ゼネコン現場でのDX推進と組織マネジメント|株式会社熊谷組 作業所長へ独自インタビュー
建設DXは実際のゼネコン現場でどれほど進んでいるのか?現場はDXに対して具体的にどのように取り組んでいるのか?1898年の設立以来、長い歴史を持つ株式会社熊谷組にその動向を取材しました。
株式会社熊谷組は、日本有数のゼネコンとして長い歴史を持ち、特に土木工事や建築工事の分野で高い技術力を誇ります。トンネル、ダム、橋梁などのインフラ整備や大型建築物の設計・施工を得意とし、国内外で数多くの実績を残しています。今回は首都圏で長年、建築工事に携わってきた梶山和之様にお話を伺いました。
目次
インタビューイー紹介
株式会社熊谷組
東京建築支店 建築事業部建築部(第1工事部)
梶山 和之 様
DXで現場の各職員のやること(業務)を「見える化」
私はDXの中でも3Dモデリングに注目してきました。3Dモデリングはその名の通り、BIMをベースに3次元の画像を生成し、建物を表現するツールです。未完成の建物の完成イメージから工事の施工手順まで立体的に示してくれます。図面という2次元媒体から実際の建物完成までの「イメージの橋渡し役」になってくれます。
具体的には3Dモデリングで鉄骨建方の工程や配筋モデル、内装仕上げなどを「見える化」することで、特に若い職員や現場作業員の理解が深まり質の高い打合せができるようになりました。
若い職員の理解が進むと、どういう手順で竣工までもっていくのか、そのためには今日何をやるべきか、優先する仕事は何かを各職員が自分の頭で考えられるようになりました。建設物完成という組織の目標に向かって各職員がやらなければならない仕事を「見える化」させて、なおかつ仕事の優先順位を考えさせる、残業をなくす一つの働き方改革だと考えてます。
DXと組織マネジメントをセットで考える
3Dモデリングの本格的導入は、10年ほど前の現場(2017年竣工:(仮称)荒川二丁目複合施設、建物名:ゆいの森あらかわ)からです。当時、免震シミュレーション(地震時の建物の挙動)を3D化して挙動させた際に、免震装置の理解が一気に深まり、様々なアイデアや意見が出てきたことが良い経験となっています。地震国の日本においては必要なアイテムだと感じました。
昔であれば所長や上司が若手に対して口酸っぱく「今日は○○をするんだよ」と導いていましたが、今はそのような時間や人の確保が簡単ではなくなっています。
ではどうする?と考えたときに、今の時代はググる(Googleで調べる)、個人個人が自分の必要な情報は自分で調べる、と思い各職員が自分で知りたい情報は自分自身で探して、自分の考えを確立出来る (考えられる人間にする)資料を事前に作成するべきだと考えました。
そして、知りたい情報や仕事の進め方の大枠やツールは上司や所長が準備する、というやり方を確立すること、上司や所長からの頭ごなしのトップダウンにならないように事前資料を基に打合せを行い、お互いが同じ気持ちで建設物完成を目指したいと思います。
そういった意味でDX活用と現場組織マネジメントをセットで考えています。
DXは現場全員が同じベクトルで仕事をするためのツール。所長は同じ方向にベクトルが向くようリーダーとして導き、寄り添い、アドバイスし、鼓舞する人間的な役割を担う。その結果、現場がより自分で考える力を持った人の集団になるというのが、私の目指していることです。
実際、2021年竣工の「(仮称)「夢の絆・川崎」プロジェクト、建物名:夢の絆・川崎」という工場(世界一のLPガスハブ充填基地)の際にも3Dは活きました。特殊な膜天井(東京ドームの屋根と同じ)の構造で、施工手順などを3D化して取り組みました。
こういった特殊な物件は施工手順やディティールについて図面から想起しづらい部分が出てきます。関係者間の齟齬を回避するために、3Dで表現することにしました。すると3Dを見た上で、施工のアイデアなどが活発に出てきて、とてもスムーズに施工することができました。また、3D化したデータは記録として残るので、現場のノウハウが直感的にわかり、会社の財産にもなりました。
DX推進にはマイナスをプラスにかえる努力が必要
3D含めたDXを推進にあたっては、まず、その存在とありがたみを感じることが大事だと思っています。人間ありがたみを感じると、自分もやってみようと思うものです。初めてのチャレンジでは結果がマイナスかプラスかもわからないことが多いです。人はすこしでもマイナスがあると拒否反応を示す傾向がありますが、それでもチャレンジする気持ちを持ち続けることがポイントだと思っています。
たとえ、マイナスだったとしても次の仕事ではマイナスを20から10に減らす、それでよいと思うこと。さらに次の仕事ではようやくマイナスをプラスにかえる、という継続的な努力をすればDXはさらに推進すると思っています。
その中で、結果が表れた際に失敗も成功も共有して、失敗したことを1つでも次回は減らす努力、成功してもさらに良くならないかと努力する人がパイオニアであり自分自身が目指しているものです。
私と仕事をした人たちが少しでも自分の考えに理解をしてくれて、いろいろな方面で活躍してくれたらこれ以上うれしいことはありません。
3D導入の成果は社内の所長会議で定期的に共有しています。どの3Dモデリングにいくらの予算を使い効率が上がったのかも検証しています。今は社内向け施工管理としての活用がメインでしたが、最近では事業主や近隣の方への説明資料、建物の魅力を入居希望者へPRする営業的な使い方にもトライしています。
建設業界の人手不足はDXと「組織の100点」で乗り越えられる
時代の流れとして、現場のゼネコン職員は少数精鋭になってきています。10年前であれば社員が6人配置されていた現場が、今は半分程度の人数の印象です。その状況をただ嘆くだけでは、なにも生まれません。その人数でできることはなにかと考えて、チームで仕事をすることが重要だと思っています。
たとえば、部下に書類作成をお願いして、1週間後の完成を目指した場合。
ある部下は自分ひとりで完結して1週間後に自分の100点の完成を目指します。
別の部下は2日くらい自分で悩んで60点くらいまで仕上げた段階で、「すみません、打ち合わせさせてください」と相談にきます。そこで打ち合わせを経て、80点になり、また最後に相談に来て、最終的に1週間後に100点を目指します。すると、1週間後は個人の100点ではなく、組織の100点になっています。
私は現場で常々「組織の100点」を目指そうと話しています。人手不足が叫ばれる中、DXは間違いなく大切ですが、それを使いこなす人間が自分の頭で考えて、チームで同じ気持ちになって仕事をすれば、きっと乗り越えられると思っています。
トップダウンでのDX推進も自分事としてとらえる
(編集部より)
野原グループ株式会社が開発中の「BuildApp(ビルドアップ)内装」プレカットサービスの実証実験に、梶山所長の現場でご協力いただきました。実証実験を通して見えてきたことを詳細にお話しいただき記事化をいたしましたので、ぜひこちらもご覧ください。
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