【連載】大林組のDX戦略|第三回「大林組のBIM生産基盤と取組事例 その①」

大林組はDX推進のため、2010年からBIMの導入を進めてきました。BIMデータを基盤とする情報管理を進めることで、2024年度末までのBIM生産基盤への移行を目指しています。本記事では、大林組のDX戦略とその根幹となるBIMについてご紹介します。

連載第3回は、大林組のBIM生産基盤と取組事例(その①)についてご紹介します。

大林組のBIM

まず大林組のBIMを語る上での3つのポイントについてご説明いたします。それは、SBS・ワンモデル・一貫利用です。

1. SBS(Smart BIM Standard)

BIMデータこそが建設DXの根幹を成すものである、という認識から、大林組では現在 BIMを情報基盤とする業務枠組みを構築しています。そこで重要となるポイントは、基盤情報であるBIMデータが所定のルールに則り標準化されていること、です。もし標準化されていなければ、全ての業務の根拠となる基盤情報として機能させることができません。そのため大林組では、BIMモデルのモデリングルールとして「SBS(Smart BIM Standard)」を定めています。

建設実務においてBIMデータを一貫利用することを前提として、大林組のBIMモデルは全てSBSに準拠しています。なお大林組は「BIMは既に競争領域ではない」との認識にあり、建設業界全体に対して「BIMの標準化」を提言する意図も込め、このSBSを2023年1月よりWeb上で一般公開しています。

2. ワンモデル

ワンモデルとは意匠、構造、設備、各分野の設計情報を一つのBIMモデルに統合して実務に供する考え方です。同じ(仮想)空間内に建築情報を構築していくことで、設計主体間で発生する設計案の不整合を防ぐ意図があります。

3. 一貫利用

一貫利用とはBIMモデルを利用して、 設計から生産・維持管理段階までの全フェーズで業務を行うことを指します。SBSに則り標準化されたBIMモデルは、全プロジェクトの着工時に生産現場に提供され、以降あらゆる生産関連業務に利活用されます。こうすることにより、設計以降の生産段階から維持管理段階において、「設計情報」という正しい情報を継承し、利用し、効率的に業務を管理することが可能になります。

大林組のBIMは、これら3つの基本的な考え方を軸として枠組みが構築されています。

BIMの基盤化の実現|「BIMの木」を育てること

上図はBIMを情報基盤とした業務ワークフロー構築の手法を、「BIMの木を育てる」として図式化したものです。結論を先に述べると、この図が意味するところは、正しく設計情報を構築し、育て、維持することで、業務ワークフローの各段階に高い正確性を持った情報がもたらされ、そしてそれを利活用することで、結果として業務に高い効率性がもたらされる・・・というものです。以下、詳細を説明します。

まず全体を支える「根」の部分ですが、この「根」には、以下の3点が含まれます。

  • モデリングルール標準化(SBS)
  • BIMモデル制作体制構築
  • BIMリテラシー教育

BIMによる業務ワークフローの構築を考えるには、BIMデータを基盤情報とするための標準化ルールの策定が必要でした。それが「SBS」です。次に全現場に標準化された設計BIMモデルを供給する必要から、協力会社を含めたBIMモデル制作体制の構築が行われています。また、現場スタッフにBIMスキルがなければ供給されたBIMモデルの効果的な利活用が難しいため、関係者に対するBIMリテラシー向上のための教育を実践しています。

次に軸となる「幹」の部分には、以下の3点を記載しています。

  • 設計モデル制作運用
  • 生産設計図出図運用
  • 生産モデル一貫利用

「根」が固まった次には、まずは1丁目1番地となる「設計BIMモデルの制作と運用」を行います。設計BIMモデルには設計図書記載レベルの情報がBIMモデルと言う形で構築されています。そして設計BIMモデルを受領した生産部門は、これを基に躯体図や平面詳細図などの「生産設計図を出力・運用」します。この際にBIMモデルは、設計図書レベルから生産設計図(または単に「施工図」)が出力できる情報を持つレベルに育てられます。その後「生産設計で調整された生産BIMモデルを施工管理にも利用する」という一貫利用の流れに繋がっていきます。

このような取り組みを行い軸となる運用を確立させます。そうすればその先には枝葉が茂って実が生(な)り、BIMモデルを利活用する様々な手法が考えられるようになっていく・・・と考えたのです。

大林組では、2019年度初頭から「根」の部分を、そして2019年度後半から2020年度には「幹」となる部分について重点的に対応してきました。またこのころから、生産設計活動として鉄骨工事デジタル承認や次世代型生産設計図の運用というものも開始されています(後半で紹介)。2021年度以降になるとそれらの活動が結実し、「正しいBIMモデル」=「正しい建築情報」が施工管理段階にもたらされるようになり、これを利活用する各種の施工管理効率化のソリューションが現れ始めて現在に至っています。つまり現在は、BIMの木が着実に育った結果多くの果実が実りつつある、という状況にあります。

大林組のBIM取組事例 

そのような考えのもと活動してきた結果、設計から施工管理に渡る様々なフェーズでBIMの利活用が広がってきました。そして各段階で多くの「果実」が得られてきています。以降、今回と次回の2回に渡り、その果実にあたる具体的な取り組み例をいくつかご紹介していきます。

【設計】 確認申請関連業務におけるBIM活用

最初に設計段階における事例を紹介します。当然ながら設計BIMデータは、確認申請業務においても利活用されています。クラウドシステムを用いてモデルの情報を直接確認することで、実際の確認審査業務がスムーズに進むよう、効果的に利用しているのが特徴です。

建設DXの根幹にあるのはBIMデータであることは既に述べた通りですが、特に「設計BIMモデルを正しく構築すること」が全ての基本、1丁目1番地となります。そのため大林組では、設計部門が自ら協力会社とタッグを組み、SBSのルールに基づく設計BIMモデルを構築しています。

そしてそのBIMモデルの正しさを担保するため、品質チェックの枠組みを設けています。また大林組が開発したモデリング管理ツール「SBC」も利用するなど、生産側に正しい設計情報を渡すことも意図したモデル構築を行っています。

【生産設計】 次世代生産設計図

従来の業務スタイルでは、設計情報=設計図書(CADデータやPDF書類に記載の設計情報)を利用・参照し、2D-CADを用いて生産設計図を作図する方法が一般的です。しかし設計情報がBIMデータの形で提供される時代には、新たな生産設計業務の手法が求められます。「次世代生産設計図」は、BIMソフトの持つ機能を最大限利用し、2D加筆を最小限とすることができる工夫が成されていることが特徴です。

従来は1枚の図面に、関係する複数の工事がそれぞれ必要とする建築情報を集約して記載していましたが、次世代生産設計図は用途に合わせて必要な情報を抽出し表現します。

不要な情報をあえて表示しないことで、逆に必要な情報の認識が容易になり誤読を防ぎ易くなります。実際に利用している協力会社の評判も良好で、全物件の約67%で運用されています。(2023年度上期末実績)

次世代生産設計図の運用により、それまでの「設計図書を読み、書き写して図面を作る」という作業が「BIMモデルの中の正しい情報を抽出表示し提供する」という作業に置き換わりました。これにより情報の転記時に起きるヒューマンエラーや複数の図面間の不整合が大幅に減り、結果として生産設計スタッフが本来の生産調整業務により注力することが可能となり、業務の効率化が期待できます。

【生産設計】 鉄骨工事データ連携・デジタル承認

個別の専門工事においてもBIMが活用されています。ここでは、鉄骨工事を対象とした取組「鉄骨工事データ連携・デジタル承認」についてご紹介します。

1. 情報を連携する | 正しい一次情報を継承して詳細化を行う

「鉄骨データ連携・デジタル承認」は、鉄骨工事の製作図承認作業に関して、従来手法をデジタル化する取り組みです。そのうち「データ連携」は、主に構造設計BIMモデルの情報をデータ連携技術を用いて鉄骨工事向けBIMソフト(以下「鉄骨BIMソフト」)に取り込む手法です。

具体的には、内部データ形式が異なる鉄骨BIMソフトを利用していても、相互にデータを連携することができるように、当社独自の中間形式共通ファイルフォーマットを構築しました。またこのフォーマットを用いて主要な構造情報を各鉄骨BIMソフトへインポートできるよう、主要鉄骨BIMソフトベンダーにご協力をいただいています。

これにより構造情報がスムーズかつ正確に鉄骨ファブリケータ(以下「鉄骨ファブ」)の業務システムに継承され、以降の業務を効率的なものとすることを可能にしています。従来あった手作業等による情報の転記・入力などの余計な作業が無くなるのみならず、その際発生しうるヒューマンエラーの削減にも役立っています。

2. 情報を照合する | 図面ではなく「情報(データ)」で承認する手法を提案

次に「デジタル承認」に関して。

従来の業務では、鉄骨ファブ側で詳細検討された結果を基に製作図が作られ、元請けゼネコンのチェックを経て設計者に提出(承認申請)されます。設計者は自身の持つ設計情報(一般的には「設計図」)を正として、この確認作業が行われます。しかしデジタル承認の手法においては、設計情報と製作情報を図面ではなくデータで比較照合(=デジタル照合)することになります。デジタル照合では、承認申請用の出図や目で見てチェックする確認業務が軽減されます。

「データ連携」による正確な情報の継承、「デジタル照合」によるヒューマンエラー・作業量の低減、それらを含む「デジタル承認」により承認取得のワークフロー全体の効率化など、煩雑なフローの改善や正確性の担保が大いに期待できる取組です。但しそれを実現するためには、これまで述べてきたように、(照合元となる)設計情報の正確さが非常に重要になります。

まとめ

大林組は長きにわたり建設におけるデジタル化の推進を行いDXへ進化させる中で、その根幹を成すものがBIMであると考え、SBS・ワンモデル・一貫利用といったBIMの基本となる考え方と環境の構築を進めてきました。
その結果、途上である現段階においても、設計から施工管理など各段階において様々な取組が成されており、今後も更なる活用が期待されます。

連載第4回では、引き続き大林組のBIM取組事例、中でも施工管理段階におけるものについてご紹介します。