【連載】大林組のDX戦略|第四回「大林組のBIM生産基盤と取組事例 その②」

大林組はDX推進のため、2010年からBIMの導入を進めてきました。BIMデータを基盤とする情報管理を進めることで、2024年度末までのBIM生産基盤への完全移行を目指しています。本記事では、大林組のDX戦略とその根幹となるBIMについてご紹介します。

連載第4回は、前回に引き続き主に施工管理段階におけるBIMの取組事例についてご紹介します。

大林組のBIM取組事例

前回大林組のBIMの考え方・方針、そして設計・生産設計段階における取組事例の一部をご紹介しました。大林組のBIMは「BIMの木」を育てるが如く、根・幹と、まさに根幹となる部分を着実に成長させながら、将来の枝葉の部分に繋がるよう環境整備を進めてきた結果、設計から施工管理に繋がるワークフローに徐々にBIMが入り込み、目に見える成果をあげ始めています。その中心にある重要な考え方は、BIMを情報基盤とし、各段階でBIMデータなどの建設情報を構築し、育て、利活用し、繋いでいく、というものです。
今回は、施工管理段階におけるBIM利活用の取組事例をいくつかご紹介します。

【施工管理】 品質管理システム「GLYPHSHOT」とBIM連携

ここで紹介する「GLYPHSHOT(グリフショット)」は、大林組が開発した、20年近くの歴史を持つ品質管理用システムです。PDA(Personal Digital Assistant)上で稼働する初代から数え、現在のものはクラウド対応版の4世代目になります。

このシステムは標準的な検査の他、モジュールを追加開発することで異なるタイプの品質検査にも対応できるようプラットフォーム化しており、現在は簡易検査モジュールの他、仕上げ検査向けのモジュールや配筋検査用モジュールが搭載されています。その他適宜モジュールを拡充することで、現場で行われる全ての検査の実施、そして検査情報の集約管理が可能になります。
ここでこのシステムの重要なポイントとして、表現上2D図面ベースの検査システムに見えますが、システム内部では、BIMが現在のように注目される以前に開発された初代より一貫して、検査記録の位置情報を3Dで管理している、という点が上げられます。

大林組では、社内の配筋検査にGLYPHSHOTをほぼ100%使用しています。GLYPHSHOTでは検査すべき箇所が図面上に検査ピンで示されるため、検査漏れを防止して検査業務を効率化できますが、事前準備として図面を登録し検査ピンを配置する作業が必要です。そこで設計BIMモデルから必要な情報を抽出し、検査環境の効率的な構築を支援するREVIT用アドインを開発しました。
これにより従来の手間、時間、そしてコストが大幅に削減されることが見込まれており、現在この連携アドインの導入が進められています。

これを導入することによる、単にコスト等の削減効果以上に重要なポイントは、正しい設計情報を利用して環境を整備することで、1つにはGLYPHSHOT内の座標系をBIMモデルと等しくすることができること、そして、全ての検査記録が正しく位置情報を持ち得ること、にあります。

品質記録は建設の施工管理情報の中でも非常に重要度の高いものの1つですが、従来の検査手法では、検査記録は記録用紙への手書きであったり、たとえシステム上に記録されたとしてもほぼそのシステム内に閉じたものでしかないことが多く、十分に情報を生かしうるものにはなっていないと考えます。しかしあらゆる検査を基盤情報である設計BIMモデルに繋がる情報として記録されるシステム上において統一的に実施することで、全ての検査記録が共通の正しい位置情報を持ち、建設物に紐づく情報として集約管理され、また分析価値のある情報として利活用できるようになります。

前述の通り、当システムは初代が開発された20年近く前より、検査記録が正しい3Dの位置情報を持つ、ということが必須の要件である、と考えて開発されています。BIMが情報基盤となる時代に、その真価を発揮できるようになってきたと言えます。

【施工管理】 ビジュアルプロジェクト管理システム 「プロミエ」

「プロミエ」は、BIMデータを施工管理業務に効果的に利活用することを目的として、大林組が2020年から開発している施工管理向けシステムです。施工管理用BIMプラットフォームとして設計されており、プロジェクト管理やBIMモデル・情報管理を行う共通部分の上に、異なる用途のモジュールを「アプリ」として追加し、機能を拡張することができるようになっています。現在は「工程進捗管理アプリ」「コンクリート工事管理アプリ」の2つのアプリがあり、それぞれのアプリの中にある様々な機能が利用可能です。プロミエはWebアプリであることから、基本的に工事事務所のPCだけでなく、施工管理担当者(現場監督や作業員等)が持つiPhoneやiPad、Androidスマホなどのモバイルデバイスでも利用でき、施工現場での管理業務情報をリアルタイムで共有可能です。

ここから、下記の3つのポイントに分けて機能をご紹介します。

 ➀情報を蓄積する
 ➁情報を連携する
 ➂情報を利用する

1. 情報を蓄積する | BIMモデルと情報を紐づけて管理する

「工程進捗管理アプリ」は、任意の工種の管理部材毎に管理したい「工程」について、予定日と実施日を管理する工程管理機能を搭載しています。予定と実績を2画面に並べて表示したり、工程の遅延や前倒しに数を色分け表示したりする、また管理部材の属性情報やプロミエ上で入力した管理上の情報などを一覧表示できる等、様々な情報閲覧が可能です。

また実績と予定を比較したグラフ表示や、エクセルベースのテンプレートを用意することで任意のレイアウトでの出来高帳票出力なども可能です。その他、点群データと予定モデルを比較照合し実存判定する機能や、複数の異なる工事を一つの時間軸で統合表示する機能なども搭載しています。

施工管理担当者にとって工事工程の進捗管理は基本中の基本業務です。工種毎の進捗管理情報をBIMモデルに紐づけてクラウド上に集約・蓄積することにより、ユーザーが遠隔地にあってもリアルタイムに状況を確認することができる点、また蓄積された進捗情報や管理部材が持つ属性情報などを利用して毎月請求時の出来高査定等、管理者や現場施工担当者が日々の業務上手間と感じている作業の軽減など、蓄積された情報を積極的に利活用することで施工管理業務の効率化が図れます。今後もさらに効率的な施工管理に寄与すべく、現在は、そもそもの予定工程の検討を行う「施工計画検討機能」、そこで必要となるクレーン機能などを開発中です。

2. 情報を連携する|外部の既存アプリと連携し情報を流通させる

プロミエの工程進捗管理アプリには、情報蓄積・利活用のために、CSVファイル入出力によるものや、WebAPIを介したものなど、外部アプリ等との連携機能が搭載されています。

この機能を使い、プロミエとクレーンマシンガイダンスシステム(当社開発)の連携を実施しました。クレーンが部材を所定の位置に楊重・設置すると、設置完了情報がAPIを介してプロミエに送信され、実績情報として記録されます。これにより、施工管理担当者が直に設置完了情報を入力することなく、ほぼ自動的に実績情報がプロミエ上に反映されます。この情報は遠隔地(例えば工事事務所や所属の支店管理部署等)でもリアルタイムに確認することができるため、工程進捗情報の関係者間の共有が図れます。

このような機能を搭載した背景には、情報蓄積できる基盤があったとしても、その情報のインプット・アウトプットを行うには大きな手間がかかる、という問題があるためです。工程進捗管理は重要な施工管理業務の一つですが、管理すべき部材・項目は多岐にわたり、これを人力でのみ対処するのは非常に煩雑で業務量が膨大なものとなります。施工管理の効率化という観点から有効な自動化が必要とされており、今後もさらに求められていくでしょう。

なお現在では、クレーンマシンガイダンスシステム以外にも、大林組が開発した杭工事施工管理システム「杭番人」や、社外のシステムとの連携なども行われており、今後もアプリ間連携による情報流通・利活用は更に活発になっていくものと予想しています。

3. 情報を利用する|情報を参照、加工、処理、流通させる

プロミエには「工程進捗管理アプリ」の他「コンクリート工事管理アプリ」という「アプリ」(モジュール)があります。その中の「打設工区割り検討機能」は、いわゆるコンクリート数量算出機能です。ユーザーがアプリ画面上の範囲を指定することで、その範囲のコンクリートや左官工事の数量などを算出できます。指定範囲の境界が梁やスラブなどのコンクリート部材を跨ぐ場合も、内部の形状情報を加工し、境界ラインで部材を分割した際の正しい数量が算出できるようにしています。

現在BIMソフト上でコンクリート数量などを算出する方法はいくつかありますが、ユーザーがBIMソフトを扱うには、一般には難易度の高い操作を覚える必要があり、施工管理担当者がBIM利活用する際の高いハードルとなっています。しかしこのアプリではブラウザ上の簡単な操作でこれらを算出することができます。また従来のWebアプリでは工区を跨ぐコンクリートの正確な数量算出は技術的に難しいものがありましたが、このアプリではそれを可能にしています。今後は工区毎の鉄筋・型枠工事の数量算出機能や、コンクリート打設計画を行う機能の開発を検討中です。

またこのアプリには、コンクリートの温度ひび割れを検討できる機能があります(大林組技術研究所 開発)。打設工区割り検討機能で分割した工区モデルを用いて検証したい部位を指定し、BIMモデル内の構造情報を参照・利用する他、条件値等を入力することで、温度ひび割れ検討の結果を得ることができます。検討の結果NGと出た場合は、工区の設定からやり直したり、鉄筋量を変更して再計算したりするなどの繰り返し検討が可能で、結果の計算書が出力できます。

このようにBIMモデル内の設計情報を直接参照したり、BIMモデルの形状情報を用いたりすることで、従来手法よりも効率的で正確なアウトプットが得られ、従来行っていた施工管理上の検討や管理がより効率的に行えます。

また工程進捗管理アプリにおけるアプリ連携に見られるように、別のシステムなどで得られた情報を流通可能な形にして次のシステム等に繋げていくことで、二倍・三倍の効果を生んでいくと考えており、まさにそれが情報の一貫利用のメリットです。そしてこの「設計から生産、維持管理段階へ」という一貫利用の考え方は、BIMデータだけの話ではなく、今回冒頭でご紹介したGLYPHSHOTが扱う品質管理情報のような、工事管理業務の中で生成されるあらゆる情報についても同様です。

情報の流通により「次の業務へと引き継ぎ、利活用され、将来のプロジェクトへフィードバックされる」というサイクルが回ることが重要である、と考えます。

大林組のBIMの現況

大林組では、現在全国のほぼ100%の現場で、着工時に標準化されたBIMモデルが存在しています。標準化された設計BIMモデルから次世代生産設計図が出図できる環境が整備されており、全国の約2/3のプロジェクトで既に実施されています。

鉄骨工事におけるデータ連携、データ承認についても、実施される物件が年々増えています。さらに施工段階においては、各種情報を用いて、効率的、効果的に施工管理するソリューションも増えてきています。

これらの事例で示したように、大林組は、建設DXにおいては正しい情報を構築して一貫利用することがなによりも重要であり、今やBIMはその根幹に位置する「情報基盤」という存在であると考えています。

これまでのBIMは、その形状や表現をどう生かすかという面にフォーカスされていた印象があるかもしれません。
しかし今、⼤林組ではそのBIMモデルがもつ情報の面に注目し、そのBIMモデルから抽出されるデータ等の情報に関する利活用手法を建設業の業務にどう落とし込めばいいかを考えています。
まさに従来のBIM(=Building Information Modeling)から、新しいBIM(=Building Information Management)への移⾏、そのためのマインドセットの変⾰や環境整備を⾏っている段階にあります。

そして、情報を基盤とする業務の環境整備にあたっては、まず第一に、扱う情報の在り様をしっかりと規定する必要があると考えており、当社における情報の「標準化」に取り組んでいます。

建設業界内では「もはやBIMは既に競争領域ではない」と言われることが多くなってきています。その認識の上に⽴てば、BIMによる高い業務効率化のためには、建設業界におけるBIMの標準化は必須であり最優先事項であると考えます。

まとめ

前回に続き2回にわたって、大林組のBIMの考え方と適用事例をご紹介してきました。ここで示したように、重要なものは「情報」である、ということです。大林組は業務の中で、情報を集約し、連携し、利活用することが効率化に大きく寄与するものと考えています。次回最終回では、大林組が考える建設DXの要点についてご紹介します。