【連載】建築設計×デジタル 髙木秀太事務所のサポート術 (第4回)ヒトにやさしく

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Category:建築DX

著者:髙木 秀太

髙木秀太事務所 代表 髙木秀太です。「建築設計×デジタル 髙木秀太事務所のサポート術」、連載第四回です。第二回で対「ヒト」、第三回で対「モノ」のデジタルサポート術をご紹介してきましたが、今回はちょっと感覚的です。テーマは「やさしさ」です。

過去の連載記事はこちら

第一回:【連載】建築設計×デジタル 髙木秀太事務所のサポート術 (第1回)「髙木秀太事務所白書」で自己紹介

第二回:【連載】建築設計×デジタル 髙木秀太事務所のサポート術 (第2回)ヒトのためのデジタル

第三回:【連載】建築設計×デジタル 髙木秀太事務所のサポート術 (第3回)モノのためのデジタル

あなたの基準は誰かの基準ではない

「え、まだ作業を手作業でやってるんですか」「え、まだそんなソフトつかってるんですか」「え、まだBIMを勉強しないんですか」。そんな言葉で読者のみなさんも、建築設計業務やDXの現場などで「デジタルマウント」を取ろうとしてしまったこと(取られてしまったこと)が、ありませんか??私はあります。若気の至りです。

自身のデジタライズされた思想や手法が、あたかも最も先進的で効率的であるかのように自信を持ってしまうと、この傲慢な感覚から逃れることは難しいです。こういった発言は「正しい」のですが、同時に「正しくない」のです。理想と現実、というやつですね。

勉強は大変:「教育」と「学習」

この「デジタル感覚格差」とでも呼ぶものを埋めるのに和平的な解決策を求めるとすると、まず考えられるのは「教育」と「学習」ということになると思います。知らない人・使うことのできない人のレベルを底上げするために教育を施し、学習してもらう。至極当然の解決方法です。

しかしどうでしょう、それだけでこの手の問題はすべて解決できるのでしょうか。すでに一生懸命こういった取り組みをしているのに、むしろ「デジタル感覚格差」は広がる一方だと考える方も多いのではないでしょうか。

「教育」も「学習」もコストがかかります。教える側はひとりひとりに適合した教育を思案しなければいけませんし、学習する側はモチベーションを上げるのも保つのも一苦労です。

昔に比べて、現代は「学ぶべきこと」が桁違いに多くなったように思います。そんな時代に、首根っこを捕まえて「迷わずこれを勉強しろ」と言う側も、言われる側も、双方大変なストレスになりかねません。「教育」も「学習」も生物です。大変有効な手段ですが、過度な期待は禁物です。

真のDXはヒトにやさしい

なぜ、この時代にみな同じデジタルツールを勉強する必要があるのでしょうか??本当に、足並みを揃えてデジタルメソッドを理解する必要があるのでしょうか??ダイバーシティ(多様性)を謳う現代において、人それぞれの勉強対象やモチベーションがあって当然です。

現代的な真のDXとは、ヒトにやさしいものであるべきだと思います。そして、それは「思いやり」だとか、「気配り」だとか、極めて人間らしい部分に根付き、育つものではないかとも思っています。これに関して象徴的な対比となる弊社のプロジェクトがあるので、「髙木秀太事務所白書」からご紹介します。

Case.A 図面で情報を引き渡す

第三回連載にも登場した、「PRISM TV STUDIO」というテレビ収録スタジオの内装計画(設計:クマタイチ)です(図1)。プログラムによる幾何学制御で1,000枚以上の木板材をデザインしました。

作成する板パーツは1枚1枚のサイズがすべて異なりますし、金物の取り付け位置もマチマチです。こちらの加工はクライアントさんからのご指定があった、地場産業の木工所さんによるものでした。腕が確かで、計画に対して親身になって相談に乗って頂けるような素晴らしい木工所さんでした。

しかし、「デジタルはさっぱり分からないので、加工の情報は全て図面でほしい」とリクエストを貰いました。髙木秀太事務所では、1枚1枚の加工図をすべてプログラムによって自動作図し、木工所さんに図面として引き渡しました(図2)。

図2

Case.B 3Dモデルで情報を引き渡す

続いて、「NTT DATA INFORIUM 豊洲イノベーションセンター」というショールームの内装計画(ディレクター:コクヨ株式会社)です(図3)。プログラムによる幾何学制御で1,000個以上の木角材をデザインしました。

図3

作成する角材パーツは1個1個のサイズがすべて異なりますし、凹凸を付けるような立体加工が必要です。こちらの加工はクライアントさんからのご指定があった、最新の木加工機械を駆使するスタートアップ企業によるものでした。VUILDという業界では有名な会社でハイテクな加工処理を得意としています。

そんな彼らなので、「機械に入力し易いような工夫をしたうえで、加工の情報は全てデータファイルでほしい」とリクエストを貰いました。髙木秀太事務所では、1個1個のパーツモデルをすべてプログラムによって自動モデリングし、VUILDさんにモデルデータとして引き渡しました(図4)

図4

情報は相手に寄り添って

Case.AとCase.Bでわざと文体をおなじようなものにしてみました。取り組んでいることやプロセスは全く同じプログラムによるコントロールですが、ヒトに対して「気を配った」方向は真逆です。

真の意味で手なづけたデジタルであれば、このように相手に寄り添った情報の出力が出来るはずなのです。みなさんお馴染みのBIMも、元々は同じような思想によって成り立っているソフトウェアです。

英語ができないヒトに日本語を翻訳してあげるように、子供が食べやすいように料理を切り分けてあげるように、「情報の気配り」が大切なのです。そうすれば、きっと、DXに関する「教育」や「学習」にも明るい未来が開けるはずです。
 
では、最後に。「ヒトにやさしく」ありたい、建築設計DXに関わる全ての教育者・学習者たちにエールを。―――聞こえてほしい あなたにも ガンバレ!

追記:ところで、今回、ここまでの連載で使用を避けて来た「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が多用されました。これは「デジタル技術でお仕事を良くしようよ」というような意味合いの流行りの言葉です。変に気取らずに、もう少し気楽でヒトにやさしい感じの言葉があるといいのにな、と思いますね。

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