維持管理BIMの現在と持つべき視点
これまで、BuildApp Newsの記事で、設計BIM(https://news.build-app.jp/article/21995/)や施工BIM(https://news.build-app.jp/article/24614/)のご紹介をしてきました。
本稿は、その次となる維持管理BIMについて解説します。建物のライフサイクルの大半を占めるのがこの維持管理のフェーズであり、建物の点検や修繕、場合によっては改修等が行われます。それらは、建物を長持ちさせるため、利用者に安心・安全に過ごしてもらうための業務であり、設計や施工とは業務内容が異なります。そのため、抱えている課題やBIMの活用方法も設計や施工とも異なるので、あわせてご説明します。
維持管理BIMとは
維持管理BIMとは、建物が完成した後の建物の維持管理においてBIMを活用することです。基本的に建物の維持管理は、その建物のオーナー、もしくは依頼を受けた管理会社などが行います。維持管理の担当者は、完成した建物の他に設計図書や竣工図などの多くの書類を受け取ります。
しかし、それら書類の情報量は膨大で、見ただけで全ては把握できません。書類にない情報も実際たくさんあります。手持ちの情報で掴みきれない部分については、機器類の専門業者に確認したり、実際に現地を確認したり、新たにデータを整えたりと維持管理業務を進めるにあたって、相応の準備が必要になります。
まずは必要な情報が全て揃っていることが前提で、あとはいかに必要な時に必要な情報を引き出し、活用できるかが業務効率化の観点では重要です。そこで、BIMの活用が考えられているわけですが、維持管理時にBIMを活用するメリットを下記に挙げておきます。
建物情報の一元化
建物に関する情報を一元管理できるため、情報の管理が容易になり、最新情報を活用しやすくなる。
正確性の向上
BIMデータを用いることで、様々な情報の確認や更新が容易になり、間違いが少なくなる。
建物情報の活用の幅の拡大
他の技術やツールとデータを連携させることで、さらなる業務効率化によるコスト削減や新たな価値提供ができるようになる。
これまで紙にのみ記載されていた情報、紙にすら記載が無く業者に聞かないとわからなかった情報など、様々な情報をまずはデータとして管理することで、その後の展開が行いやすくなります。維持管理では、設計や施工時とは必要な情報の種類や解像度が異なります。維持管理でBIMを活用するのは大きなポテンシャルを持っていますが、実際には維持管理フェーズでのBIM活用は、設計や施工と比べて遅れています。
その原因はいくつかあり、例えば、設計から施工にデータを引き継ぎにくいのと同様に、施工から維持管理でもデータの引き継ぎができていないのが実態としてあります。上流工程からBIMデータを受け取っても、それをそのまま活用できず、結果的に維持管理用に別のデータを新たに作っています。
また、国を挙げてBIMを推進し、建設業界ではBIMは知っていて当然のようになってきていますが、業界外のオーナーや管理会社がまだBIMに明るくないことも、維持管理フェーズでBIM活用が拡大しないその他の原因の一つです。
維持管理でBIMを活用するために
維持管理BIMにおいて、設計や施工でよく使用されているAutodesk社のRevitやGraphisoft社のArchicadは、BIMデータを確認するためくらいで、あまり使われません。Tekla StructuresやRebroなどの特定領域でよく使用されるBIMソフトも同様です。それらは基本的にBIMデータを作るためのソフトであるため、維持管理を行う人からするとオーバースペックである上に、使用目的も異なります。
設計から施工、維持管理と後工程になればなるほど、BIMデータを作ることよりも使うことの方に焦点が当たってきます。そのため、データを活用するためのツールやその業務フローの方が大切になってきます。例えば、BIMとIoT等の他の技術を組み合わせて、ビルを管理するWebアプリケーションを開発し、うまくBIMを活用して運用している会社もあります。
BIMとAIを組み合わせれば、これまで人が管理していた部分の置換、設備機器の交換時期や何か危険が及びそうな部分を事前に予測してアラートを出すなども可能になります。重要なのは、BIMデータを何のために使いたいかという目的をより明確に持つことです。マイナスを0にすることに加え、0をプラスにする側面、つまりコスト削減ばかりでなく、新たな価値を生み出すということもBIMには可能で、その切り口で可能性を探る方がもしかしたらBIMの活用が進むかもしれません。
実際すぐに導入しやすいのは、メリットの見えやすいコスト削減の方だと思いますが、例えばデジタルツインのような考えは、新たな価値を生む一例です。維持管理の期間は長く、かかるコストも大きいです。だからこそBIMを活用するメリットは大きいのです。
維持管理フェーズは、設計、施工とバトンを繋いできた最終フェーズであり、ここでデータを活用しないと非常に勿体無いことです。建物は、基本的に完成時以降は価値が下がっていきますが、BIMを活用することで、その価値を向上させていくこともあり得るかもしれませんし、それくらいムーンショットとなる目標を掲げるのもBIM普及の一手かもしれません。