【連載】大林組のDX戦略|第二回「大林組が考える“建設DX”」

大林組は1970年代後期から、建設分野におけるコンピュータ関連技術の有用性を認識し、先んじて「デジタル化」を推進してきました。2010年にはBIMを建設業務に導入、現在はBIMデータを基盤情報として扱う業務枠組の構築を進めており、2024年度末までの「BIM生産基盤への完全移行」を目指しています。
本記事では、このような歴史を経て醸成された当社のデジタルに対する考え方、また中でも重要な技術であるBIMに関連した最近の事例などを交えながら、当社の「DX戦略」について、複数回に渡ってご紹介します。

連載第2回は、前回ご紹介した大林組のデジタル化の歴史を経た現在、大林組が建設DXをどのように考えているか、また具体的な取り組み内容についてご紹介します。

大林組の考えるDX

前回、大林組のデジタル化の対応の歴史として、コンピュータ技術の建設への利活用の模索に始まり、BIM対応、そして単なる利活用から、業務の変革を前提としたDXへの進展への流れをご説明しました。ここでは大林組が「建設DX」をどのようなものと考えているか、についてご紹介します。

当社が2022年に発表した「大林グループ中期経営計画2022」において、建設事業の基盤強化への取り組みとして以下の3点が掲げられました。

  • BPR:ビジネスプロセスリエンジニアリングによる抜本的な業務プロセスの変革
  • BIM:BIM生産基盤への完全移行による建設事業の情報基盤の強化
  • 全社的DX:バックオフィスのDX

この中で特にBIMに関しては「建設事業の情報基盤の中核をなす根源的な情報データベース」である、と位置付け、これを早期に生産基盤とすることが建設DXの要点である、との考えが示されています。

その上で、業務プロセスの変革、生産現場のみならず全社業務をDX化すること、が必要であり、このような取り組みを既存ビジネスモデルの進化・新規ビジネスモデルの創出に繋げることで、「DXによる大林グループのビジネス機会の追求」を目指す、という意思を示しました。

全社的DX |収益の根幹である生産DXを下支え

この図は大林グループのデジタル戦略構想を表したものです。建設事業の基盤強化に向けたDXは、「生産DX」と「全社的DX(バックオフィスDX)」とに区分されます。収益の根幹である生産部門におけるDX―「生産DX」を最重要とする一方で、生産部門を支援する部門におけるDX―「全社的DX」がそれを下支えするという構図です。そして全社的DXは、以下の4つが柱となっています。

  • データの構造や関係の再定義によるデータ資産価値の向上
  • ガバナンスとモニタリング強化によるICT投資の最適化
  • インテリジェントオートメーションによる「働きがい改革」の実現
  • すべての従業員を対象としたデジタル人材化

生産DX|業務プロセス変革とBIM生産基盤の両輪駆動

生産DXは、以下の2つの方針を両輪として推進されます。

  • BPRによる抜本的な業務プロセスの変革
  • BIM生産基盤への完全移行による建設事業の情報基盤強化

大林組は建築生産を事業の主軸としています。2024年問題などに代表される事業環境の変化に対応するためには、その建築生産の業務プロセスを根本から見直す必要があるとの認識から、業務プロセス変革―BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を実践し、その重要な基盤となるBIM生産基盤の構築を目指しています。

そのBPRを中心で支えるものとして、当社が開発した「BizXBase TM(ビズエックスベース)」があります。これはクラウド上で案件情報の一元管理を実現するシステムで、これまで紙やOAソフトで行っていた業務全てを対象に、当システム上で業務遂行できるよう移行を進めています。現在営業領域を皮切りに、土建の双方で業務プロセスを繋ぐ共通基盤として稼働しています。

また「建設PLMシステム」も導入を進めています。これは明細情報などの生産情報を一元管理し、整合性を担保する情報基盤を構築する取り組みです。製造業の情報管理の考え方である、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)の手法を応用しています。具体的には、BIMモデルから建物の部品情報を抽出して部品表を作成し、見積りシステムや原価管理システムとの連携を図るものです。

そして最後に、これら全てのDXの安全な運営を担保するのが、情報セキュリティであり、その強化も重要事項として取り組んでいます。

このような考え方に基づき構築したシステムを連携し、建築生産における重要な情報基盤であるBIMを唯一の正しい情報源として、そこから抽出したデータを基に業務を遂行する枠組の構築を進めています。

BIMからDXへ

連載第1回でもご紹介したこの図は、大林組が取り組んできた「BIMからDXへの深化」の状況を表しています。これまで述べたように、2024年度末にBIM生産基盤へ移行することを目標に当社の取組が進められています。

ここに貫かれている重要な考え方があります。それは「BIMデータもあらゆる生産情報も全てが等しく有益な情報であり、それらから必要な情報を抽出分析して事業運営に生かす」というものです。このような、情報を基にした、まさに「データドリブン」な事業運営こそが、建設DXの目的地であると考えています。

まとめ

大林組の建設DXでは、2024年度末のBIM生産基盤への移行を目標としています。その中で、BPRによる業務プロセス変革とBIM生産基盤への完全移行が進められているのが特徴です。全社的DXと生産DXの両方を行うことにより、根本的な変革が期待されます。
連載第3回では、大林組のBIM生産基盤と取組事例についてご紹介します。