構造計画研究所の「Project PLATEAU」への参画について|深堀り取材【毎月更新】

建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度が本格化しています。第24回は、「構造計画研究所の『Project PLATEAU』への参画」について解説します。

「Project PLATEAU」に参画して土砂災害+熱流体解析シミュレーションを開発・実施

構造計画研究所では、国土交通省が先導する「Project PLATEAU」に参画し、2023年度における活用事例として「精緻な土砂災害シミュレーション」「熱流体解析に関する大規模シミュレーション」の開発及び実証を行った。

「精緻な土砂災害シミュレーション」においては、土砂災害対策への活用を見据え、家屋の倒壊状況などを加味した精緻な土砂災害シミュレーションを実現し、解析結果は、非専門家でも直感的に把握できるよう3次元可視化している。

「熱流体解析に関する大規模シミュレーション」においては、ヒートアイランド対策など都市計画分野への展開を見据え、非専門家でもWeb上で手軽に、条件構築から結果の可視化まで実施できる熱流体シミュレーションシステムとして開発した。

「Project PLATEAU」は、国土交通省が先導する日本全国の3次元都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクトである。都市活動の基盤データとして3次元都市モデルを整備し、様々な領域での活用事例を開発すると共に、誰もが自由に都市のデータを利活用できるオープン・イノベーションの創出を目指している。

シミュレーションによる施策検証に対する期待が高まる中で、従来、都市に関するシミュレーションを実施する際には、必要なデータの整備に大きなコストが必要であった。「Project PLATEAU」によって3次元都市モデルが整備されることでシミュレーション実施の障壁が取り除かれ、施策検証への活用が期待される。

図1

土石流の衝突時のエネルギーや流動方向の変化を考慮した土石流シミュレーションを実施

「精緻な土砂災害シミュレーション」は、構造計画研究所とウエスコ(岡山市)が協働して提案し、岡山県備前市を対象に、家屋の倒壊状況などを加味した精緻な土石流流体数値シミュレータ及び3次元可視化システムの開発を行ったもの。

 現在、運用されている土砂災害警戒区域などのハザード情報は、地形から力学的に推定される最大範囲を網羅するものとなっているが、中山間地などでは、土石流警戒区域などが幾重にも重なり、避難計画立案が困難な状況が発生している。

今般、「Project PLATEAU」で整備された3次元都市モデルを用いることによって、土石流などが家屋に衝突することでもたらされるエネルギーや流動方向の変化を考慮した土石流シミュレーションが実施できるようになった。これによって家屋の倒壊などを考慮した上で土石流の氾濫範囲を緻密に解析し、比較的リスクの低い地点などを工学的根拠に基づいて示すことが可能となる。

フリーソフト「iRIC」の解析ソルバー「Morpho2DH」をカスタマイズして活用

土石流の解析には、氾濫や流出、津波、土石流モデルなどの様々な数値シミュレーションを実行できるフリーソフト「iRIC※」を利用、土石流・泥流の流動・堆積過程を表現可能なiRICの解析ソルバー※「Morpho2DH」をカスタマイズして活用している。カスタマイズに際しては、「Morpho2DH」の開発者である京都大学竹林洋史准教授、広島大学三浦弘之教授監修の基、3次元都市モデルの読み込み機能と家屋倒壊判定機能を追加実装した。

 解析結果として出力される土石流の氾濫範囲・氾濫速度や家屋損壊の状況を、土木や工学の専門知識を持たないユーザーがWebブラウザ上で直感的に把握できるよう3次元可視化したプラットフォームとして「Terria Map」を採用し、Web上で解析結果をアニメーション表示できるようにしている。

今後は、評価ロジックの精度向上などシステムの改善を図ると共に、土砂災害対策に対して課題を有する地方公共団体などに対してコンサルティングを展開していく。行政職員や地域住民、解析を担当するコンサルタントなどの幅広い関係者に今回の取り組み成果を活用してもらうことで、土砂災害に対する避難計画の高度化が促進されることを目指す。

※iRIC: International River Interface Cooperative: 2007年に清水康行教授(北海道大学)とJon Nelson博士(USGS:アメリカ地質調査所)の提唱により始まった活動で、河川、水や土砂など水工学に係る数値シミュレーションのプラットフォーム(iRICソフトウェア)の開発やそれに係る情報発信、講習会開催などを行っている団体。
※ソルバー:Microsoft Excel のアドインプログラム。ソルバーを使うことでワークシート上の他の数式セルの値に対する制約または制限に従って1 つのセル(目的セルと呼ばれる)の数式に対する最適な(最大または最小の)値を検出できる。

図2:WebGIS上で土石流シミュレーション結果を可視化した様子

建築物の3次元形状・属性情報といった情報を取得して熱流体シミュレーションを実行

「熱流体解析に関する大規模シミュレーション」は、3次元都市モデルから建築物の 3次元形状・属性情報(用途)、土地利用区分、地形といった情報を取得し、Web上で利用可能な熱流体シミュレーションシステム(CFD:Computational Fluid Dynamics)として開発している。

都市部のヒートアイランド対策としては、屋上緑化や壁面緑化、公共施設グラウンドの芝生化、打ち水があるが、効果の定量評価に際しては対策実施前後の気温や風向の実測値を示すことが一般的で、効果を事前に検証することが困難という課題があった。加えて効果の事前検証としてシミュレーションを実施する場合でも、測量データの整備・シミュレーションモデル構築・熱流体解析の実行・結果可視化といった一連の業務を、地方公共団体等からコンサルタント会社等に外部委託する必要がった。

シミュレーションの条件構築・実行・結果可視化まで非専門家が外部委託することなく実施

「熱流体シミュレーションシステム」を用いることによってシミュレーションの条件構築・実行・結果可視化に至るまで、一連の熱流体解析に関する業務フローの大部分を地方公共団体などの非専門家が外部委託することなく実施できる。

開発に際しては、東京工業大学稲垣厚至助教の監修の基、シミュレーションエンジンとしてオープンソースのCFD※ソフトウェアである「OpenFOAM」を利用、Webアプリ上のGUI操作でシミュレーション要件、現況調査に基づく解析条件を容易に設定できるよう設計している。各地点の風向き、中空温度、暑さ指数などのシミュレーション結果は、Webアプリ内で3次元描画することができ、住民などの一般ユーザーにシミュレーション結果を公開できる機能も備えている。

地方公共団体職員を対象としたシステム実証においても開発したシステムの機能性・有用性について一定の評価を得ることができた。今後は、システム実証で挙がった意見を踏まえ、都市計画実務へのサービス展開を図るとともに、都市計画以外の行政分野への利用拡大も視野に入れた機能拡充を検討していく。

※CFD:Computational Fluid Dynamic: 数値流体力学。

図03:シミュレーション結果の表示画面(暑さ指数)