEBサイトを公開している。そのWEBサイトでは、「商品名」「窓種」のカテゴリーから絞り込んだり、商品名などでキーワード検索して目的のデータを探すことができる。ビル用商品はRevit 用データ、エクステリア商品は、Revit用データとArchicad用データが用意されている。
 WEBサイトからは単窓Revit用データがダウンロード可能だが、アドインツールとしてビル系商品の連段窓のRevitデータを作成できる「連段窓作成ツール」も提供している。「連段窓作成ツール」は、ダウンロードした後、手元のPCにインストールして使用できる。対応環境は、「連段窓作成ツールマニュアル」を参照する。なお、ダウンロードにはログインが必要で、サービス向上のためシステムの利用ログを自動取得している。


◇BIMデータダウンロードWEBサイト

https://bim.ykkap.co.jp