地場ゼネコンによる働き方改革の事例報告|深堀り取材【毎月更新】
建築BIM加速化事業にともない、BIMやDX化への注目および実施速度が本格化しています。第21回は、全現場の土日祝閉所を3ヶ月連続で達成した地場ゼネコンによる働き方改革の事例報告について解説します。
目次
全現場の土日祝閉所を3ヶ月連続で達成した地場ゼネコンによる働き方改革の事例報告
建設業界を担う労働人口は、年々、減少傾向にあり、次世代の担い手の確保が喫緊の課題となっている。2019年には時間外労働に上限規制を設ける「働き方改革関連法」が施行されたが、長時間労働や休日を取得しにくい状況が常態化している建設業では規制の適用に5年間の猶予が与えられていた。猶予期間の経過により2024年4月から長時間労働への規制が適用され、建設業における「働き方改革」も待ったなしの状況を迎えている。
10年前から段階的に週休二日制へ移行するなど、環境改善に進めてきた三和建設の挑戦
地域に密着して活動する地場ゼネコン、三和建設(大阪市淀川区)の働き改革が各方面から注目を集めている。10年前からは第3・5土曜日が出勤日の隔週休二日制を廃止するなど改革を続け、段階的に週休二日制へ移行する中で、新築11建設現場の土曜日・日曜日及び祝日閉所を2024年1月~2024年3月の3ヶ月間連続で達成※している。
※独立した敷地での新築工事。稼働中の敷地においての建設現場はその限りではない。
事業領域を絞り込むブランディング戦略の採用で全社的な意識改革と受注環境の改善実現
三和建設では、2011年に食品工場に価値を付与する「FACTAS」(ファクタス)ブランドの発足を契機として倉庫、社員寮へと事業領域を絞り込む中で他社との差別化を図ってきた。その結果、技術的なノウハウの蓄積や専門性の高まりに加えて、それらの分野においては大企業とも競合できるとの自負も生まれ、社員の成長にも繋がっている。
得意とする事業領域を明確に絞り込むブランディング戦略を採用した結果、顧客からも選ばれる存在となるなど営業力の強化にも結びつき、案件への早期段階からの参画が可能となった。具体的には、受注の見直しができるようになり、余裕をもった工期で工事を請け負うことができるようになっている。
従来、建設業においては、予想の難しい自然環境のもと、現場の長時間労働に頼ってきたが、個別の現場での対応では働き方改革を実現する時間の捻出には限界があった。三和建設では現場に一任されていた工期管理についても経営層から全社レベルでの取り組みとして推進している。
BIMによるフロントローディングを積極的に導入して、施工現場での負担を減らす取り組み
永年に渡り、労働環境の整備、改善に注力してきた三和建設の取り組みを時系列で追ってみる。
2017年4月には、若手社員の原則受講を優先する形式で、第3土曜日を終日、社内大学「SANWAアカデミー」開講日としている。続けて2022年10月には、第5土曜日を会社指定定休日とした。
2023年10月には、SANWAアカデミーを第3水曜日の午後に移行し、第3土曜日も休日に変更するなど、完全週休二日制へと移行した。2022年からは、段階的に完全週休二日制への移行を全社内的に宣言した結果、2023年10月の78期開始から半年間、全社員が継続して週休二日体制を維持している。
2023年10月には、勤怠システムを刷新することで振替休日の取得や残業時間を可視化しやすくなるなど、週休二日体制を維持するための取り組みも展開している。加えてペーパーレス化や業務の棚卸しから全社のフォーマット統一を目的に、IT勉強会を導入、ルーティンワークの自動化を目指す。前工程での業務負担を軽減するべくBIMによるフロントローディングを積極的に導入し、現場での負担を減らす取り組みを行う。加えて20時以降のPC強制シャットダウンも実施する。
施工現場では、交替勤務を可能にする複数名の現場配置を実施し、ベテラン技術者採用による現場指導も徹底する。掲示板型社内日報システムによって全社員で情報を共有する。
若手社員の定着率向上や平均残業時間の減少など、働き方改革の成果も数値的に見える化
ここまで見てきたような働き方改革に向けた様々な取り組みの結果、安定的に新入社員の採用ができるようになり、29歳以下の社員数は全体の30%を超える割合となっている。これは「29歳以下の建設業就業者数は11.7%という国土交通省の調査」※を遥かに上回る割合だ。
「働き方改革関連法」に規定されている長時間労働の是正についても着実に成果を上げている。直近の78期(2023年10月~2024年3月)には全社員の平均残業時間は23.6時間/月となり、土日閉所を実行すると決定した75期(2020年10月~2021年9月)の29.8時間/月よりも残業時間は約2割減少している。
※国土交通省「最近の建設業を巡る状況について[報告]」令和5年4月18日 不動産・建設経済局より